第8話 何も悪くない
時は少し遡る
9月1日 AM7:00
俺は何も悪くない
『おはようございます!本日は9月1日始業式、通学路には元気よく訓練所に通う、子供達の姿が―――』
「あら才雅ちゃんどうしたの?朝ご飯全く食べてないじゃない?」
母さんの声に俺は憂鬱の中に沈ませていた意識を現実に戻す、声のした方を見れば母さんが心配そうに俺を見ていた。
「具合悪いの?今日は授業ないんだし大事をとって休む?」
「ううん大丈夫だよ、ただ今日先生に夏休みの課題に、兎を提出する事考えたら緊張してるだけだよ」
「あらまぁそうだったの」
『マスター、アサゴハンヲタベナイト、ノウノハタラキニ、エイキョウガデマスヨ』
「まぁ何て賢い兎さん何でしょう!大丈夫よ才雅ちゃん、こんなに素晴らしい物どこに出しても恥ずかしくないわ!胸をはって堂々と自慢して良いのよ?」
「…うん!そうだね」
母さんを心配させない様に俺は、苺ジャムをたっぷり塗ったパンを口いっぱいに詰め込むと、母さんは安心したのか俺の頭を撫でてから身支度を始める。
口の中のパンは少し入れすぎたのかなかなか飲み込めない、クリープを入れた珈琲を一口含んだら砂糖を入れ忘れていて、口の中に苦味が広がって苺ジャムと混ざり合う。
「(…不味い)」
更に飲み込めなくなって寧ろ吐き出したくなった、俺はテーブルの上にある砂糖入れに入っている角砂糖を3個、珈琲の中に放り込んで乱暴にかき混ぜ一気飲みする、口の中の苺ジャムと珈琲が混ざったものが胃の中に流し込まれ味覚も甘い珈琲で一掃される。
大人は珈琲を飲みながら朝食をとるけどやっぱり食事に珈琲は合わない、と思いながらもそこらのガキより優秀な俺は朝から珈琲を飲む。
それに母さんに授業が退屈過ぎて眠くなるから珈琲を飲みたいと、お願いすれば喜んでコーヒーミルで豆を粉砕するタイプの上物の珈琲を買ってきてくれたんだから、毎朝飲まないとせっかく買ってきてくれた母さんに悪いからだ。
「…兎、冷蔵庫から牛乳持って来い」
『カシコマリマシタ』
パンと砂糖で喉の水分を吸い尽くされた俺は、兎に命令して牛乳を持って来させる、その後ろ姿を見て何故か俺はコタローの後ろ姿を連想する、その場面が思い浮かんだら芋づる式にあの時の事を思い出して―――ああ゛あ゛!
俺はその記憶を掻き消す様にパンを食い破る、思い出したくないのに寧ろ正確に思い出されてしまう。
俺がA・Iのプログラムを組んでから一週間ぐらい経った時、コタローも俺の真似してA・Iの研究を始めた、俺の買い集めた関連プログラムの本や、俺が纏めたレポートを片っ端から読み漁り、俺のお古のパソコンにプログラムを打ち始めた。
俺の方が早く研究を始めていた、俺の方が今月買って貰ったばかりの最新のパソコンを使っていた、俺の方が…優秀の筈だった。
なのに
『やった!出来たぁ!!』
コタローがA・Iを組み始めて5日後、プログラムを組み込む過程で行き詰まって苛々していた横で、コタローの嬉しそうな声がした。
『…出来たって何が?』
『僕達の新しい友達だよ!』
『は?』
『A・Iが完成したんだー』
『…え?』
何を言っているかわからなかった、だって俺がまだ完成させていないものを、コタローが完成させたと言ったからだ。
『…っ何ふざけた事言ってんだよ!そんな簡単に出来る訳ねぇだろ!!文字の羅列組み込んだって実際にロボットが学習しなきゃ、完成したって言わねーんだよ!』
『あっそうか、じゃあ早速インストールしよっか!ボディどれが良いかな?』
コタローは発明品入れ箱を探っている間、俺はただ呆然とコタローが組んだプログラムを眺めていた。
『えーっと、あっ熊さんが良いかな!熊さんに友達になって貰おうよ!』
そう言ってコタローが持ってきたのは、俺と共同作業で作ったダンシング人形。
俺は兎、コタローは熊で外見は違えど同じ設計図、同じ材料、同じ機材で作った筈なのに何故かコタローの方が出来が良かった…俺に劣等感を抱かせた作品だった。
『えっと緑のコードはここでーこの赤色はここかな?』
コタローは劣等感を抱かせた作品に、俺が行き詰まって未だに完成させていないA・Iをインストールさせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます