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食器を洗い終え再びコタロー君の部屋に戻る、着替え終えたコタロー君はまた窓の外を眺めていた。


「外に何があるんですか?」

「ん?凄く綺麗な景色があるよ、しかも20階から何て始めてだよ」

「確かに…このホテルが建てられたのも、景色が良いからって理由でしたからね」

「へー…誰が建てたの?コルヴォさま?」

「いえ、先代が買い取る前の持ち主のホテルのオーナーです」

「何で潰れちゃったの?」

「そりゃ曰く付きだからです」

「…え?曰く付き?」

「ええ、先代に耳にタコが出来る程、繰り返し聞かされた話何ですが…」


ここはホテルが建てられる10年前までは霊園でした。


その土地の地主は人が死んだ後は、景色の良いこの場所で安らかに眠って欲しくて霊園を造ったそうです。


しかしその地主のバカ息子がこの景色に惚れ込み、父が死んで土地の権利を有して直ぐにホテルを建てる事にしたんです、最初はその近くに住む住民達も反対運動を起こし、止め様としたのですがそのバカ息子は権力でねじ伏せ、墓を取り壊しホテルを建てたそうです。


そしてそのホテルは貴族達に大評判のホテルとなり日を重ねる事に客足が増えていきました。5年が経ち最初は10階程度だったのですが常に満室となったホテルに、バカ息子は「こりゃ増築工事を始めにゃならん、よしドーンと20階にして最上階にわしの部屋も造ろう!」と一気に20階まで建てました。建て直した後は貯蓄が底を尽きそうになりましたが、すぐに取り戻せたそうです。


しかし増築工事をしてから数ヶ月後、ホテルは大火事となりました。


出火の原因はわかりません、しかし後の調べで分かったのですが、その日は毎年霊園に眠る魂達を鎮める為の、火祭りをする日だったのです。


ホテルが建てられた後も少し離れた場所で行われていた行事…しかし毎年その場から炊き上がる煙に腹を立てていたバカ息子は、増築を期にその行事を禁止する事にしました。


そしてその日の晩にホテルは全焼…火の周りが尋常ではない位、早く出火からたった一時間で全体に燃え広がった様です。


しかし不思議な事に燃えたのはホテルだけ…周辺に生い茂っていた森には、全く被害が及ばなかったのです。


周囲には天罰が下ったのだと噂が広まりました、バカ息子は住人達が逆恨みに放火したのだと周囲に訴えましたが、証拠が無い為にその訴えは無視されてしまいました…しかしバカ息子は懲りておらず再びホテルを立て直し、その利益で住人達全員を有罪にして、処刑する為の資金を集め様と多額の借金をしてまで再びホテルを建てたのです。


すぐにまた繁盛して借金も返せると高をくくっていましたが、勿論そんな曰く付きのホテルに泊まりたがる客がいる筈も無くホテルは大赤字、借金は返済日を過ぎどんどん膨らんでいき遂にそのバカ息子は、ホテルのロビーで首を吊って自殺したのです。


その土地は直ぐに買収されました、しかしいくら景色良好で立て直された新築ホテルがあれど、そんな忌まわしい事件があっては誰も買い取る事は無く、その土地の価格は10分の1まで下がりましたが誰も近寄ろうともしません、周辺に住んでいた住人もその土地から離れていったそうです。


誰も買いたがらない曰く付きホテルを、5年前に物好きな先代が買い取ったのです。


「…何でそんな怖い所先代さんは買い取ったの?」

「先代は変わり者でしてねぇ…極度のオカルト好きで幽霊が見れそうという理由で、このホテルをアジトにしたそうです」


本当…とんだ変わり者でした。




『新聞にデカデカと載る程の大事件が起こった曰く付きホテルに闇の者が2人…いつ幽霊が出てきてもおかしくないのに一度もお目にかかれんとは何事だ!』

『知りませんよ』

『…ボス、闇の者と霊能者が似ているという話は良く聞きますが、根本的には違いますので『バターとマーガリン位の違いだろ!似てるからイケる筈だろ!?』…残念ながら無理です、というか全然違います』

『やっぱり霊能者じゃねーと無理なんかなー?でも霊能者から巫女や陰陽師まで育つのって、1000人に1人って言うからそうそうお目にかかれねーんだよな〜』

『何故そうまでして幽霊に遭遇したいんですか?』

『だって幽霊を見れる様になったら会えるかもしれないじゃん、親友に』

『『…』』

『会って一言謝りてーんだよなぁ、だから幽霊見れる日までぜってー諦めねーぞ!』

『コルヴォ様、そろそろ仕事しませんと残業になりますので、カルロさんの話はその辺で打ち切りましょう』

『ねー紅菊ちゃん、俺一応ボスなんだよ?何で側近のコルヴォに様付けで俺にゃーさん付けなの?』

『私が組織に入ったのはコルヴォ様に忠誠を誓ったからです、それに引き換え仕事せずに遊んでばかりのカルロさんのどこに慕われる要素があるのです?』

『紅菊ちゃんたら冷たーい…いいもんいいもん!何年かけてでも口説き落として見せるからさ!』

『良い年したおっさんがもんだなんて言わないで下さいよ、気持ち悪い』

『!?っ…ぅうう(マジ泣き)』

『紅菊…言い過ぎだ』

『…(ぷいっ)』


そんなカルロさんは昨年に他界、死因は抗争に巻き込まれそうになった女の子を助け、銃弾を体中に浴びた事による出血死。


「もしかしてここって幽霊出るかもしれないの?」

「さぁ?ここで2年間勤めていて一度も見てませんけど、出るかもしれませんね」

「廊下真っ暗なのにナナシお姉さんは怖くないの?僕怖いよ〜」

「全然恐怖など感じませんよ…私も闇の者になって、こちら側の住人になったからでしょうかね?」

「こちら側?」

「…」


「キャァァアアアァァァアアアアア!!」


「「!?」」

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