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「ところで…熊さんって何なんですか?」

「え?」

「なぜぬいぐるみが歩いて話して仕舞いにはワイヤーを使いこなしているんですか?」

「熊さんはね、A.Iをインストールしたぬいぐるみなの!」

「A.I?…最近は高度な技術を惜しみなくおもちゃに使うのですね」

「違うよ、熊さんのA.Iは僕がプログラムを組んだんだ!!」

「…あなたがですか?」

「そうだよ!」

「?…さっき何組って言ってましたっけ?」

「いらねーI組!」


思いっきり矛盾してます。それともコタロー君の通う訓練所はレベルが高くて、A.Iのプログラムを組めても最下位なのでしょうか?


「本当にあなたがやったのですか?さっき成績下から数えた方が早いって言ってませんでした?」

「う…うん、去年まではそうだったんだ」

「どういう事ですか?」

「あのね…2年前から流行ってる風邪に感染しちゃってすっごい熱出して、それから頭良くなったの」

「2年前の?2年前といえば…」


2年前、日ノ本が有する領土をめぐり敵国との戦争が勃発した。そして戦時中…敵軍により人が生きていくに欠かせない水を溜め込む貯水池に、腐敗した動物の死体を投げ込まれる事件が発生した。


腐敗した血肉が溶け込んだ水から疫病が蔓延し、多くの日ノ本人が死に追いやられた。


そのウイルスは新種のバクテリアであり、ワクチンは1から作らねばならなず、ワクチンの製造が遅れた事と死体が放り込まれた時期は大量に水分が必要とされる夏季。貯水池が封鎖されるまでの間にその水を口にした者達から、尋常ではないスピードで感染していった。


ワクチンが完成された後も感染者の多さから、軍の関係者とワクチンの製造に多額の援助を出した企業や、華族を優先的に回される事となった。


疫病による死亡者は人口の5分の1…その病で日ノ本軍の体制を崩された事により戦争は敗退。その影響で物価が上がり一部の貧民が餓死した。


病死・餓死した家庭は主に庶民・貧民の者達だった。


世間は「増えすぎた人口を減らす為に、わざと流行らせたのではないか?」と不信感を露わにしたが、2年経った今ではワクチンの製造に余裕が出来、その噂を消し去るようにワクチンが無料提供される様になり、ウイルスの大半が死滅している。


しかし合計日ノ本人口の5分の1が死亡、そのウイルスは重症の者の脳に爪痕を残し、食糧難は改善される事の無く物価は上昇したまま、日ノ本に多大な損害を残す結果となった。


「…あなたは脳に後遺症が残る様な重い病に犯され逆に知能が上がったと?」

「うん…すっごく苦しくて、涙出ちゃうくらい頭が痛くて、凍えそうに寒くて死んじゃうかと思った。…でも風邪が治った後ね、なんか視界が広がった感じになって頭の中が凄くスッキリして、先生が言った事や、教科書に書いてある事が全部頭の中に溶け込んでいったの」


だからそれが面白くて、小訓練からの教科を学年順に読み返していったんだ〜っ。と嬉しそうに語るコタロー君に私はまだ信じられないでいた。


「本当ですか?今までの言動から頭良く見えないのですが?」

「本当だよー、前は九九覚えるのに1ヶ月以上かかったのに、今じゃ三桁のかけ算も一瞬で出来るようになったんだ!試しに何か問題出してみてよ」

「では…258×369は?」

「95202!!凄いでしょ!!」

「…今ここに計算機がないので、あっているのかどうかわからないのですが」

「あっ!そうか」

「まぁ嘘では無さそうですし、どうやら本当の事の様ですね」


急激に上がった知能に精神がついて行けてない…完全に振り回されてますね。

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