5

天才は100人力


能力者は1000人力


霊能者は他力本願


闇の者は人外だから手を出すな


どこかの軍師が戦力で例えた言葉である訳ですが…闇の者でありながら、ぬいぐるみ相手に拘束された私は相当のマヌケという事でしょうか?


『紅菊、確かにお前の能力は相手に触れさせる事すら叶わん手強い能力だ…だがそれは飽くまで闇の中での話であって、日の当たる所では常人に戻る。己の能力を過信し過ぎるな』


目の前で脱出の相談をする少年と熊さんを見ながら、コルヴォ様に教えて貰った言葉を思い出した。


熊さんにワイヤーで縛られた時、私の体は部屋の奥に逃げた少年を追う際にカーテンが開け放たれた窓の前で、日の当たる位置にいて影に触れていない状態だった。…いやすぐ側にあるベッドや、椅子の影に触れさえすればワイヤーなんてすぐに抜けられるんですがね?


絶対に他人に捕まらない自信があったのに、こうもあっさり捕らえられた自分に、少しばかりショックを受けました。


「…(しかしこれが暗殺者の銃弾だったらと思うと、本当ゾッとしますね…以後用心しましょう)」

『昨日1日アジトを探索した所、ここは窓から脱出する事をオススメしますニャン!!』

「う…うん!わかった!!」

「あっここは…」


少年は窓に駆け寄り、窓を開け身を乗り出そうとするが、少年は窓の外を眺め唖然とした、何故なら…


「ここは地上20階です」

「に…にじゅっかい?」


窓からの強風に煽られながら少年は青ざめた。


『マスターどうしたんですニャン?パイプ伝って降りますニャン!』

「梯子もないのに無理だよ…そんな事出来るの忍者だけだよ」

「例え20階分の縄梯子があったとしても、降りるのは不可能だと思いますよ?窓からの脱出は諦めて下さい」

「う…うん」

「とりあえず考える事は座ってでも出来ます。ベッドに腰掛けたらどうです?」

「え?う…うん」


窓を閉め熊さんにどうしようか?と問いかける少年に私は絶対安静の言葉を思い出し、少年に座る様に問いかければ素直に応じる。少年はベッドに腰掛けながら私を見つめ始めた。


「…」

「…」

「…なんですか?」

「お姉さん…幽霊じゃないの?」

「ええ、心臓も鼓動しますし呼吸もします…生きてますよ」


再び沈黙を始めた少年、しかし彼はベッドを降り、私の髪を撫で次いで頬に触れ始めた。


「本当だ、人間だ!」

「納得して頂けて何よりです」

『マスター!なに悠長に話をしてるんですニャン!!』


先ほどから黙って窓の外を見ていた熊さんが少年に叫ぶ、手にはどこから入手したのかハンカチが掴まれていた。


『もし助けを呼ばれたら大変な事になりますニャン!これで猿轡をしニャければ!!』

「ぇえっでも…」


熊さんの提案に困惑した表情で少年は私を見た。


「猿轡なんてしなくても誰も来ませんよ」

『「え?」』

「最上階の20階から10階まで、幹部の方でも仕事以外で私とコルヴォ様以外の立ち入りは禁止しています。例え私の声がどんなに大きくても誰も来ませんよ」

「そうなんだ…?」

『確かに10階から人の気配がニャくとても静かでしたニャン』

「お姉さん」

「何ですか?」

「コルヴォさまって?」

「あなたをここに連れて来た人ですよ」


ん〜?と首を傾げる少年…何ですかその反応。


『あっあの人ですニャン!マスターを連れて行った…』

「熊さん知ってるの?」

『え?』

「覚えてないんだよね〜昨日の事、ところでなんで僕包帯巻いてるの?」


何か肩と頭ズキズキすると頭を抑える少年、一昨日の事を覚えてない?…あっ。


『銃弾が一発肩に当たった…弾は貫通したが打たれた際に階段から転げ落ち気絶した、かなりの高さから落ちたから骨折の可能性もある』


転げ落ち気絶した…もしや頭を打って気絶した?そしてそのショックで記憶が吹っ飛んだのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る