第50話 四大欲求


「お兄様が、王都の勇者シリーズを買い占めたのは、マイコ先輩が、来た後です。ハルカ先輩は、その普通にアホと言うか英語が出来ないだけです」


「こら、トモー」


「ドンマイ、ハル。ねぇ、自由にアバターって増やせるの?」


「自由にって、訳じゃなくて、そのアプリ一つにつき、アバター、一つなんですよ。ただ、このアプリは、コピー出来まして、部室のパソコンが、親機といった感じでしょうか? ハルカ先輩もマイコ先輩も、自分の端末で部室のやつを、コピーして、始めたのです。だから、部室のやつは、お兄様が、主人公で、あとは端末本人が主人公になります。なので、私はマイコ先輩の端末の過去ログを見て、グエナさんのグミエさんに対する魔法を知っているのです。マイコ先輩は、闘技大会一日目が終わって王都に、戻る用事があって、そこで魔法を買ったグエナさんと鉢合わせたんです」


「おお、なるほど」


「でも、ここで、大問題が起こったんですよ。ハルカ先輩とマイコ先輩のアバターに暴走族の記憶を埋め込んだせいか分からないのですが、性格がオープンになったと言うか、こっちだと、お兄様に好き好きオーラ出しまくりじゃないですか? 日本では、そうじゃないんですよ。本人たちは、隠してるつもりみたいで、周りにはバレバレなんですけどー、だから、このアプリを見られて、お兄様に、好きがバレるのが嫌なのか、ハルカ先輩は、部室のパソコンを封印したんです。幸いお兄様は、もうこの、優しい世界を、見ていなかったので」


 そういえば、いつの頃からか、頭に響く声が聞こえなくなったのは、封印された為か。ダンジョン生活が正解って訳じゃ無かったのか……。


「マジか……じゃあ、俺はどっちとも付き合ってなかったんだな?」


「はい。お兄様は、私のものです」


「優しい世界ってのは?」


「それは、この世界のタイトルですね。ハルカ先輩がつけました。犯罪とか無かったですよね?」


「うん。不自然なほどにね」


「初期設定で、ハルカ先輩が、この世界の住人の本能レベルみたいなやつを、変えたんですよ。自由にアバターが動いちゃう訳ですから、文化祭用ですし、全年齢対象にする為に、三大欲求をイジったんです。まず、性欲を低めに設定して、夜の無い世界ですので、睡眠欲も低くして、それだと、必然的に、食欲ばかりの世界になってしまうから、もう一つの欲を足したんです。良い人になる欲です。この世界は、四大欲求なのです」


「なるほど、面白い事考えたな、ハル」


「そうかなぁ? なんか照れる」


「ここにいるハルちゃんじゃないでしょ」


「私は、私だよ」


「この設定には、私も感謝してるんですよ。だって、グミエさんと、グエナさん、どちらもカワイイじゃないですかー? 一緒に住んでるんですよ。アバターとはいえ、いつお兄様の貞操が奪われるか心配で心配で」


 トモエは、抱きついてきた。


「なあ、トモエー、お前、俺の妹なんだよなぁ?」


「……えっ、何言ってるんですか? お兄様」


「ちゃんと、答えなさい!」


「まあ、戸籍上は、妹では、無いですが……」


「トモエ、苗字は?」


「し、清水、清水巴です」


「トモちゃん? だって、聖女は嘘つけなかったんじゃないの?」


「嘘は、ついてません。みなさんが、勝手に勘違いしただけです。私は、自分が、お兄様の妹だなんて一言も言ってません」


「トモ、嘘つくなよ」


「嘘じゃないです。日本では、お兄様が、私の事、妹よーって、かわいがってくれたって言っただけですぅ」


「じゃあ、何で、お兄様なんて、呼んでるんだよ?」


「ただの、愛称ですよ」


「カズくん、虹アタックしていい?」


「いや、ダメでしょ」


「トモ、まず、カズから離れなさい」


「イヤですぅー。私は、ずっとお兄様と一緒なんですぅー。お兄様も、日本で、俺は妹と結婚するって言ってましたー」


「カズ……」


「カズくん、シスコン」


「褒めるな、褒めるな。トモエ、じゃあ俺の本当の妹は、どうしてる?」


「私ですよー。まぁ、お兄様に戸籍上の本当の妹は、居ません。でも、私が、本当の妹になってみせます」

 

 妹が、いないだと……。


「なぁ、俺に本当の妹がいないってのは、本当なのか? 事故でとか?」


「本当ですよ。聖女嘘つかないです。元々居ないですよぅ」


「は? じゃあ、何で俺は、妹が好きなんだ?」


「そんなの、知らないですよ、オタクだからじゃないですか?」


「ごめん、今までの話しの中で、一番意味がわからない」


「大丈夫ですよ、お兄様。私が本当の妹になりますから、こっちの世界でも、日本でも」


「そうか、ありがとう、妹よ」


「だから、違うんでしょ? 離れなさいよ」


「いや、この際、もう、血の繋がりとか、どうでもいい。俺は妹が、好きだ。こんなに懐いて妹になってくれるというトモエをどうして、離す事が、出来るだろうか?」


「はーっ? じゃあ、私も、妹になるわよ」


 そう言って、マイは抱きついてきた。それを見たハルも抱きついてきた。

 何だコレ……。


「なぁ、ハル、マイ、あの使徒見てみろ。俺が描いたらしいぞ、と言う事はもう日本で、俺はコレを観ているって事にならないか? いいのか?」


 二人は、無言のまま抱きついている。その時、頭に響く声が、


「ねえ、カズ、あんた何してんのよ?」


「うぉ、ホントにハルなんだな、作者。日本でも正直になった方がいいぞ。たぶん、日本の俺も、心は狭く無いはずだ。妹として受け入れてもらえ」


「妹なんて、イヤよ。それに、私はカズの事好きじゃないんだからね、勘違いしないでよね」


「いやいや、そんなテンプレセリフ無理ない?」


「誰かが、勝手に設定したのよ。カズの事好きって」


「そんな事出来るの? 誰が? 部員て、四人なんだよね? その設定、誰得よ?」


「う、うるさいわね、そんな事より最後の願いは何よ? はっきり言うけどね、カズが描いたダサいロボは倒せないわよ」


 俺が、本当に描いたのかアレ……下手すぎん?


「ずいぶん自信ありそうだな。じゃあ、賭けをしないか?」


「賭けって何よ? そもそも、三つ願い叶えたら、未来都市で、ダサロボと、闘って倒すって約束でしょ?」


「そうなんだけどさあ、まさか俺達が作者って思わなかったからさあ、まあ、いいじゃん。そこにマイは居ないのか?」


「居るわよ。いいわ、じゃあ、話しだけ聞いたあげる」


「最後のお願いを聞いて貰って、24時間以内に俺が使徒を倒せたら俺の勝ち。倒せなかったら、日本チームの勝ちで、どう? 図書館とか、潰して、使徒の弱点とか、俺達の覚醒とかの本が、俺達に読まれなかったんだから、楽勝でしょ?」


「カズ、やっぱり、バカなの? そもそもそう言うんじゃないんだよね。で、何を賭けるの?」


「そうだなぁ、俺の勝ちなら、素直になって、そっちの俺からの言う事を一つ聞いてくれるってのはどう? 負けたら、俺が、この世界で日本のハルが、面白いと思う行動をとり続ける。もちろん何年かかっても使徒は倒す。俺のお願いを聞けないってのも、日本チームの負け」


「ははは、面白いじゃない。いいわ、乗ってあげる。ただし、こっちからも条件出すよ」


「いいよ。マイもいい?」


「いいって、言ってるわ。こっちからの条件は、そっちの私とマイコも、一緒に住んであげて、私はカズの事好きじゃないけど、そっちの私はまあ、好きみたいだし可哀想じゃない? そして、トモは、追い出して」


「お兄様、いやです。そんな条件絶対ダメです」


「大丈夫だよ。トモエ。お兄ちゃんを信じなさい」


「わかりました。お兄様。信じております」


「やったぜ、リア充確定!」


「お兄様? 日本のお兄様が何お願いしても、お兄様には何もありませんよ」


「まあ、そうなんだけどさ、俺、可哀想じゃんだって、オタクでボッチだって、それに、この世界のハルとマイに色々言う事聞かされたんだ、今度は日本の俺の言う事も聞いてもらいたいじゃん」


「お兄様! 私がいますわ、ボッチになんてさせません」


「おお、我が妹よ。日本でも頼むぞ」

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