第33話 講釈
「すまない。勇者最上殿、負けたのに治療まで」
「うん。じゃあ、まず約束の俺の言う事一つ聞いてもらうよ」
「ああ、なんでも言ってくれ」
「バーリエさんが、騎士団を、やめない事」
「は? 何を?」
「だから、初めに俺に負けたら騎士団を辞職するとか言ってたじゃん。それをしない事が、俺からのお願い」
「……わかった」
「うん。じゃ話しをしよう」
「その前に、聞いていい? 今日はマイコは? 騎士団員になったんだよね?」
「ああ、いつもは、真面目に稽古しているが、最近なんか貴族を奴隷にしてくるって、王都中を駆け回ってるみたいだ」
マジか……。
「ごめん。話しを続けるね。みんなはさあ、図書館にある、おとぎ話の英雄譚みたいの読んだ事ある?」
「ああ、いくつかはある」
「ダンジョンの魔族を狩りまくってる俺が言う事じゃないと思うけどさぁ、ああいうのに出てくる英雄ってキライなんだよね。その英雄が、襲ってくるやつから国を守ったとかならいいんだけどさあ、大体が、魔王を倒しに行って、倒した。とか、ダンジョンに乗り込んで、最後のボスを倒したとかでしょ? 俺が言う事じゃないけど……」
「まあ、そうだな」
「それって、住処を荒らしに行ったやつを褒め称えてるんだよ。だって、自分の家に強盗が入ってきて、全員殺して、家の中の物を全部盗んで行ったやつを褒め称えるって事だよ。嫌でしょ。俺が言う事じゃないけど」
「その英雄の敵側からしたら、そう言う事じゃん。そりゃぁ、やり返すさ。それで、違う種族と対立して、戦争になるんだよ」
みんな、聞いてくれている。
「俺は、良い人のつもりもないけど、悪い人のつもりもないんだ。でも、この世界に来て常識が、違って、まだ理解出来ない事もあるけど、ステキな世界だと思った。だって国内なら、俺が思う悪い人がいないんだもん」
「じゃあ、日本人が思う良い人って何だ?」
「うーん? その質問は難しいなぁ。逆に聞くけど、この世界の良い人は、王様が決めた法律を守る人なんだよね?」
「そうだな。みんな良い人でいたいからな」
「そこが、たぶん違うかな? 良い人でいたいってのは、わかるけど、例えば、例えばだよ、王様が、自分の親を殺しなさいって、法律を決めたら、殺す人が良い人なの?」
「そんな法律を決める訳がない」
「だから、例えばだよ」
「……、考えた事も無いが、そうだな。良い人だな」
「じゃあ、そんな人を好きになれる?」
「んー、どうだろうな、すまんが、わからない」
「自分なら、親を殺せる? 良い人でいたいんでしょ?」
「私には、殺せないな。その場合は、国を出ていく事になるな。国家反逆だ」
「でしょ。それは、その時点で、悪い人になりたいって事にならない?」
「確かに、そうだ。すまん、本当に考えた事がない。では、日本人は法律を守らなくても良い人がいると? 魔王も勇者鈴木も、同じ考えなのか?」
「うーん。それも難しい質問だなぁ……。でも、もちろん全ての法律を守らなくても良い人は居ると思うよ。そもそも、全ての法律守るなんて無理って思ってるし……」
「そうなのか? 日本という国は大丈夫なのか?」
「ゔっ……痛いところを……、これは、こっちの世界で、体験したんだけどさ、無人料金所に置いてある箱にお金が入りきらなくてさぁ、その外にお金が置いてあったんだよ」
「ああ、それは仕方ないだろう」
「あ、いや、そういう事じゃなくて、日本では考えられないというか」
「では、日本では、そういう、お金が払えなかったらどうするんだ?」
「だから、そう言う事じゃなくて、日本だと、外にお金なんかあったら、盗まれるって話しだよ。それに、無人料金所なんて、払わない人もいるだろうし、下手したら無人料金所の箱を壊されて、盗まれるって話」
「は? そんなに、悪いやつがいるのか? まさか盗んでも犯罪じゃないとか? 本当に日本は大丈夫なのか?」
「盗んだら犯罪だし、全員がそう盗んだり、無賃で利用したりはしないんだけど、なんか、こう欲に負けると言うか、もちろん、みんな良い人でいたいとは思ってるんだよ。たぶん」
「思ってないだろ。警察官を増やすべきだな」
「あれ? なんか話しそれてない?」
「確かに、何の話しだったか?」
「まとめると、まとめになって無いかもだけど、とにかく、魔王に先に手を出さないでって話し、魔王が先に何かして来たら止めない。たぶん本当の俺の思う良い人なら止めるけど、さっき、言った様に、俺は良い人のつもりも悪い人のつもりも無いから。例えば、先に手を出して魔王を倒せたとしても、魔物を全滅させるわけじゃないよね? 食べていけなくなるだろうし、残った魔物が仕返しに来ても文句言えなくなるよ。もちろん、俺もそれを止めないし」
「それは、承諾しよう」
「ありがとう。この場合、魔王でも、国側でも俺の中では先に手を出した方が悪い人」
「ダンジョンの件は?」
「……えっ? ……ああ、そこは無法地帯って事で、おなしゃす。でも、手に入れたポーションとかは全部、王都に売る事を約束するよ。俺ら使わないし」
「まあ、我々にどうする権限もない。そもそも無法地帯で、だから力で解決に、来て、敗れたのだ。何も言えない」
「でしょ。俺ら悪くないよね?」
「ああ、そういえば、ワープポイントの11階層から行った冒険者パーティーの、一人が帰還して、言っていたのだが、その辺に落ちてるクリスタルを拾いまくっていた、飛ぶゴリラに、自分以外の仲間がやられたって言っていたぞ。そのパーティーも落ちてるアイテムを拾っていたそうだが、その階層に現れる様な強さじゃなかったとか。で、そのパーティーが集めたアイテムも全部ゴリラに奪われて、命からがら逃げてきたそうだ。何か知っているのか? 新種か?」
「……えっと、さぁー新種かなあ? あはは」
「カズキ、話しは終わった?」
「カズキさん、早くダンジョン行きましょうよー」
「うん。今行くー」
「今から、ダンジョンなのか?」
「そだよ」
「我々、いや、私と副団長だけでも着いて行っていいだろうか? 迷惑はかけない。足手まといなら、置いて行ってもらっても構わない。是非、勉強させてほしい」
「いや、それはちょっと……」
「カズキー、いいんじゃないの? 着いて来れればだけど」
ん? ダメだろ。罠バレちゃう。……なんか、悪い顔してるな。
「さあ、カズキ、いこー」
「あ、うん。わかった」
「かたじけない。感謝する。グミエ殿」
「ほら、カズキ、ワープするぞ。騎士団のお二人も」
「すまない。何階層に行こうとしているのだ。ワープが起動しない」
「えと、今日は、31階層のワープからだね」
「は? そこは、未到達領域では? 30階層のボスを倒したのだろうか?」
「私が倒した。確か、ノーダメだったな」
騎士団の二人は固まってしまった……。
これ、グミエ。わざとだな。
「行けないんじゃ、しょうがないですね」
「ですね。私達だけで、行きましょう」
また、グエナちゃんまで……。
「じゃあ、申し訳ないけど、そう言う事で、俺ら行ってきます。ああ、もちろん、ダンジョンも俺達の家も無法地帯なので、いつでも襲ってもらって構わないですから、ただ、家に、攻撃するならあまり強すぎる攻撃はオススメしません。反射して、死にますので。では、また」
よし、いろいろ講釈たれて、ダンジョンは、うやむやに出来たぞ。グミエ嘘ついてたな。30階層ボス結構ダメージ受けてたよな……。
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