第32話 団長

 それから、数日後、いつも通りダンジョンへ行こうとすると、家の外に、バーリエさん含む、騎士団の人たち20人くらいが、並んでいた。


「勇者最上、貴殿が、ダンジョンの魔物を一人で駆逐しているという噂がある。本当か?」


「えと、まあ、ほぼほぼ本当ですが……」


「どうやっているかは、知らないが、それをやめていただきたい」


「えと、何でですか?」


「冒険者の人たちが、困っているからだ。特に若い冒険者は、浅い階層で腕を磨き、ドロップ品などで生活をしている者も少なくない。それが、1階にしか、魔族がおらず、5階層の扉は一向に開かない、20階層に行ける上級冒険者も、最近、魔族が出現しなくなり、25階層の扉が開かないと報告を受けた」


 なるほど、ボスのリスポーンまで扉は閉まりっぱなしなのか、俺の罠なので、俺の奴隷達は入れるけど……。


「んと、例えば、それを俺がやっているとして、何か問題があるんですか? 例えば、法に触れているとか」


「もちろん、法の外の場所なので、違法って事はないが、ポーションなどの物資も不足している。それに、最近、魔王が現れて、回復薬や、強い戦士が必要なんだ」


「えと、国は、魔王を倒す気なんですか?」


「それは、もちろんだ。その魔王はとても強いのだ。それで、近衛騎士団も、戦力強化の為に、ダンジョンのレアなドロップ品や回復薬などを大量に欲している」


「えーと、なぜ魔王を倒すのですか? 魔王が国に何かしましたか?」


 まあ、ポーションなどの独り占めは、悪かったと思うけど、でもちゃんとギルドに売ってるしなぁ……。


「まだ、特に何もされてはいないが、されてからでは、遅いではないか」


 まあ、言おうとしてる事はわかるけど……。


「魔王は、何もしませんよ」


「なぜ、貴殿にそのような事がわかる?」


「友達だから」


「わからないではないか。もし、国が襲われたらどうする? とんでもない強さなんだぞ」


「とんでもない強さってのは、わかりますけど、じゃあ、例えば、騎士団の準備が整ったら、魔王を倒しに行くって事ですか? 何もしてないのに?」


「勿論だ。貴殿が魔王を友達ではなく、奴隷にしてるって言うなら、何もしないと言うのは納得出来るが」


 なんか、ムカついてきたな。


「じゃあ、魔王が国に被害をもたらしたら、倒しに行くというのはどうですか?」


「だから、それでは、遅いと申している」


「国が、やろうとしている事は、貴方達が、魔王ならやるって決めつけている事をするって事ですよ。先に手を出したらアカンでしょ」


「しかし、魔王なのだぞ」


 話のわからん人だな……。


「うーんと、魔王も人間なんだよ。俺と騎士団に入った、鈴木麻衣子と魔王の中村遙は、日本からきた人間なんだよ」


「でも、魔王が空を飛んで行ったという報告も上がっている」


「……俺だって、空くらい飛べるよ」


「普通の人間には、飛べないんだよ」


「じゃあ、俺も普通の人間じゃないな。討伐するかい? 実はそのつもりで来たんじゃないの? その人数で、そんなに、全身武装しちゃって、それに、そこの奥の人、俺に鑑定使ってたよな? 感知も持ってるんだ。鑑定出来ないように、妨害してるけど」


「あんまり、近衛騎士団を舐めないでいたたきたい」


「あれれーおかしいぞー、まだ攻撃してないのに、後ろの魔法のローブ着てる人、なんか焦げてない? 魔法でも跳ね返ってきたのかな? 人の家に魔法は撃っては行けませんって学校で習わなかったのかな?」


「カズキさん、誰のモノマネですか?」


「あ、いや、ごめ」

 

 近衛騎士団は、陣形を組み、全員構えた。

 一番前に出てきた、このデカいシールド構えてる人が、旦那なのかな? スキルマスターとかいう。


「グミエ、グエナちゃん、どうする?」


「もちろん、私達は、カズキについてくよ」


「国と対立とかになって、王都行けなくなったりとか?」


「何、言ってるんですか? ここ国外ですよ? だから人殺しても良いって何回言えば……」


 ……その感情がまだわからないんだよね……。


 でも、まあ、脅すだけにしとくか……。


「あのさぁ、ホントにヤル気なの?」


「貴殿は、ダンジョンを解放する気はなく、魔王の討伐に反対なのだろう? ならば、仕方ない」


「うーん……、じゃあ、ルール決めよう。これじゃ弱い者イジメになっちゃうから」


 あれ? 国外とかだと、ルールとか意味ないのかな……?


「だから、舐めるなと、言っている。私の妻は何でもありなら、この国で一番強いのだぞ」


 あ、やっぱり、旦那だ。仲直りしたんだ……。


「まあまあ、副団長さん、聞いてよ。じゃあ、その、一番強いというバーリエさんが、俺の奴隷のどちらかとタイマンなんてのどう? もちろん、どっちの子と闘うかそっちが選んでいいよ」


「ふ、ふざけるな。貴殿が闘わないのか?」


「うん。だって、言いづらいんだけど、君たち、簡単に死んじゃいそうなんだもん。俺はまだ、人殺した事ない善良な一般市民なんだよ」


 あれ? 殺しても国外なら善良なのか? ん? わからん……。


「それに、俺の奴隷の子で、バーリエさんよりよっぽど強いと思うんだよね。もちろん、二人のどちらも。だから、この国で、一番なんて、思い上がりをさー、ね? 二人は、元、ギルドの受付嬢と図書館のバイトだよ。そんな二人より弱くて、国内一番って、おへそで、お茶沸かしちゃうよ。あ、今ならホントに出来るか……」


「カズキさん? 私が、バーリエさんより強いって?」


「もちろんだよ、グエナちゃん。たぶん楽勝かと」


「グエナで、楽勝なら、私の出る幕じゃないな。バーリエさん、私の妹を選んだ方が身のためだよ」


「それは、遠慮させて頂きたい。一対一という事ならば近衛騎士団長として、勇者最上に、お相手をお願いしたい。もし私が負けるような事があれば、私は騎士団を辞職しよう」


「ええーっ! んー……仕方ない、俺がやるよ。でも、ルールは決めさせてもらうよ。まず、聞きたいんだけど、ルールって、国外なら破っても、どうでもいいなんて感情はある?」


「いや、こちらが、納得するものなら、近衛騎士団長の名において、必ず守ると誓おう」


「そか。じゃあ、10分間そっちが、全員で俺に攻撃する、その間、俺は攻撃しない。10分後、俺もそちらに、そうだなー、うーん、1分間攻撃する。それで、そちらの誰か一人でも立っていられたら、そちらの勝ち。何でも言うこと聞くよ。その代わり、全員倒れたら、そちらの負け。俺の言う事を一つ聞いて欲しい。あと、話しをしよう。話は聞いてくれるだけでも構わない。どうだろ?」


「何だそれは、一対一では、無いのか? それに、それでは、こちらが、有利すぎる。到底飲めない」


「ええー……、じゃあ、とりあえず、やってみて、そっちが勝ったら俺が何でも言う事聞くんだから、その時に、一対一でも申し込んでよ」


「……了解した」


「じゃあ、もっと離れて、罠、壊されたら作り直すの面倒だし、魔法とかも、そっち使うでしょ? 跳ね返ったら危ないよ? ああ、もちろん、最初の10分間で俺を殺していいからね。俺が死んだらダンジョンも解放されるから、目的達成でしょ」


「カズキさん、私、時間計りますね」


「うん。よろしくー、じゃあ、スタートの合図もグエナちゃん」


「はーい。では、始めますね。では、開始ー!」


 俺はひたすら避け続けた。


「カズキー、何で、反射使わないんだ?」


「ん? だって、そうしたら、相手が痛いじゃん。攻撃したと思われても嫌だし」


「な、なんて、すばしっこい。それに喋りながら……」


「9分経過ー、あと1分でーす」


「騎士団の、みんな全力出し切った? そろそろ、攻撃しちゃうよー、悔いの残らないようにね」


「10分経ちましたー」


「じゃあ、みなさん、行くよ。ガンバって、死なないでね。もちろん、そっちも攻撃していいからね」


 俺は、もちろん、手加減したが、全員を約5秒で倒した。手足が飛んで行ってしまった人もいる。


「俺の勝ちでいいかな?」


「あ、ああ……」


「カズキさんの、勝ちでーす」


 ちょっと、やりすぎてしまったか……。


「じゃあ、とりあえずー……」


「ま、待て、勇者最上、殿、あれは、タイガーウルフの群れだ。おそらく血の匂いに誘われて」


 タイガーウルフ? 虎なの? 狼なの?


「あ、うん。『虹アタック』これでい?」


 群れを一撃で全滅させた。


「な……、ああ……」


「じゃあ、とりあえずー……」


「カズキー、今、タイガーウルフの中にカラフルもいたぞ。また、素材ごと」


「あ、いや、それどころじゃ……」


「そうですよ。カズキさん、この前、素材残る魔法覚えたじゃないですかー」


「いや、だから、それどころじゃ、あの魔法は発動に時間がかかるって言ってたし」


「カズキさん、魔法詠唱時間短縮もありますよね?」


「だーかーらー、騎士団の人達、苦しんでるでしょうがー」


「まず、治療でしょ『ハイヒールEX(仮)あれ? 使ってるのに、まだ(仮)が付いてるなんて思ったでしょ? 騙されたープークスクス』」


「酷く長い名前の魔法だな、カズキ」


「あ、うん。フリガナ振ろうとしたら、さっさと店から居なくなっちゃって、逃げられてこの名前に決まっちゃったんだよ……」


「でも、これで騎士団の人の腕も足も治ったでしょ」


「何でカズキさん、治療なんて、殺してもいいんですよ? 私が殺しましょうか? もう勝負終わったし」


「いや、やめて、折角治したし」


 いや、その感情、マジでわからん……。

 

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