第19話 誘拐

 

 それはそれは充実した自転車屋の毎日を過ごしていた。半年くらいが経ち、ジョン君は鉄の木の伐採や、鉄の加工以外は、ほぼ全て出来るようにまで成長した。もちろん、給料はジョン君に払っている。断られたが、俺は、断るのを断った。さらに、半年が経ち、二輪車や、子供用の二輪車補助付き、普通の三輪車も店に並ぶようになった。途中、隣の空いてる家を買取り、建て直し『ダーク』を付与し『ライト』で、星に見立てた『プラネタリウム』を初めたが、これは失敗した。そもそも、星を見た事が無い住人たちなので、流行らなかった。今は、よく眠れると評判のフリースペースと化している。

 俺は、コツコツとバイクの開発をしている。自転車に魔動車のエンジンを乗せたものだ。その為に何度か一人で王都にも行っている。

 そんな、ある日、遂に、毎日響く、頭の声が、キレたのだ……。


「お前が、その気なら、こっちにも考えがある。覚悟しとけ!」


 ん? 何っ……?


「勇者ー、勇者いるかー?」


 頭をアフロにした、ギルマスが血相を変えてやって来た。


「ギルドにこんなものが、届いたんだが、お前のとこだよな?」


 それを見てみると、


 妹は預かった! あはは、バーカ!!


 何コレ?


「グエナちゃーん。居るー?」


 グミエさんが、慌てて、


「カズキさん、急いで私と、パーティーを組んで」


「あ、うん。わかった」


「私のスキルを使ってみて」


 スキル『GPS』連絡先の知っている者の場所が分かる。


「GPSって……、衛生飛んでるの?」


「そんな事どうでもいいから、グエナを意識しながら、冒険者カードのマップを見て」


「あ、コレって魔物領のかなり奥の方に」


「そう、そこにグエナが居るの、何でかわからないけど、早く助けに行かなくちゃ」


「そうだね! ジョン君、店頼む」


「お任せください、師匠。お気をつけてー」


「じゃ、いくよ。グミエさん」


 俺はグミエさんを、お姫様だっこした。


「ちょっ! コレで行く気?」


「うん、俺速いから。でも、まず、アクセ屋と武器屋と防具屋も行くよ。捕まってて」


「そんな時間ないって、急がなきゃグエナが」


「わかってる、助け出す為の準備だよ」


 そして、アクセ屋で、勇者の指輪、在庫の三個全部と、武器屋と防具屋で、勇者シリーズ全部買った。オブジェ用なので、今の俺には、余裕で揃えられた。防具屋には、勇者の盾、大盾、兜、鎧などなど、勇者のビキニなんてのもあったが、急いでいたので、全て購入し、アイテムボックスへ詰め込んだ。急いでいるのに、グミエさんは、ちゃっかり自分の冒険者カードを出し、ポイントを貯めていた。


「グミエさん、急ぎますよ」


「わかってるわよ、それより、私たちパーティー組んだんだから、もう、仲間よね? これからは、カズキって呼ぶわ、だから、カズキも私の事は、呼び捨てで呼びなさい」


 前にも、呼び捨てにされてた様な……。


「わかったよ、グミエ、じゃスピード上げるよ」


「えっ? これ以上?」


「うん。舌噛まないようにね」


「ぎゃーーー」


 買った勇者の指輪を装備したので、今の俺はまさにチートだ。勇者の指輪は装備すると、ステータスが倍になるというチートアクセ、なんと、重ね掛けが可能である。前に試着したのを思い出した。今は、四つ装備してるので、元のステータスの16倍なのだ。

 途中、エンカウントした魔物も全無視して、GPSの示す付近にたどり着いた。土山の様な、大きな物が動き出し、何か、叫んでいる。そう、英語だ。俺もグミエも英語がわからないので無視した。


「何で、グエナを攫ったの? グエナを返しなさい」


 すると、土山の様な魔物の後ろらへんから声が、聞こえた。


「お姉ちゃんなのー?」


「グエナ無事ー? カズキもいるわ」


「私は大丈夫だけど、動けないの、でも逃げて! そいつ魔物の四天王の土のゴードンよ」


 四天王……確か王都の図鑑に。


「グエナちゃーん、すぐ助ける待ってて」


 突然、巨大ロックバレットが飛んできた。俺はグミエを抱えて交わした。


「ごめん、グミエ隠れてて、俺が倒すから」


 とは、言ったものの鉄の玉を投げても貫通して、殴っても、蹴っても、削れるが、すぐ再生する。大きすぎる。敵の攻撃もハンパない、たえず何かが飛んでくる。俺は全然避けれるが、グミエは少し下がるも射程内のようで攻撃が飛んできている。ロックウォールで防いでいるが、そろそろMPが、ヤバそうだ。


 ロックウォールが、岩と岩で相殺する感じだから、絶えず張り直さないといけないのか。という事は風ならいけるか?


「グミエ、もっと離れて、俺は大丈夫だから、アイツの弱点って風だよな?」


「そうだと思うけど、私は相性が悪い、カズキも攻撃魔法全然もってないじゃない」


 そうなのだ、俺は攻撃魔法は今までは必要じゃなく、ほぼ持っていない。


「じゃあ、これならどうだ」


 俺は鉄の玉に、エアーを付与して、投げた。ゴードンの体に、大きな風穴を開けた。再生もなかなか始まらない。


「おお、いける、いける」


 手当たり次第投げまくった。小さくなったゴードンは、どこかへ逃げて行った。


「グミエ、大丈夫?」


「うん。それより、グエナ」


 急いで、グエナちゃんの元へ向かった。すると、少し泣きながら、抱きついてきた。


「大丈夫? グエナちゃん」


「うん。カズキさんが、倒した時に土の錠みたいなのが、外れて動けるようになったの。怖かった……」


 俺は彼女を慰めながら、


「じゃあ、帰ろうか」


「うん。お姉ちゃんも、ありがと」


 そして、グエナちゃんは、お姫様抱っこで、グミエは試作に作っているバイクのサイドカー部分がアイテムボックスにあったので、それをロープで俺に括り、引っ張って帰宅した。ジョン君も呼び、


「みんな、疲れてると思うけど聞いて欲しい事があるんだ」

 

 俺は頭の中に聞こえる声の事をみんなに話した。


「だから、今日、グエナちゃんが攫われたのも、俺のせいかもしれないんだ」


「そんな時ないですよ。カズキさんは悪くありません」


「そうだよ、あんまり気にするな、それより、それって勇者の本能みたいなものなのか?」


「全然わからないんだよね。だからみんなには、気をつけて欲しいんだ、まあ、どう気をつけるかわからないのだが……」


「じゃあ、やっぱり、私たちを奴隷にしよう。そうすれば、もし、私が攫われてもGPSで助けに来れるだろ?」


「んー……」


「私は、助けに来てくれないのか?」


「そんな事ない。もちろん助けに行くよ」


「私からも、お願いします」


「師匠、僕もお似合いだと思いますよ」


「わかった。じゃあ、そうしようか」


 こうして、二人を奴隷にする事に決まった。


「奴隷の契約は王都の教会に行くしかないから明日行くか?」


「ちょっと、待って、もうすぐバイク完成するから」

 

「おめでとうございます。グミエさん、グエナさん」


「ありがとう、ジョン君」


 そして就寝前。


「オイ、声の主、聞いてるか? もう二度とこんな事するなよ。お前がやったんだろ」


 …………返事はない。

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