第14話 初王都
俺は子供用の自転車の製作にとりかかった。作業しながら、
「グエナちゃーん」
「はい?」
「乗ってて何か改善した方が良さそうな事ない?」
「うーん、そうですねぇ。乗っててて訳じゃないんですけど、最近街中で自転車乗ってる人増えたじゃないですかー?」
「うん」
「それ見て思ったんですけど、みんな同じだなって。だから、前のプレートに名前とか入れてあげるって、どうですか?」
「プレートには『妹サイクル』って入ってるでしょうがぁ」
ガタッ!
グエナちゃんはコケた。
「でも、同じか、なるほどね。それなら色変えよう。ペンキで」
「それ、いいかもです。それならお手伝い出来そうですし」
グミエさんとジョン君が帰ってきた。
「おかえりー」
早速、エアーとバッテリーを受け取って付与を試した。とりあえずグエナちゃんが練習している二輪車にバイクのマフラーの様に付けた。
「グエナちゃんはまだ、ちょっと危ないから、グミエさん、試してみてくれる?」
「はいはーい」
とりあえず試作なのでスイッチは後ろにある。グミエさんは自転車に、またがった。
「スイッチ入れるよ」
「オーケー」
ちゃんと風は出ている。
「カズキさん、これ進まないよ」
「うん。今進んだら困る。ちょっと、漕いでみて」
「おおおー、軽いよコレ」
「ブレーキもしてみて」
よし、ちゃんと止まった。成功したようだ。
電動アシストならぬ、エアーアシストだな。
「どうかな?」
「めっちゃいいですよコレ。これは売れる」
なんか、ちょっと悪い顔になった……。
「ジョン君の靴を参考にして作ったんだ」
「流石です。師匠」
「今日はもう少しだけ、作業してから、ジョン君の歓迎会にしようか?」
「お店の予約は任せて」
グミエさんの、この言葉ももうあまり怖くないのである。妹サイクルはちょっとしたお金持ちだ。
「わーい」
「ありがとうございます」
作業を始めた。
「お手伝いします、師匠」
二日後。子供用の自転車は完成した。あえて、三輪ではなく、二輪にして、簡単に取り外せる補助輪をつけた。とりあえず、貴族用なので、エアーも付けたが、改良の結果エアーも二本付けた。片方にすると付けていない方に引っ張られる感じになるからだ。シートも、もちろん貴族使用でカラフルサンドの皮を使用した。
「みんなー、これから王都に届けに行きたいんだけど、せっかくなら、みんなで行かない?」
「行きまーす」
「ジョン君も、案内頼むよ」
「はい」
「カズキさん、急だなあ。王都なんて旅行じゃないですか? 支度するので、少し時間下さい」
みんな嬉しそうだ。
「カズキさん?」
「どうしたの? グエナちゃん」
「街でこんなの見つけたんですよ」
【武道大会】賞金1000万円、副賞エリクサー。
「また、あるんだね」
「そうなんです。カズキさんは興味ないかと思ったんですが、予選開催が、三日後なんですよね。ちょうどいいかなって」
武道大会か……。
自分が強いのは、うすうす気づいてきたが、やはり闘いは好まない性格みたいだ。目立ってしまうのも得意ではないみたいだ。
「じゃあ、私も準備してきますね」
急いで戻ってしまった。
俺も準備するか。
自室へ戻り、ボソッと呟いてしまった。
「そういえば、王都行くのって初だなぁ」
いつもは起きる時にしか聞こえない、聞き慣れた声が、頭に響いた。
「そうだよ。普通、転生されたら、王都なんてすぐ行くだろ! 何やってたんだよ!」
…………。
遂に、俺の声に反応した。
「うるせえ! 毎日毎日何なんだよ!」
返事は返って来なかった。
準備を終えて、外で待っていた。準備を終えた者が、次々に出てくる。大きな荷物を持っているのは、グミエさんだけだ。ジョン君もアイテムバック持ちだ。
「グエナー。これ入れて行って」
「うん」
「王都ってどうやって行くの?」
「師匠は、王都初めてですか? ここからだと、モノレールで、越竹西でそこから、魔動バスかタクシーですかね」
「なるほど、じゃあ、ギルド寄ってから、モノレールにしよか? カラフルサンドが残ってるから、換金してから行こう」
しかし、ジョン君はしっかりしてるなあ……本当に9歳?
「カラフルサンド!」
「師匠倒したんですか?」
「うん」
みんな、めちゃくちゃ驚いてる。グエナさんは不敵な笑みを……。
「届ける自転車のシートに使ったのも、水サンドワームの皮だよ」
「師匠、ご主人様の自転車見せてもらってもよろしいですか?」
「ん? いいよ『アイテムボックス』はい」
「鑑定、…………間違いないです」
なんだか、グミエさんが怒り気味に、
「カズキさん、いいですか、カラフルサンドはめちゃくちゃレアなんですよ。魔物のカラフルはその種のモンスターの成長した姿というか、強くならないと出現しないんです。だから沢山狩られてるサンドワームは、ほぼ出現しないんです。それに、運良く遭遇しても、カラフルを倒せる人は、そもそも、サンドワームでレベリングしないですから、全滅するか、逃げるしかないんですよ」
「あ、はい」
熱弁だ……。
「要するにー、めちゃくちゃ素材が高い」
「なるほど、でも、1億貰っちゃったし、ちょうどいいんじゃない?」
「まぁ、そうですね」
とても、悔しそうだ。
「そういえば、換金って言ってましたけど、どれくらいあるんですか?」
「丸々、三匹とシートで使った残りがあるけど……」
全員が絶句した。
「グミエさん、ヨダレ出てるよ……」
「グッ……、やったー、遂に私にもアイテムバッグだぁー」
「…………そろそろ、行こか?」
「ちなみに、おいくら?」
「カズキさん、換金した時、チビらないで下さいよ」
グエナちゃんまで、そんな言葉を……。
ギルドに到着。
「カズキさん、王都まで、バスでいいわよね?」
ビジネスとファーストクラスは予約制らしい。当然ビジネスを選んだ。
カラフルサンドの鑑定が終わった様だ。
「買取り金は、私が預かるわ。会計だし当然よね?」
「それは、ちょっと……」
「カズキさんのパンツの心配してんのよ。鑑定額見てチビったら困るでしょ?」
「…………」
「じゃ、行こうか? アイテムショップ寄る? アイテムバッグ買うんでしょ?」
「何言ってるの? どうせなら王都で買うに決まってるじゃない」
「さいですか……」
モノレールで、越竹西へ。そこから、バスで、途中で魔力補充の休憩を挟んで、一日半かけて、王都へ着いた。王都はバスの停留所からは少し歩く。まだ見えて来ないが、王都の中心には、山の様に高い王城があるらしい。越竹とは違い、城壁に囲われている。王都へ入る為には、門番に身分証を見せて、通行料を払う。当然、お金はかかる。みんなで話しあって、今日の予定は、まず、自転車を届けてから、グミエさんとグエナちゃんが実家に顔を出すとの事だ。実家と図書館は近いらしいので、俺はそこへ行きたい。
「師匠、ご主人が、武道大会を観戦するので、その前ならいつ来ても良いとの事です」
「わかった。向かおうか。それにしても、まだ入ったばかりなのに凄い人だねぇ」
「武道大会があるから多いんでしょうね」
「中心部に行くと、たぶんお祭り騒ぎですよ」
「へー」
「師匠、こっちです」
モノレールに乗り、到着。王城が見えた。山ほど大きいと聞いていたが、言い過ぎだろと思っていたが、確かにちょっとした山だった。
モノレールを降りた所で、
「勇者殿」
とても、紳士なご老人に話しかけられた。名前は聞いていないが、俺が名前を付けていいなら、絶対セバスチャンだろと思うほどだ。
「こちらをご利用下さい」
魔動車が用意されていた。それに、乗り、貴族の屋敷へ。子供用の自転車の説明をし、とても、気に入ってもらえた様だ。
「勇者殿、今日はウチに泊まっていかれますかな?」
「いえ、これから、二人の実家へ行こうと思ってまして、ジョン君はどうする? 今日は残る?」
「いえ、師匠達と一緒に行きたいと思います」
「そうか。それは残念だ。勇者殿、これからもジョンをよろしく頼みますぞ」
なんと、帰りもセバスチャン風の人が好きな所へ送ってくれるという。まだ時間もあったので、話し合った結果、図書館近くに、大きな魔法ショップがあるとの事なので、そこへ向かった。
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