第13話 弟子

 

 三ヶ月後。とある日。


「クソやろー、バーカ、バーカ」


 んー。よく寝た。


「おはよー」


 いつも通り、自転車作りに取り掛かる。すでに生産が追いつかない状況になっていた。予約のシステムを取り入れてないので、売り切れたら閉店という形だ。うわさが、王都にも広がり、大繁盛した。


「カズキさーん。貴族の方が、作ってるところを見学したいと言ってきてるのですが…」


「構わないよー」


 めんどくさそうだが、了解した。


「なるほど、勇者の方でしたか」


 勇者のナイフを使用していたので、勇者の指輪をはめていたのだ。というより、この街の住人からの視線もなくなってきていたので、最近は勇者の見た目を気にしていなかったのである。そして、普通に作業をしていると、


「素晴らしい! 是非、この子を弟子にしてやってくれ」


 一緒に見学していた賢そうな男の子が、前に出てきた。


「僕も、本当に凄いと思います。弟子にして下さい」


 深々と頭を下げている。


「弟子と言われても、そんなの雇ったことないですし」


「この子の将来の夢は技術者でねぇ、私の奴隷ですので、給料も入りませんし、とても優秀な子なんですよ」


「ちょっと、待って下さい。二人と相談して来てもよろしいですか?」


「もちろんです」


 グミエさんと、グエナちゃんに相談する事にし、店へ向かった。


「いいじゃない、弟子。雇ってあげなさいよ。人手足りないんだし」


「そうですね。私も賛成です」


「でも、給料要らないとか言ってるんだよ?」


「貴族の方の奴隷なんですよね? それは普通ですよ。その辺のお金は生活の事なので、主人の仕事責任ですよ」


「そうそう、タダでバイトが手に入ると思えば」


 タダでって……。


「将来の夢が技術者なら、ピッタリですよ。例えば、料理人になりたい人は、どこかのお店で、弟子になるか奴隷になるかが一般的です」


「そうなのか……。わかった。じゃあ、雇うね」


 作業場に戻った。


「お待たせしました。弟子の件、受けたいと思います」


「本当ですか? ありがとうございます。一所懸命頑張ります」


「うん。よろしくね。弟子とるの初めてだからわからない事も多いと思うけど」


「よろしくお願いします」


「あ、私グミエ、よろしくー」


「私はグエナ、グミエの妹だよ。よろしくね」


「僕は、ジョン。9歳です。よろしくお願いします」


「勇者殿、ウチのジョンを受け入れてくれて、ありがとう。それと、もう一つお願いが、あってね」


 ポンッと、1億円札を置いた。

 この世界では、1億円まで十単位で札があるのだ。


「コレで、私の息子の自転車を作ってくれないか?」


「ちょっ! 息子さんの自転車を作るのは構わないですが、多すぎます。そんなお金初めて見ましたよ」


「まあまあ、まだ、7歳の子なんだけどね、ジョンより少し小さいくらいなんだ。今売ってるやつだと、大きくて乗れないんだよ。その開発費だと思って」


「なるほど、了解しました」


 それでも多い気がするけど……。


「ジョン君は住み込みでって事でいいですか?」


「構わないよ。近くに宿でもとるかね?」


「いえ、ジョン君さえ良ければですが、部屋は余ってるので」


「僕は、もちろん構いません」


 家、大きめに作って良かったあ。


「じゃあ、よろしく頼むね」


 そう言うと、帰って行った。


「ジョン君、とりあえず、家案内するね」


「はい」


「じゃあ、みんなも、お昼にしようか?」


 貴族の所で暮らしていた子に、俺の家を案内するのは少し緊張する。


「あ、すいません。靴脱ぐんですね」


「あ、ごめん。そこで脱いでから入って」


 日本風なのに、貴族の所では靴のままなのか……。

 ん? ジョン君の靴……?


「ねぇ、ジョン君、この靴に付いてるの何?」


「それは、エアーが付与されてるんですよ」


「エアー?」


「エアーを起動すると、歩くのが、ラクになるんですよ。ここから、空気が出て、歩くのを少し押してくれる感じですかね?」


「なるほど」


 改めて、ジョン君を見ると身につけている物が、どれも高級そうだ。なんか色々付与されてそう。


「ここが、ジョン君の部屋ね」


「ありがとうございます。とても素敵な部屋です」


 ふぅ。良かった……。


「お昼、僕が作っても良いですか?」


「料理得意なの?」


「料理スキル持ってます。まだレベル一ですけど……」


「凄いですね。私たち誰も料理スキルないから助かっちゃいます」


「ちょっと待って! ジョン君て、技術者志望なのよね? 料理スキル取っちゃってて大丈夫なの?」


「はい。鑑定も持ってますよ、一応付与も」


「鑑定ッ! 俺が次狙ってるやつ」


「えーっ! 付与も持ってるって、ジョン君一体レベルいくつなのー?」


 二人ともかなり驚いてるな。

  

「20になったばっかりです。鑑定と付与を初めに取って、ご主人様に、お料理を作ってあげたくて、レベル上げしました」


 ええ子や。


「20って! 俺まだ8なんだが……」


「ジョン君って優秀すぎないですかぁー?」


「だから言ったでしょ? 雇えって」


 なぜ、グミエさんがドヤ顔なんだ?


「師匠ってレベル8なんですか? でも、自転車で使う素材とか家の素材とか、お一人で全部取ってくるとか?」


「ジョン君、カズキさんはチーターなの。気にしたら負けよ」


 ヴッ……。


「チーターと言えば、大きなチーターにかけっこ勝ったよ」


「…………そ、それにしてもジョン君のこの料理とても美味しいわ」


「うん。ホントにおいしー」


 無視された……。


「師匠は、いかがですか?」


「あ、俺は……うん。美味しいと思うよ。二人が美味しいならそれで」


「あ、そだ、グミエさん、食べ終わったらアイテムショップか雑貨屋に行ってバッテリー買って来てくれない? あ、あとエアーもMAX分」


「俺はそろそろ、サンドワームの皮が切れるから取ってくるよ」


「サンドワームでしたら、僕が行って来ましょうか?」


「えっ? ジョン君、サンドワーム倒せるの?」


「はい。レベル上げでよく倒してました。ウィンドカッターあるので」


「マジか……。9歳だよね? んーでも、ジョン君はグミエさんと、一緒に行ってここで暮らすのに必要なもの揃えてきなよ」


「わかりました」


「グミエさん、じゃあ、ギルドにも寄ってもらえるかな? ジョン君こっちのギルドは初めてなんじゃないかな? まあ、顔見せと指名依頼が最近よく来るから、それの受注の仕方とか、教えてあげて」


「わかったわ。私もサンドワームくらいなら倒せるんだからね」


 なぜ、ジョン君に対抗する……。


「グエナちゃんは店番お願い」


「はーい」


 俺はサンドワーム狩りに出かけた。砂漠に到着したが、先客がいた。砂漠の奥の方で戦っているパーティーがいる。

 サンドワーム人気だなあ。狩られ役やん……。

 他の人の戦闘は初めて見るので、観戦してみる事にした。すると、サンドワームのカラフルが居るではないか。それも初めて見た。

 ん? 苦戦してる? てか、ヤバい?

 それを見て近づいてみると、遠めからでは分かりにくかったが、相当デカい。ただでさえ、巨大なサンドワームの倍くらいの大きさだ。それが四体いる。


「あのー? 大丈夫ですか?」


 パーティーのリーダーらしき人が、


「何近いてきてるんだ、逃げろ!」


 やはり、ピンチの様だ。


「攻撃しちゃっても良いですか?」


 何を言ってるんだコイツと言わんばかりの目でパーティー全員から睨まれた。


「コイツらヤバすぎる。早く逃げろって」


 リーダーらしき人は漢気のある人の様だ。ていうか、この世界に悪い人はいない。

 俺は鉄の木で作った玉をぶつけてやった。楽勝だった。パーティーの人達は、ポカンとしている。


「えと、ありがとうございました?」


 なぜ? 疑問形?


「いえ、みなさんが、ご無事なら良かった」


 リーダーが駆け寄ってきて、


「どうやって倒した?」


「……コレを投げて」


 意味がわからないという表情が伝わってくる。


「オレはこのパーティーのリーダーの――――」


 リーダーが自己紹介とパーティーメンバーの紹介をしている。覚えられなかった。


「俺は、最上一輝です」


「本当にありがとう。全滅覚悟してたよ。素材はもちろん、最上殿が全部持って行ってくれ、まさか、カラフルサンドに出くわすとは思わなかったよ」


「いいのか?」


「もちろんだ。本当に助かったよ」


 かなり疲れた様子で街の方へ帰って行った。俺は普通のサンドワームも何体か倒して帰宅した。


「ただいまー」


「あ、お帰りなさいカズキさん、早かったですね。今日の分は、完売しましたよ」


「うん。お疲れ様ー、試したい事あったから、急いで帰ってきた。グミエさんとかは?」


「まだ、ですね」


「そか」


「じゃあ、私は二輪車の練習しますね。もう少しで乗れそうなんですよ」


「うん。気をつけてねー」

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