第12話 オープン

 

 グミエさんも、家へ来たが、なんか足を引きずっている。


「カズキさん、これホント凄いよ」


「ありがとう。それより、足どうしたの?」


「いやー、昨日、家完成したから、プレハブ解体したでしょ? その時、カズキさん、ハンマー忘れてたからさ、作業場に戻しておこうとしたら、ちょっとよろけて、柵に突っ込んじゃったんだよね。あのハンマー重すぎだよ」


「そんな重くないと思うけどなあ。勇者のハンマーだからかなぁ? ごめんね」


「それがさ、変なんだよ。柵に突っ込んで、柵が壊れたはずなのに、直ってるんだよ」


「えっ? どう言うこと?」


 プレハブから出てすぐの柵を指さして、


「あそこの、柵だよ。あの板、割れちゃったと思ったんだけどなあ」


 どうみても、直っている。というか、キズひとつない。


「グミエさん、酔ってた?」


 ちょっと、ムッとされた……。


「昨日は呑んでないですよー」


「ごめん、ごめん、どうなってるんだろね?」


 んー……不思議だ。


 それからは、プレハブだった場所と、元畑だった場所を、整地し、簡単な自転車練習場にした。


 自転車の改良と、狩りと、ショップ作りの日々だ。ショップは、自転車屋なので、そんなに凝った作りにはしなかった。店の半分は外だ。


「ちょっと、相談なんだけど、自転車のシートは何の革がいいかなあ?」


「サンドワームで良いんじゃないですかね? 一匹からたくさん取れますし、ソファーとかにも、使われてますよ」


「なるほど、そうしよう。ありがとう」


 時々、グミエさんが、補助輪を外して、練習している。もう、ほぼ乗れるようになったようだ。


 数日後。店と商品となる一台が、完成した。


「おはようございまーす。早いですね」


「おはよー」


「二人とも、おはよー。実は寝てないんだ」


「朝食出来てますよ」


「あ、うん。食べる。それより、これ見てー」


「完成したんですね。ちょっと乗ってみてもいいですか?」


「もちろん、これを売ろうと思ってるんだ。二人とも感想を聞かせて」


「これ、良いと思います。お尻も痛くないし、転ばないから、誰でも乗れそうですね」


 補助輪付きはやめて、後輪は二つにし、その上にカゴを付けた。


「私も良いと思う。けど、この前のプレートは何?」


 癖と言うか何というか、ライトを付与した物を付けようとしたが、この世界では不要なので、プレートを付けた。


「そこには、店の名前を入れる予定なんだよ」


「もう店の名前は決まったんですか?」


 二人を店の外の正面に連れて行った。ペンキ屋から、特別な塗料を借りてきて、ブレーキを作る時に余る、ハリネズミの毛先を筆にして、書道の様に書いた看板を見せた。


「じゃーん」


「何ですかコレー」


「…………」


 そう、ウチの店の名前は『妹サイクル』だ。


「お姉ちゃん、名前コレでいいの?」


「…………、いいんじゃない? それより、ちょっと先にギルド行ってくるわー。受付のヘルプのバイトなんだ」

 

「いってらー」


「朝食いただくね」


「あ、私も行きます」


 グエナちゃんと二人だと美味しく感じるなあ。


「今更なんだけど、店って勝手に出していいの? 商業者ギルドとかって、有ったりする?」


「お店は自由に出して平気ですよ。ギルドは冒険者ギルドしかないです」


「税金とかは?」


「えーと、冒険者ギルドで使われるお金が、全部税金なんですよ。冒険者ギルドを使わない国民はいないですからね」


「なるほど」


「冒険者ギルドは、国がやっているので、職員さんは公務員って感じですかね? お店をギルドに登録する事も出来ますよ」


「普通は登録するものなの?」


「そうですねぇ、登録しないでやってる、お店もありますが、ほとんど登録してますかね」


「どんなメリットが?」


「例えば、飲食店の場合だと、食材を安く買えたり、人材の募集や素材を指定した依頼などが出せますね。もちろん、登録料はかかりますが」


「なる」


「登録してないと、依頼を出すのに、お金がかかります。特殊依頼という形になりますね。指名依頼と同じ様なものです」


「俺が日々バイトしてた所は、登録されてる所だったって訳か」


「ですです。登録しますか?」


「うーん……、ウチは良いんじゃない?」


「そうですね。ほとんど、カズキさん一人でやっちゃうし…」


「うん。ありがとう。じゃあ、商品の『三輪車』の制作にかかるよ」


「サンリンシャ? 自転車では?」


「タイヤが、三つ付いてるから三輪車!」


「じゃあ、自転車は二輪車ですか?」


「あー、うーん……全部、自転車でいいか」


 それからは、自転車作りに没頭した。始めは一日三台ペースだったが、慣れていき、今は五台は作れる様になった。グミエさんに頼まれて、二輪車も一台作った。そして、そろそろオープンである。価格設定を忘れていた。


「グミエさん、値段どうしよ?」


「ズバリ! 一台1000万で行こう!」


「は? いやいやいやいや、高すぎでしょ」


「そんな事ないって、安い魔動車でも3000万はしますよ」


「俺はみんなが使える乗り物にしたいんだ。そんな値段じゃお金持ちしか買えないよ」


「じゃあ、カズキさんはどれくらいで売る気ですか?」


「まぁ、3万くらい?」


 珍しく、グエナちゃんが話に入ってきた。


「それは無いですよ。ブレーキに使ってるグレーハリネズミは、買取価格だけで、10万円ですよ。それに、鉄だってたくさん使ってるじゃないですかー。魔動車にだって鉄はあんまり使われてないんですよ。鉄の木は普通はカズキさんみたいに簡単に切り落とせないんです。しかもあんなキレイに加工して、それに、それにぃー……」


 何か、興奮して、少し怒っている。

 カワイイ……。


「あ、うん。わかった。じゃあ100万くらい?」


「ダメです」


 これもまた珍しくグミエさんが仲裁に。


「間をとって500でどうです?」


「それでも、高いと思うけどなあ。ただの自転車だよ?」


 グエナちゃんはプクッとしている。


「じゃあ、さらに間で300万にしよう。初期攻撃魔法と同じ値段だし、良くない?」


「まあ、社長が言うなら……」


「グエナちゃん、社長はやめて……」


 小声で「安すぎると思うけどなぁ」と溢してるグエナちゃんはカワイかった。


「明日オープンでいいんですよね? 私、ポスター貼ってきます」


「ポスターって勝手に貼っていいの?」


「お姉ちゃんが、もうギルド通してあるって言ってました」


 流石、アネゴ。


「当然、宣伝は必要でしょ? 必要経費だよ」


 やっぱり、お金かかるんだ……。


 新装開店である。店番はグミエさんと、グエナちゃんにお願いして、俺は自転車作りだ。練習場としていた場所もそのまま、試乗出来る場所として使った。初めは、お金持ちが、何台か買ってくれただけだったが、ちらちら、街で見かけるようになり、繁盛した。充実した日々だった。

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