第8話 相談


「バーカ、バーカ!」


 頭に響く声が、目覚まし代わりになり始めた頃、そろそろやるかなと。

 グエナちゃんに相談だ。冒険者カードで連絡をとってみる。


「相談したい事があるんだけど、今日って空いてないかな?」


「いいですよ。じゃあ、12時にカフェでどうですか?」


「うん。ありがとう」


 時間まで街をブラブラし、ふと、思ったこの街の人達はいつ休んでいるんだろう。常に明るくていつでも開いてる店……謎だ……。


「お待たせしましたー」


「全然だよ。急にごめんね。とりあえず中で何か頼もうか?」


「はーい」


「ここでいいかな?」


 オープンカフェの街がよく見える場所を選んだ。


「相談って何ですか?」


「えと、何か商売でも始めようと思って、アドバイスもらえたらなって」


「なるほどー、そうですねー」


「せっかくだし、誰もやってない事したいなって」


 朝、頭に響く声うるさいし……。


「いいですね。やっぱり、カズキさんの世界にあって、この国にないものが、良いんじゃないかと。何か始めるなら、私もお手伝いしたいです。私雇って貰えますか?」


「マジで? 願ってもない。それは本当にうれしいよ。でも、図書館はいいの?」


「はい。バイトですし、もうほぼ全部の本読んじゃったんですよね。ヒマなんですよ。カズキさんとなら楽しそうですし、そ、その、奴隷契約してもいいですよ」


 ……これはヤバい!


「あ、いや、奴隷はちょっと…」


「私の事、嫌いですか?」


「いや、そう言う事じゃなくて、てか、好き、妹、超好き」


「あはは、私、カズキさんの妹じゃないですよぉ」


「奴隷の事は、置いといて、どんなのがいいかなあ?」


「じゃあ、お食事処とかどうですか? カズキさんの世界の料理を出すとか?」


「うーん……それは、ちょっと無理なんだよね」


「どうしてですか?」


「実は俺、この世界に来て食べ物の味しないんだよね。味覚がないって言うのかな?」


「そうなんですか? 何かご病気とか?」


「んー、よくわかんないなあ」


「ご病気なら、光魔法の最上位か、ダンジョンでドロップする、かなりレアだとは思うんですが『エリクサー』で何でも治るって本で読んだ事あります」


「へー」


「光魔法最上位は、カズキさんなら頑張れば覚えられるかも?」


「病気かどうかもわからないんだよね。話しがそれちゃったね」


「あ、ごめんなさい」


「いえいえ、話しを戻すと、この世界では娯楽が少ないと思うんだよね」


「そうですね。みんな生きるのが精一杯って感じですね」


「でも、さっき、グエナちゃん、ヒマだって」


「確かに! うーん、私はまだ余裕ある方なんですよ。図書館はうちの親の持ち物ですし」


「そうなの? それ、辞めちゃっていいの?」


「いんです。いんです。親は王都で、図書館やってますし、そこのは親の奴隷の方がやってます」


 姉妹は、金持ちなのか。でも、姉は何と言うか、がめついよな……。


「でもさ、呑みに来てる客とかも結構いるわけじゃない? それも他にやる事ないからなのかなって。何か趣味になりそうなやつを商売したら良いんじゃないかなって」


「ですねぇ。でも、やる事って言っても、例えばゲームとかですか?」


「そそ。こう言うやつのテンプレ的には、リバーシとか」


「リバーシ? ああ、オセロですか。本で読みました。確かに面白そうですが、それってやっても意味ないじゃないですか? 呑みに行くとかは、飲食ですし、生きる為に必要だから、みんなそっちをするんじゃないですかね?」


 意味ないって……そういう感覚かあ。

 この世界の住人との感じ方の差はバイトしながらも常々思い知らされてきた。


「いや、グエナちゃんが、知ってるなら、この世界に知識があるって事で、それが流行ってないならダメだろう。しかし、グエナちゃんは、何でも知ってるなぁ」


 知識を褒められると嬉しい様だ。

 少し照れてる。カワイイ。


「じゃあ、スポーツとかは? 野球とかサッカーとか」


「ああ、それも本で有りましたね。難しいかと……体動かしたいなら、魔物討伐とか行った方が良いですし」


 そうだよなあ。お金が必要なら魔物討伐で、余裕がある人は、娯楽でやるわけだし、プロとかも出来るのも難しい。出来なくは無さそうだが、時間がかかりそうだ。

いやいや、それより、何でそんな本が……。


「確かに、ホントに参考になるなあ。グエナちゃんに相談して良かったよ」


「そんな事ないですよ。全部本の知識だけです」


「それが、ありがたいんだよ」


 本に無い、この世界に無いものかあ……頭を悩ませながら街並みを、見ていると、ふと、思った。


「ねぇ、あの車は?」


「ああ、魔動車ですね。魔力で動く車です」


「たまに、馬車みたいな、魔物が引いてる車もあるよね?」


「バシャと言うのは、ちょっとわからないですが、テイムした魔物か奴隷の魔物に引かせてる車ですかね?」


「ちょっ! テイムはわかるけど、魔物って奴隷に出来るの?」


「はい。難しいですが、出来ますよ。えと、まず魔物から好かれないとダメなんですよ。なので、ペットショップで、売られてる魔物と仲良くなる事が主流ですかね」

 

「ほほう」


「車に乗ってる人はそもそも、お金持ちですが、バッテリーって、高いんですよ。テイムか奴隷のが、ぶっちゃけ安上がりです」


 ぶっちゃけた……。


「じゃあ、人力の車は無いの?」


「えっ? ありますよ。王都では、お仕事として引いてる人が居ますね」


「あ、そうじゃなくて自転車だよ」


「ジテンシャ?」


「そそ、自分の足で漕ぐの」


「そう言うのは、知らないですね。王都の図書館にはもしかしたらあるかもだけど、ここの図書館には無いはずです」


「コレだーー!」


「どういった物なんですか? 作るんですか?」


「うん。えーと、引っ張って動かすんじゃなくて、漕ぐ。えと、足を回すの。えと、説明ムズイな」


 でも、今の俺なら作れる!!


「説明下手で、ごめんね。とりあえず、試作品作ってみるよ」


「はい」


「また、アドバイスよろしくねー。早速、行ってくる。ホントにありがとう」


 さて、どうするかなあ? まず、作業スペースの確保だな。ギルドだー。


「あ、グミエさん、ちょっと、相談が」


「ん? おけ、ちと待ってね」


 相談室? 使われてない部屋に案内された。


「で、どうしたの?」


 グエナちゃんとの話しを簡潔に伝えた。


「なるほどね。で、どうしたいの? 空いてるテナントのレンタル? 鍛冶屋みたいのがいいのかな?」


「不動産屋ってあるの?」


「フドウサンヤってのは、わからないけど、そう言うのは全部ここで出来るわよ」


「そうなんだ」


「少し待っててね」


 地図を取りに行った様だ。

 どうするかなあ? 良い場所空いてるといいけど……。


「おまたせー。どうするの? テナントとして空いてるのは、ここと、ここと、ここ、近くだとコレくらいかな?」


「んー、建物無くていいから、貸してる土地ってある?」


「土地のみかー……。土地のレンタルはないわね、土地買っちゃいなさいよ」


「それでもいいかな」


「やっぱり都心に近い方が、高いわよ。それに、都心は空いてる土地はそんなに無いわね」


 ふむふむ。


「都心は家ごと買う感じね。作業場と品物を売るお店は、別?」


「あーそうだなあ?」


「何も決まってないのね」


「いや、だから相談に……」


「じゃあ、ここなんてどう?」


 その、指さされた場所は、何か建物が、あるようだが、場所的には、都心から離れすぎず、越竹森林との中間にあり良さそうだ。なぜなら、必要素材は全部自分で、集める予定だからである。


「地図には、何か特別な建物が有りそうだけど?」


「ああ、これは元孤児院で、取り壊し予定なの。今はまだ建物が残ってるから、このまま買うなら安くなるわよ」


「おお、いいね、そこ」


「じゃあ、決まり? 解体業者の依頼出す?」


「いや、自分でやるよ。俺のバイトの経験なめてもらっちゃ困るよ」


「あはは、わかったわ。すぐに手続きするわね、私がかなりの値引き交渉してみるわ。ただし、条件があるの!」


「条件?」


「そう。私を奴隷にしなさい、結婚でもいいわ」


「いやいやいや、何言ってるの?」


「妹に聞いたわよ。妹も雇うのよね?」


「うん。そうだけど、じゃあ、グミエさんも雇うよ。俺も助かるし」


「仕方ないわね。それでいいわ。じゃあ、少し待ってて、任せなさーい」


 シュタタッ!!

 行動力凄いな……なんで、奴隷になりたがるんだろう? 信用しすぎじゃない?


 ほどなくして、戻ってきた。


「やったわ。ここに名前書いて、あと、冒険者カード出して、これで、あそこはカズキさんの物よ」


 なんか、めちゃくちゃ早い……ペンを取り名前を書こうとする。


「ゲッ! 7千万」


「ゲッって、何よ? ガンバったのよ」


「いやいや、こんな、お金無いって!」


「大丈夫よ! そう思ってローン組んできたから」


 マジか……まあ、仕事は出来る。のか?


 覚悟を決め、サインした。


「うん。じゃ仕事辞めてくるわね」


「えっ! ちょっ!」


 もういない……行動力ぅ。


「おまたせー。辞めてきたわ。これからよろしくね社長!」


 ホントに、早い! 社長はやめて……。


「もちろんこれから見にいくんでしょ?」


「うん。そだね」


「じゃあ、先行ってて、他の事済ませてくるから」


「あ、うん。じゃあ行ってるね」

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