第7話 バイト漬け

 

 そんな、ある日、街でグエナちゃんを見つけた。何かチラシの様なものを持っている。


「グエナちゃーん! 何してるの?」


「あ、カズキさん、闘技大会の号外配ってます」


「ああ、なるほど、どれどれ?」


 優勝、バーリエ! そこには金髪の綺麗な女戦士が、誇らしげに、剣を掲げ、写っていた。


 あれ? この人って……、最初に会った人では?


「ありがとう。じゃあねー」


 最近は、たまに、グエナちゃんと二人で食事に行くくらいになっていた。グミエさんには、ちょいちょいカモられるけど……。


 バイトへ――。


 そして、十日くらいが経った頃の、とある日、グエナちゃんとの食事の会話で、


「この前、闘技大会で勇者したバーリエさんが、副賞で貰った奴隷の方と結婚するみたいですよ」


「マジか……」


「なんでも、奴隷契約する前から付き合ってた騎士団の方という、うわさですが」


「へー、そんな事もあるのか。その騎士の人も奴隷希望だったて事だよね?」


「まあ、そうなんじゃないですかね? 近衛騎士団は王様直属ですし」


「そういえば、前に王様の奴隷が、どうのって言ってたよね? 王様と奴隷って関係あるの?」


「図書館にある『桜ヶ丘東国の成り立ち』って本読みました?」


「いや、読んでないけど……」


「簡単に説明するとねぇ、この国の初代国王は『奴隷商人』だったの!」


 …………マジか。


「その奴隷商人が、奴隷契約のルールを作って、認められて、王様になったの」


「そうだったのか」


 かなりの、衝撃の事実だ。


「私も図書館にある、おとぎ話とか結構読んだけど、奴隷商人が、王様になったのは、見た事ないなぁ。魔王を倒して、王様になったとか、ダンジョン踏破して王様になったとかいう、お話は沢山あったけど……」


「たしかに、俺も勝手にそう思ってた」


「魔物の国にも『魔王』って、いないでしょ?」


「ですね」


「そうなのか? じゃあ、誰が魔物の国を納めてるんだ?」


「うーん……、その辺はわからないなあ。王都の図書館には、詳しい本あるかも」


「じゃあ、カズキさんの国には魔王っているの?」


「いや、そもそも、魔物と呼ばれるやつがいないかなぁ?」


「えーっ! じゃあ、なんでカズキさんは魔物とか魔族を知ってるの?」


「んー。おとぎ話? 漫画とかアニメとかで」


「漫画とアニメはわからないけど、カズキさんの世界は王様だけなのかあ」


「いや、少なくとも俺のいた国では王様もいなかった」


「へー。それじゃあ、この世界の魔物の国もそんな感じじゃないんですかね?」


「たしかに、なるほどね。そういえば、火ベアーとか、何か会話してた様に見えたけど、言葉通じるのかなあ?」


「魔物の中には、魔力が高いほど、言葉は通じるみたいですね。たしか『英語』とか言ったっけかな?」


 英語だと…………。


 それから、他愛のない談笑をつづけて、お開きになった。


 そんな、バイト漬けの日々は充実していた。やはり、というか、何と言うか、奴が現れる。頭に響くアイツだ。


「つまらん! ふざけるな! 普通、闘技大会スルーする?」


 無視して、充実した日々を過ごす。


「いいかげんにしろーっ! バーカ!」


 無視、無視。


 もう、ほぼ毎日だ。とりあえず、いつも通りギルドへ向かう。最近は指名依頼なども貰えるようになった。バイトに必要な生活魔法も、20個に増えていた。久々にカードの更新をしてみる事にした。


 称号、【勇者】【バイトマスター】


 なんか、増えてた……。


 指名依頼が一件、解体の手伝いだ。これなら、早くに終わりそうだ。他のバイトは目ぼしいのが見当たらない。とりあえず、これだけでいいか。


「すいません。これをー」


「あら? 今日はこれだけですか?」


「じゃあ、終わったら今日、呑みに行きましょ?」


「オケー、じゃあ行ってきまーす」


 グミエさんと呑みになった。

 難なくバイトを終えて戻り、


「カズキさん、遅いよー。じゃ、行きましょ」


 だいぶ早かったつもりだが……。


「カズキさーん、私どうしても欲しいアクセサリーがたってー」


 上目づかいで、寄ってきた。


 久々のたかりだ……。


「何が欲しいの?」


「風のブレスレット! ちょっと予算が足りなくてー」


 …………めちゃくちゃ可愛く、さらに近づいてくる。


「わかった。見に行こうか」


「さっすが、カズキさん」


 俺も男である事を実感した……。


 アクセサリーショップに入店し、適当に、店内を散策してたら、ある物が目に飛び込んできた。


 バイトマスターの指輪、ヤル気が少し上がる、給料、5%アップ、バイトマスター専用装備。3千万円。


 ゴミめ……!


「すいませーん。このブレスレット下さい」


 風魔法プラス一か……,


「あれ、グミエさんのその指輪、風のじゃないの?」


「ん? そうですよ。私、風適性なくて……」


「へー、重ねがけできるんだあ」


「そうですね。別に指輪と指輪でも出来ますよ」


「なるほど」


 …………まさかっ!


「あの、試しに増備する事って出来ますか?」


「試着ですね。もちろん出来ますよ」


「じゃあ、この勇者の指輪、試着お願いします」


 おおおお! コレはヤバい!


「では、こちらも?」


「あ、いえ、とりあえず風のブレスレットだけで……」


「カズキさん、じゃあ、その、足りない分、お願い出来ますか?」


「うん」


「では、残りの代金はお客様でよろしいですか?」


「290万円になります」


「ん? あ、はい」


 ブレスレットって300万だよな……ちょっと予算が足りないとは…………。


「……呑みに行こか?」


「お腹は減ってませんか?」


「んー、まあ」


「じゃあ、料理も美味しくて、お酒も美味しいお店知ってるんですよー、そこ行きましょ」


 ここは、バイトで来た事あるな。何度かバイトしてる小料理屋だ。


「いらっしゃ……あっ、カズキくん」


「どもー」


「うちは、バイトの給料で来れる店じゃないよ。大丈夫かい?」


「あ、まあ、大丈夫です」


「そうかい、じゃ奥へどうぞー」


 ――姉め……!


 この国では、16歳からお酒が飲める。なので、俺もちょいちょい嗜んでいるのだ。あまり、強い方では無さそうだが、生活魔法のリフレッシュがある。リフレッシュレベル2だが、結構、酔いを軽減してくれるのだ。

 

「そういえば、カズキさんは何で闘技大会出なかったんですかー?」


「んー、あんまり戦うの好きじゃないみたいだし……」


「えーっ! 勿体無い、カズキさんなら、優勝出来ましたよー」


「いやいや、近衛騎士団とか出てたんでしょ? ムリムリ!」


「うーん、まあ、あの優勝したバーリエさんは、レベル80オーバーとか、うわさありますけどぉ」


「80ッ! 絶対ムリじゃん。俺まだ4だよ」


「いやいや、いいとこ行くと思うんですよね。だって、カズキさん、チートですもん!」


 ……チートって言葉あるんか。


「いいですか? カズキさんは、初期値が、異常なんですよ。だいだいの人はレベル1では、魔法以外は足して20くらいなんですよ」


「なるほど」


「それで、筋力が多めの人が冒険者になったり、器用さが高めの人が鍛治氏や料理人とかになるんですっ」


 なんか怒ってる? ちょっと酔ってるのかな?


「それで、レベル上がると初期値に応じた割合で成長するんですよ」


「ほう」


「この世界にくる時、ポイントを振ったって言ってましたよね?」


「うん」


「普通そんなの無いんですよー! このチート野郎ー!」


 完全に酔ってるな。


「大きな声では言えないんですけど、受付としての守秘義務もありますし」


 言う気だ……。


「うちのギルドから、普段ダンジョンに行ってる強い人で、たしか、レベル30、筋力28、器用さ7、俊敏8、ですよ」


 ……姉よ、受付失格だな。


「あと、魔法もチートです。弱点はわかりますよね? 反対の属性です」


「あ、なんとなく」


「火は、風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い、光と闇は特別で上がりにくいです」


「なるほど、なるほど」


「で、普通の人は四属性の内、弱点以外の二つの属性しか持ちません。要するに、火と土の属性を持ってるか、風と水の属性を持っているかの二パターンしかないのです。光と闇は、良くてどちらか、1だけ持ってるくらいです。ほとんどの人は両方ゼロです」


「勉強になります。アネゴ!」


「誰が、アネゴだ! それなのにカズキさんは、全部なんて……私にも風魔法分けてくださいよ」


「あ、そういえば、風のブレスレット買ってたね? あれは?」


「私は、火と土の属性持ちです。なので、風はアクセで補うしかないんですよ」


「なるほどー」


「しかもですよ、カズキさんは気づいてないかもしれませんが、この世界の魔法は風が優遇されすぎなんですよー」


 なんか、言い方に、トゲが、あるな……。


「そなの?」


「そーなんですぅー、有用そうな魔法ほとんどに、風適性があるんですよ。気にしてないかもですが、思い出してみてくださいよ、物が動くのに全部、風適性が入るんです。もー!」


 荒れてるな……。


「例えばぁ、初期の攻撃魔法なんかは全部そうですよ。ファイアーボールだって、火5、風1、じゃないですかー、ウォーターボールにしろ、水5、風1、だし、ファイアーボールをレベル2にする時は、火10、風2、ですよ。やってられないですよ」


「まあまあ、あれ高いし、俺も持ってないよ」


「まあ、コレが才能の差って、やつなんですかね……」


 いじけてしまった……。


「そういえば、何で風ブレスレット買ったの? 指輪あるし、風4のやつで良いやつが?」


「そうでした。聞いてくださいよ。私、遂に、土魔法が、18になって『ウィンドウォール』がレベル2に出来る様になったんです。それに風4、光1、が必要だったので」


「そか、おめでとう。てか、光あるの?」


「そうですよ。私、光持ちです。凄いでしょー」


 なんか、機嫌なおったか?

 

「う、うん……」


「あ、なんか、バカにしてるぅー」


「いや、してないよ」


「だーかーらー、カズキさんはチートなんですって、冒険者になる人は脳筋バカばっかりなんだから、器用さと俊敏に極振りしたチーターなんですぅ」


 情緒不安定だな……。


「カズキさんもそのステータスで、均等に振ったつもりなんだから、ある意味、脳筋かぁー、ダンジョンいけー」


「…………」


「そういえば、いつ、奴隷にしてくれるんです? お嫁さんでもいいですよー」


 完全な酔っぱらいだな……。


 寝てしまった。どうしようかな? グエナちゃん呼ぼかな? うーん……。置いてくか! 悪い事する人もいないみたいだし……。


「すいませーん、お会計!」


 いつもの日々に戻る。

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