パーティー
講堂の前で、タキシードに黒ぶち眼鏡の魔王くんと待ち合わせをした。
鐘の下は待ち合わせ中の生徒でいっぱいだったけど、魔王くんがわたしを見つけてくれた。
「リアナさん、びっくりしたよ! その……今夜はなんだか大人っぽいね」
「ありがとう」
わたしは今夜は淡い黄色のドレスを着ている。色づかいはかわいらしいんだけど、胸元が少し開いていて身体の線がわかって、ちょっぴり大人の雰囲気なのだ。
「黄色って聞いていたからこの花にしたけど、もっとゴージャスな方が良かったかな、ごめんね」
「ううん、綺麗な花だよ。ありがとう」
魔王くんはわたしに贈るために黄色と白の小さな花をまとめたミニブーケを持ってきてくれた。そして、男子が女子の髪に飾るお約束なのだ。
「リアナさん、屈んでくれる?」
中肉中背になってもわたしよりも頭ひとつぶん高い魔王くんは、少し頭を下げただけで髪に花を飾ってくれた。
「どう?」
「良かった、リアナさんに似合ってる」
「嬉しい。ありがとう、魔王くん」
わたしは少し照れながら、魔王くんの腕に手をかけた。
今夜の魔王くんは、髪をしっかりとセットしていて、綺麗な顔があらわになっている。まるで王子様みたい。
あ、未来の王様なんだったっけ。
女子の視線が突き刺さるような気がする……。
パーティーで、魔王くんはモテモテだった。魔王くんと踊りたがる女の子がいっぱいやってきたので、ちっとも休めず大変そう。
わたしはクラスメイトの男子とか、顔見知りの先輩とかと楽しく踊った。
少し疲れたのでバルコニーに出て涼んでいると、後から魔王くんがやってきた。
「リアナさん、ごめん。僕、リアナさんとあまり踊れてないよ」
「いいよ。魔王くん大人気だね、お疲れ様」
「知らない子と仲良くなれたのは良かったんだけどね、ちょっと疲れちゃったよ、緊張した」
魔王くんは眼鏡を外してポケットに入れた。
「……目が赤いね」
「気持ち悪い?」
「全然。むしろ綺麗だよ」
「……ありがとう」
魔王くんがえくぼを見せて笑った。整った顔のワンポイントだ。
「ねえ、もうすぐクラスの席替えがあるって知ってた?」
「ええっ、そうなの? 知らなかったよ。じゃあ、魔王くんとは席が離れちゃうだろうね」
そうしたら、今みたいにたくさんおしゃべりができなくなるね。
「寂しい?」
「え?」
「僕と席が離れたら寂しい? 僕はすごく寂しいよ、リアナさんと話せなくなるのが嫌だよ」
「魔王くん……」
「リアナさん、」
魔王くんがわたしの両肩を掴んで向かい合わせた。
「僕と付き合ってください! 僕は次期魔王で卒業したら魔界に帰るけど、でも、リアナさんの事が好きなんだ。だから、なるべく一緒にいたいんです。たくさんおしゃべりしたいんです。リアナさんの事を独り占めしたいんです!」
「……」
魔王くんの赤い瞳がわたしをまっすぐ見ていた。
その顔も真っ赤だった。
「リアナさん、好きです」
「わたし……わたしも、魔王くんの事をいいなって思っていて……」
魔王くんは潔いな。
わたしは恥ずかしくて目を伏せてしまう。
「わたしも、好き、です。よろしくお願いします」
「……リアナさん! 嬉しい! チョー嬉しい!」
魔王くんはわたしをギュッと抱きしめて、本当に嬉しそうに言った。
「リアナさん、大好きです」
魔王くんは身を屈めるとわたしの唇にちゅっとキスをした。
キスをしておいて、真っ赤になった。
わたしも一緒に真っ赤になった。
恥ずかしくて嬉しくて、ちょっと涙ぐんでしまったわたしを、おろおろしながら魔王くんが抱きしめて、また二人で真っ赤になった。
魔王くんはわたしとお付き合いを始めたことをクラスで公言した。ほとんどのクラスメイトは「良かったね」と言ってくれたけど、モテる魔王くんのことを狙っていた女子から呼び出されたりした。
「リアナ、ちょっと席が隣だったからって抜けがけするなんて卑怯よ」
「そうよ! 魔王くんと別れなさいよ」
仁王立ちする女子を見ながら困ったなあ、付き合ったばかりでお別れしたくないなあ、と思っていたら、魔王くんが走ってやってきた。
「リアナさんに何言ってるの。変なことするなよ。僕たちの事を邪魔したら本気で怒るからね」
魔王くんは本気で怒る顔をした。
最近前髪を短くしたので、怒ってもかっこいい顔だ。それじゃあ余計に女子に好かれちゃうよ。
「ええと……そうだ」
魔王くんは右手にエビルブレードを出した。
え、斬っちゃうの?
「僕たちの邪魔をした人には、これをくっつけます」
悲痛な顔をした悪霊を一匹捕まえると、引き攣った顔の女子に突きつけた。悪霊は『ヒョレ~』と悲しげな声で叫んだ。
「これに取り憑かれたら、若さなんて吸い取られちゃって、シワシワのかさかさなお肌になるんだからね! 肌がたるんで垂れ下がるんだからね! わかった?」
大変恐ろしい事を言われた女子たちは、きゃああと叫びながら走り去って行った。
「他の人にも伝えておいてよ!」
その背中に魔王くんが叫んだ。
「リアナさん、大丈夫? ぶたれたりしなかった?」
「大丈夫だよ、助けてくれてありがとう。でも、本当にそれをくっつけるつもりだったの?」
わたしがシワシワのかさかさなたるみ肌になりたくなくて後ずさると、魔王くんは悪霊を剣にくいっと戻してエビルブレードを消した。
「いやだな、脅しだよ。だって、こんなにたちの悪い悪霊を捕まえるのは大変なんだから。そう簡単には渡せないね」
そっちか。
「この剣を作るのは結構手間がかかったし、メンテナンスもしなくちゃいけない面倒な剣なんだけどさ、やっぱりすごく使いやすいんだよ。髪の毛を切るには不便だけどね」
「うん、髪の毛は切りにくいね。首までスッパリ切れちゃいそうだよね」
「うん、一撃で骨までスッパリいっちゃうよ」
魔王くんはにこにこしながら言った。
「男子って、そういうのが好きだよね。剣をいじるの楽しい?」
「うん、手間がかかるほど楽しいし、愛着がわくね。この剣ももっと魔改造して、なんか黒くて怖いやつを遠くに発射できるようにしたいんだ」
「うわあ、怖いやつが飛び出すようになったらすごいね」
「うん。できたらリアナさんに見せるね」
物騒な趣味を持つ魔王くんは、嬉しそうに頷いた。
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