本当の姿
「なあ、魔王って普通の人間の男の子っぽいじゃん。それが本当の姿?」
「ううん、違うよ。これはあまり悪目立ちしないように変えた姿なんだ。元の姿は人間が見たらちょっと怖いかも」
魔王くんは悲しげに目を伏せた。
「迫力があるのも魔王として大切なことなんだけどさ、僕は人間の友達が欲しかったし」
「それで普通の感じにしたんだ」
「うん」
「でもさあ」
男子が言った。
「俺たちもう友達じゃん? 姿がなんでも気にしないぜ」
「そうだよ、その姿でいるのが大変だったら、元の姿になっても気にしないからさ、無理はすんなよ」
「ありがとう。別に大変じゃないから大丈夫だよ」
魔王くんはにこっと笑った。
「元の姿だと角があるし目は赤いし、耳も尖ってるから、チョー魔族って感じなんだよね」
「羽もあるのか?」
「うん、出せるよ。黒くてカラスっぽいやつ」
「マジかよ! かっこいいじゃん」
「ちょっと見たいな」
「あ、わたしも見たいです」
隣の席からわたしも参加すると、魔王くんは少し赤い顔をした。
「え、そ、そう? リアナさんも見たいの?」
「うん」
「怖がらない?」
「外見がどうでも中身が魔王くんなら怖くないよ」
魔王くんはますます赤くなった。
「そうかー。じゃあ、ちょっとだけ見せようかなー」
「わあ、見せて見せて」
「おーい、魔王が変身してくれるって」
わらわらとみんなが集まってきた。
スペースを空けた真ん中に魔王くんが立ち「ええと、じゃあ、いつもの格好で行きます」と言って上着を脱いで椅子にかけた。
魔王くんが右手を振ると、黒い煙のようなものが渦を巻き、魔王くんの身体を包み込んだ。
「うおー」
「かっけー」
「魔王っぽいね」
「飛べるの? 飛べるんだよね?」
「羽はどこかにしまってあるのかな」
現れた魔王くんは、すごく背の高い男の人だった。
身長は2メートル近くあるかもしれない。
黒くてツヤツヤした長い髪が腰まであり、頭には二本の角が生えている。切れ長の瞳は真っ赤だ。そして、その顔はクールな整った美形だった。
服は大丈夫かなと思ったけど、黒いローブの様なものに変わっていて大丈夫だった。
「魔族は魔素の固まりから生まれるから、僕は生まれた時からこんな感じなんだ」
ばさり、と背中から一対の黒い羽が出てきて羽ばたいた。
みんな「おおー」と声を上げた。
「じゃあ、戻るよ」
再び黒い煙が出て、魔王くんは元の中肉中背の男の子に戻った。
「あ、しまった」
魔王くんの髪の毛がロングのままだ。
「髪の長さはそのままになっちゃうんだよね、どうしよう。剣で切って燃やすかな」
魔王くんは右手をエビルソードにした。悪霊が三つ出てきて、髪を切ろうとする魔王くんの邪魔をする。
「わあ、自分じゃ切りにくいよ」
長い剣では切るのが難しそうだ。すごくまがまがしくて、斬る気満々な剣だし。
「魔王くん、首を切っちゃいそうで危ないから後にしたら? わたしが髪をくくってあげるから」
「いいの? ありがとう」
わたしは予備に持っていた赤いチェックのシュシュを出した。魔王くんが眼鏡を外し、前髪を後ろに持ってきたので、髪の毛を首の後ろ辺りにひとつにまとめた。
「これで大丈夫だよ」
「リアナさん、ありがとう」
眼鏡を外したままの魔王くんがこっちを向いて笑った。
「あれ、この魔王くんもさっきと同じ顔なんだね。いつも前髪が長いからわからなかったよ」
髪を縛って顔がまる見えになって気づいたけど、魔王くんはとても綺麗な顔をしていた。目も赤い。
「うん、顔は同じ」
眼鏡をすると、瞳は黒くなった。
「じゃあ、大きい魔王になっても笑うとえくぼが出るのかな」
「えっ、僕えくぼがあるの?」
「うん」
「大きい魔王の時はあんまり笑うことがないから気がつかなかったよ」
「今度確かめてみたら?」
「……リアナさんに確かめてもらおうかな」
魔王くんはにこっと笑ってえくぼを見せた。
「リアナさん、あのさ、」
朝学園に来て席に座ったら、先に来ていた魔王くんに声をかけられた。
「なあに?」
「学園の創立記念ダンスパーティーの事を聞いたんだけど」
「ああ、そうね。もうすぐあるわね」
「それでさ……」
魔王くんは珍しく歯切れの悪い口調だ。
「そのさ、パーティーでさ、」
「うん」
「僕に、リアナさんをエスコートさせてもらえない、かな? そのさ、やっぱり一番親しくしてるのはリアナさんかなって思うし、もしリアナさんがよかったらなんだけどさ」
「いいよ、まだ誰にも声をかけられていないし。一緒に行こう」
「……まじ? わあ、やった!」
魔王くんは赤い顔をして嬉しそうに笑った。
「でも、わたしでいいのかな? 魔王くんは他の女の子で誘いたい人はいないの?」
「……なんでそんなことを言うの?」
「だって、魔王くんは女の子に人気があるんだよ」
そうなのだ、優しいし実は美形の魔王くんは、女子の間で結構人気があるのだ。本人は気がついていないようだけど。
「だから、隣の席だからってわたしで手をうたないで、他に誘いたい子がいたら……」
「リアナさんがいいんだよ!」
魔王くんはわたしの右手をギュッと握りながら言った。
「僕は、リアナさんと一緒に行きたいの! 他の女の子じゃなくて!」
わたしは真剣な顔をした魔王くんを見た。
「あ……そう、なんだ」
つられて赤くなってしまう。
「うん、わかったよ。えっと」
手、と小さい声で言うと、魔王くんはしっかりと握った二人の手を見て「あっ」と言い、慌てて離した。
「ごめん」
「ううん、いいよ」
「あの、じゃ、ダンスパーティー、お願いします」
「……はい」
その日はなんだか二人ともぎこちなくて、わたしは隣の魔王くんの事が気になって、一日中ドキドキしていた。
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