・光と影(2025/1/4に追加)

〈王国〉が〈大戦争〉に参戦した理由はいくつかあるが、一番の理由は〈王国〉海外領のユクス島が開戦初期に侵攻を受けたためだった。巨大な炭鉱を持つこの島を、戦前からどの国も欲しがっていた。


 本国からの援軍は間に合わないと判断した総督イサカは、領内の十七歳以上のすべての男子を防衛軍に召集して徹底抗戦した。これがやがては〈王国〉の参戦へとつながるのだが、飛行機や戦車が登場した〈大戦争〉は、上質な石炭を石ころ並みの値打ちにしてしまった。石油で回り始めた世界では、この西方の炭鉱島は忘れ去られた。


 それは派兵された兵士たちについても同じだった。心と体に傷を負ってまともに働けなくなった帰還兵たちには、経済成長重視な政府からは充分な補償がなく、やがて故郷や家族からつまはじきにされた。


「国に尽くしたのに、この仕打ちはなんだ!」


 輝かしく発展する社会の影で、そんなドロドロとした恨みがおりのように溜まっていた。

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