民生局の面談室(2025/1/4に加筆修正)

 町役場の裏にある民生局。倉庫を改装した狭い面談室で、トーイはミキノと話をしていた。遅くまで働いている母親の代わりに給付金の書類をもらいに来たトーイの顔を見て、担当官のミキノが「少し話さないか?」と誘ったからだ。


 ミキノはユクス島の鉱山技師だったトーイの父親と、同じ義勇防衛軍の自転車部隊にいた。


 あのときのヨレたカーキ色の軍服はピンとしたグレーの三つ揃いに、重いキャンバスのリュックは黒い革の書類カバンになった。けれども、まるで野良犬のようにすさんだ目つきはまったく変わっていなかった。


「……つまり、気になっている女の子の悩みをなんとか解決してあげたいが、うっとうしがられたらどうしよう、てことだな?」


 ボソボソと回りくどく話していた内容をミキノにザックリと要約されたトーイは、力なくうなずいた。


 そもそも、トーイはフィナと自分の関係をなんと言っていいのかわかっていない。お互いに恵まれない家庭環境だという一点だけでつながった、友だちとも恋人とも言えないあいまいな関係。けれどもそんなぬるま湯のような距離感が心地よくて、ずっと浸かっていたいと思うことさえあった。


 それだけに、踏み込んだことをしたらその関係を壊してしまうかもと思うと、まるで頭から冷水をかけられるように息が詰まる。


 うなだれてウンウンうなっているトーイを見て、ミキノは(あの小生意気なボウズが……)と意外に思った。父親の遺品を渡したときには、涙を流す母親の隣でオロオロしていたチビッ子だったのに、いつの間にか大きくなっていたらしい。


「なにをするにしても応援はするが、まだ若いんだから、やらずに後悔するなんてことはするなよ?」


 もっともらしくアドバイスをするミキノにトーイがジト目で「ミキノさんもまだ若いでしょ」と言い返すと、ミキノは余裕ありげに鼻を鳴らした。


(目つきは父親似なんだよな)


 トーイの深い緑色の瞳を見て、ミキノはふと懐かしくなった。

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