第5話 フリーランス
それからしばらくの間、影一は情報収集に徹した。
結果、いくつかのことが判明した。
世界で初めて”ダンジョン”と呼ばれる異空間が発見されたのは、2010年初頭らしい。
その後、世界各地……日本国外を含む全世界的にダンジョンが出現し、世界はその対応に追われた。
ダンジョンには、いくつかのルールが存在する。
・ダンジョンは現実と異なる空間である
・ダンジョンと地上は”ゲート”と呼ばれる門を通じて繋がっておりある日突然出現する
・ダンジョンにはモンスターが出現する
・ダンジョン内で戦うことでレベルが上がり、スキルやアイテムを入手できる
・ダンジョンを放置しておくと、魔物が外に溢れてくる
細かなルールはまだあるが、一般市民に影響があるのは最後のルールだ。
自然発生したダンジョンを長期間放置していると、魔物が外にあふれてくる――これを”ゲートクラッシュ”と呼び、近隣住民に多大な被害が発生する。
事実、世界的にもいくつか”ゲートクラッシュ”による被害が報告されており、日本も例外ではない。
それらの被害を防ぐため政府が新設した職業こそ、ダンジョンの魔物を退治する”狩人”と呼ばれる職業だ。
フリーの狩人もいれば、政府公認の専門狩人もいるなど、盛況らしい。
さらには将来的なダンジョン対策を行うため、高校生を対象としたダンジョン鍛錬の授業化。
安全性が確認された公営ダンジョンの運用、ダンジョン専門店の開設……
なかにはダンジョン攻略を専門とするライバーこと”ダンジョン配信者”や、ダンジョンの魔物を研究する”攻略者”、ダンジョンの魔物を食べる”ダンジョン飯チャンネル”等、大小含めてまさに混沌とした状況らしい。
それらを理解した影一は、数日じっくりと考え……
会社に、辞表を提出した。
リスクの高い道だとは理解していた。
元の勤め先はお世辞にもホワイトとはいえず、むしろブラックよりの職場だったが、それでも年金や税務的な補助を考えればサラリーマンは手厚く保護されている方だろう。
それでも辞めたのは、ダンジョンにて魔物を退治する専門の狩人――”掃除屋”と呼ばれる仕事が、自分に適任だと考えたからだ。
一人ダンジョンに入り、魔物を退治する。
素材を集め、宝箱を収集し、魔力を鍛えレベリングを行う。
それは前世で影一が親しんだ、LAWと同じソロ活動そのもの。
職場の人間関係に煩わされることもなければ、嫌な上司を精神的にいびって退職に追い込む必要もない。
影一にとっては、並の社畜よりやりやすい仕事だ。
もちろん、楽なことばかりではないだろう。
フリーランスとして依頼を受ける以上、依頼人とトラブルを起こすこともあるだろうし、収入も不安定にならざるを得ない。
確定申告のような面倒事もあるし、そもそも、モンスターと戦闘をすれば怪我をする危険性もある。
それを差し引いても、掃除屋の仕事は魅力的だ。
安心、安全、ノンストレス。
他人と関わることにより発生するストレスは容易に健康を害し、睡眠不足や消化器の不調、パフォーマンスの低下、さらには人生そのものの幸福を妨げる原因になる。
良い出会いが無い……とは言わないが、影一にとっては大抵の人間が、ストレス源となる。
であれば、なるだけ他者と関わらない仕事かつ、今の自分の能力をもっと生かせる仕事のほうが良いだろう。
そして、幾つか実験した結果……
やはり、影一の実力は異常と呼べるほど高かった。
政府公認のレベル測定器で測定すると騒がれそうなので自己診断だが、少なくともレベル100以上と推定される魔力量はある。
その膨大な魔力を用いることで、ダンジョン内だけでなく現実世界でも”インベントリ”を展開し。
容易に殺人を行えるほどの実力を持つのは、この世に、影一普通しかいないらしい――隣県まで赴き、公園でたむろしてたヤク中相手に”実験”して確信した。
であれば、自分に向いた仕事をこなしつつ、新しい日本で楽しく生きよう。
いわゆる、脱社畜をして自由に生きるというやつだ。
人付き合いは最小限に。
自分に親切な人には、こちらも最低限の礼を返しつつ。
面倒事をかけてくる連中は速やかに物理的に始末する、ありふれたノンストレスな日常を過ごしていこう。
……もっとも。
ある目的のため、日本に存在するS級ダンジョン……”四大ダンジョン”だけは、踏破しなくてはならないが。
よし、と影一はひとつ息をつき、スマホにぽちぽちと今後の予定を入力し始める。
こうして影一普通は、新しい日本にてダンジョンを攻略するフリーランスの”狩人”として生活を始め――
それから、二年の月日が過ぎた。
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