第23話
丹砂レイ。ネット上で活動していた有名イラストレーターであり、大手企業に所属する超有名ブイチューバーの立ち絵も複数手掛けた創作者だ。
彼女自身も自分のブイチューバーとしての立ち絵を作って配信を行なっており、歌唱やエンタメでも一定の評価を受けたマルチクリエイターだった。
彼女が『天皇同盟』の首謀者であるという情報が流れた時は、枝垂も多少は動揺した。彼女は、業界では知名度が高すぎるのだ。
その彼女が、今ベッドの上で体を起こし、しかし今にも消え去ってしまいそうな儚い雰囲気を出している。
元より髪も衣服も肌も白く、表情もどこかアルカイックで、石膏像のようにすら見える少女だった。ただ一つ、朱色の大きな瞳だけが彼女が生きている証のように思える。
病室には緊急でうつろ、枝垂、晶、巡が集まった。ラフィが出てこないのはいつものこととして、ローズが顔を出さないのは枝垂にとっては意外だった。彼女は、ずっとレイの起床を側で待ち望んでいたのだから。
事情を問うと、彼女はほんの少しの躊躇いを見せた。当然だ。自分が苦しめられた記憶など、進んで思い出したくはない。けれども必要と理解すると、彼女は微笑んで、喜んで協力すると言った。
ずっと眠っていたにもかかわず全く掠れもしていない麗しい声で、彼女は流暢に言葉を紡ぎ出す。
「フェンさん……ローズ・フェンタニルさんと喧嘩別れみたいなことになった後暫くして、とある人と出会ったんです。その人は僕みたいな自殺志願者を集めて、みんなで自殺できる方法を探そうと言っていました」
典型的な洗脳かつ煽動ですね、とレイは自嘲し、うつろは表情を強張らせてそれをじっと聴く。枝垂は見舞いとして持ってきた数輪の花を花瓶に挿した。
「けど、数ヶ月前に盗み聞きしてしまったんです。計画している、もしかしたら自殺できるかもしれない方法が、沢山の他人を巻き込む方法だって。不明瞭だったので、詳しくはわからなかったです……ごめんなさい」
「お気になさらず。その情報自体が値千金ですので。どうぞ、続けて」
「それを聞いて、僕、離反しようとしました。自分一人が死ぬために他の誰かを巻き込むなんて本末転倒ですので。僕は嫌だったから、チームを抜けようと。けど、あそこのリーダーはそれを許してくれなかった。……結果が、あれです」
おそらくは計画の一環なのであろう、『天皇同盟』の偽の首領として吊し上げられた。動きを封じるために、あんな惨いことをしてまで。
レイはそれを思い出してしまったのか、吐き気を堪えるように口元を抑える。巡が背中を摩り、数分してようやく落ち着きを取り戻した。喉の奥に迫り上がるものを飲み込むように喉を鳴らしながら、レイはようやく自分が持っている情報の全てを開示する。
「チームの名前は、『アルカディ』。そのリーダーの名前は……瀧手毬、です」
その瞬間、花瓶が割れる音がした。振り向くと、枝垂が水を交換してきた花瓶が彼の手から落ち、中の花と水ごと床に散らばっている。そして、枝垂の顔は愕然と固まっていた。
「手毬……さん……?」
瀧手毬。その名前はうつろも知っていた。
五年ほど前に『いろどりトリ』でライバーデビューした、人気ライバー。
そして、彼女が所属しているグループの名前は、『四季守家』。
つまり、枝垂の同期である。
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