第22話

「見てみてこれ!」


 朝、警察署に出勤してきたばかりの晶が一枚のポスターを掲げて叫んだ。一足先に出勤してきていたうつろと枝垂は目を丸くする。


「なんですか、それ」


「……始夏祭り? なんだこれ」


 彩豊かな夏祭りのイラストが描かれたポスターを覗き込んで、声を揃える。


「日取りは……六月下旬? まだまだ先じゃんか」


 現在は五月の始め。一ヵ月以上も先の話だ。


「お店出してくれる人とか、まだ募集してるみたいだよ」


「へえ。まあ、行きたいならご自由に」


 大して興味もなさそうにいなすうつろに、晶は頬を膨らませた。


「折角だからみんなで行こうよぉ」


「晶、きみ普段なら巡と二人っきりで行きたいとか言うんじゃないか?」


「えー、二人でもいいけどさ、だって三年ぶりのお祭りだよ。みんなでわちゃわちゃしたいしし、賑わせたいじゃん」


 この三年、誰も彼も祭りを開催しようなんて思わなかった。思えなかった。そんな余裕はなかった。けれど少しずつ情勢が安定してきた今なら、ほんの数日の祭りを楽しむ程度の暇はできたということだ。


「みんなでエンジョイしようよパーリナイ」


「私はいいですよ。楽しそうですし、夏祭りとかほとんど行ったことないので」


「僕も別にいいんだけどさ、ちょっと嫌な予感がするんだよね」


「嫌な予感?」


「そ。例えばほら、そこに……」


 うつろが指した先の壁に唐突に切れ目が現れ、そこから黒衣に包まれた手が伸びる、枝垂の手からポスターを掻っ攫った。


「楽しそうでありんすなぁ、みなさん」


「うわぁっ⁉︎」


 壁と同じ模様と色をした布を取り払って、姿を現したのは孤霧である。彼女はポスターをしげしげと見つめて、すぐに枝垂に返す。


「でもこれ、多分荒れると思いんす」


「あ、荒れる?」


「だって、祭りと言えば花火でありんしょう? 花火と言えば、わっちらが追っている犯罪者がいるでありんす」


「……! 炎火にとろによる犯行が予測されるってことか」


 うつろは思わずソファから立ち上がる。


「犯行予告が来ている訳ではありんせんし、不確かではありんすけど……この祭りに張り込む価値は、あると思いせんか?」


 孤霧が淑やかに口元を隠した。その楚々とした言動と裏腹に、瞳はにんまりと細められている。それに応えるように、うつろはニヤリと好戦的に挑戦的に笑み、宣言した。


「ありすぎる。……総員、聞いてたな。始夏祭には一般客のふりをして張り込むぞ」


「えぇーっ⁉︎ お祭りなのに仕事ぉ⁉︎」


「まあまあ。一般客のフリって言ってたから、何も飲み食いするなって言う訳じゃないでしょ。ほどほどに楽しも。それくらいはいいよね、うつろさん」


「勿論。ただし、必ず二人一組で行動しなよ」


「りょーかいっ!」


 まだ一ヶ月も先のこととは言え、されど一ヶ月だ。普通に仕事をして過ごしていれば、すぐに過ぎて行くだろう。

 そうして、一ヶ月が過ぎ去るのを待って数日が過ぎ。

 スーサイド小隊に嬉しい報せが舞い込んだ。


 丹砂レイが、意識を取り戻したのだ。

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