星の砂-15
「トウナ! ゲノスの知り合いがいたのか!」
「うわぁ、おかえり。びっくりした。なにかと思えば」
「助かった。君には助けられっぱなしだ」
キノと明日、青い太陽が昇った時に宿屋前で待ち合わせの約束をしていた。酒場の営業を終えてゼナイドとエクトルは、少し眠そうなトウナにひたすらお礼を言い続けた。
キノは数日前からリルレに来て、宿屋を利用していたと言う。来た当初、砂まみれだった姿を思い出して、トウナは声をかけたらしい。「よかった。お役に立てて」
翌朝、トウナの出勤にあわせてゼナイドとエクトルは宿屋に赴く。宿屋の入口前には、いろんな荷物を携えたキノが立っていた。「いやあ。どうもおはようございます」
またもやトウナに見送られながら、3人はリルレの外へ向かう。
「昨日はどのようにして頑張ったので?」
「ひたすらスナクイリスを探した」
「ああ…間違ってはいませんので」
キノが言うには、星の砂を0.5g集めるにはなかなか苦労があるらしい。それを聞いたふたりは、かなり絶望の淵に立たされた気がした。
「”エールテーレ”という生き物がいます」
エールテーレという生き物は、カメのような生き物だと言う。半球の形をした甲羅を持つ巨大な生き物。普段は眠っているのだが、数十年に一度目覚めた時、のそのそと数十年をかけて別の場所へ移動し、また数十年の眠りにつく。
「ゼナイドさんはご覧ありませんので? 少し、他と比べてもこっと丸い台地のような地形」
「わからない。意識したことがないからかな」
エールテーレの長期間微動だにしない甲羅は、その上で独自の生態系を持っている。エールテーレの甲羅の上に集落があることも珍しくない。エールテーレを知る者は、一度でいいからエールテーレの上に住みたい、なんて願いも持つくらいだ。
「そんなに大きいのか?! リルレより、大きいんじゃないか…?」
「ええ、そこらの町や村よりは大きいですので」
「そんなに大きい生き物が、数十年おきに移動をしているのなら…こう、問題になりそうだが…いろいろ」
「地中を泳ぐように進みますので。生き物感がないのです。それでいて、本当にの〜んびり屋さんで、動いていることに気付く者はなかなかいませんので…いくらか、昨日まであった景色がズレている!? と言った事例があるそうですが」
「世界は広いんだなぁ…」
キノのように、地面を研究をする分野で、大陸地学というものがある。キノ自身は大陸地学を直接は研究していないというが「キノは魔法地学ですので」、精通しているのは間違いない「キノは単なる専門バカになる気はありませんので」。
大陸地学の中でも、エールテーレについて研究をする者は少なくなく、彼らのおかげでエールテーレについても随分理解される部分が増えた。
エールテーレは現在大陸上に7体生息しているという。移動ルートは大まかに3種類ほどあり、7体の大陸上の分布は把握できるようになっている。ゼナイドが見かけた、星の砂を狙ってスナクイリスを狙う連中は、大陸地学の研究者だったのかもしれない。
「エールテーレは、年々減っているのか?」
「減ることはありますが、いなくなることはありませんので、心配いりません」
「ってことは、ある程度繁殖するのか? 絵面が意味わかんねぇな…」
「地中でサクッと終わりますので」
「ききたくなかった…」
エールテーレの移動ルートに、リルレの町付近は入っているという。なんなら比較最近までエールテーレがこの辺りに滞在していた可能性は高いらしい。
「星の砂は、エールテーレに起源するのか?」
「はい。エールテーレの糞です」
エクトルが足を止めた。ゼナイドはキノの言葉を脳内で反芻して、その上で理解することを認めたくなかった。
3人の眼の前にはリルレの町の門。くぐれば外へ出られる。見るからに扉とわかる大きな門は閉じているが、馬車が通れる程度の小さい門が別にあり、そこは常に通れるようになっている。
キノがゼナイドとエクトルの手を取り、走り出す。ふたりはキノに引っ張られてしまう。
「行きますよ! エールテーレの糞を見つけるため!」
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