第八話 久自良と源。
十月。
十一月。
勝利を飾った兵士たち、
実際に戰った兵士はもっと多いが、この千七百九十人余りは、そのなかでも、とくに活躍の目立った者である。
───わあああ……。
───
───勇壮な
見物人たちは、手をふったり、拍手喝采でそれを迎えた。
「あれっ、
見知った鎮兵たちが目の前を歩く。
「
源は声をはりあげる。
(
いや、列の向こうにいて、見逃しただけかも。それか、平城京に呼ばれなかっただけか。きっとそうだ……。)
源は不安にかられつつ、過ぎ去ってゆく兵士たちを見つめた。
源は招かれていないので、
(大川さま、伝言頼みました。よろしくお願いします……!)
* * *
他の兵士たちも活躍に応じて、
夕刻は盛大な宴が、
前副将軍として、
とくに叙勲されたわけではなく、無事、勝利をおさめた将軍たちをねぎらい、
宴もたけなわ。
充分ご馳走を飲み食いし、兵士たちが満足そうにゲップをする頃。
高官の席から、大川がつと立ち上がり、さりげなく、
「
「……ヒェッ! 大川さま。」
「良い、そのままで。」
「
明日、
「
「ふふ。元気だとも。では、伝えたぞ。」
大川は
(源、大川さまを伝言に使いやがった! まったくアイツは……。
きっと、源は、くりくりした目でまっすぐ、大川さまにお願いします、と頼んだのだろうな。)
福耳の源は、人にお願いをするのがうまい。
愛嬌たっぷりにニコニコ笑いながら、素直にお願いするからだ。
お願いされた人は不思議と、お願いを聞いてしまう。しかも、悪い気がしない。
(源、たいしたヤツだぜ。変わらないな。いや、
しかし、乗りたいと言って、すぐに乗れるものでもあるまい。
うーん、どうしてるかな。会うのが楽しみだ!)
* * *
翌日。
源と
「源ぉ!」
「久自良! よくぞ生き残ってくれた!」
命を預けあった親友たちは、がっちりと抱き合い、背中をたたき、再会を祝した。
「終わったんだな、
「ああ、終わった。」
「
「ないない。死なないよ、真比登は。
真比登は鎮兵を辞めた。
「そうなのか……。」
真比登は、
「もったいない話だが、真比登はそれで幸せなんだろうな……。できれば、顔が見たかったな。
嶋成は?」
「生きてるよ。五体満足。嶋成も鎮兵を辞めて、
嶋成のヤツ、
「………。」
源は不覚にも、目頭が熱くなった。
(嶋成。オレもできる事なら、その場にいたかったよ。身体が二つあれば……。)
「わかった、それで、
源は、一番
「無事さ。何の変わりもなく、元気だ。
(
源は、長く息を吐いた。身体から力が抜ける。
「良かった……!
「オレはもう、十月に
考えればわかることだった。
源は苦笑する。
「それもそうだよな……。忘れてくれ。」
「源は、自分で
「ああ。今はその時じゃない。
オレが
「そう、言いきるという事は……。」
「オレ、
源は胸を張る。
久自良は小さい目を見開いて、驚きのあまりのけぞった。
「おお……、すげぇ。おまえ、本当にすげぇよ。夢、叶えちまったんだな。」
「まださ。まだ、唐にたどり着いたわけじゃないからな。」
「うべなうべな(そうだな)! でっけぇ
「ぷっ。」
源は懐かしさで、ふきだした。
うべなうべな、とは、奈良では使わない。
源も当然、口にした。
でも、奈良に戻ってきてからは、誰も口にしないから、源も口にしないよう、封印していた。
「うべなうべな……。」
久しぶりの言葉を口にし、源は目元に涙をにじませ、くしゃりと笑った。
「仲間って良いもんだな……。
なんだろ、すごく、
「うべなうべな(そうだろそうだろ)!」
久自良が手をだしてきた。
積もる話は夕暮れまで続き、
「源。嶋成が、
「わかった! 必ず!」
かたい
* * *
実際は、
その後、源は、
(
それさえわかっていれば、充分だ。)
源が
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093089034217916
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