とある女子大生の物語「レンタル彼女」

 これは一年前の話。


 大学一年生の頃。私は友達に誘われて、いわゆる『レンタル彼女』をやっていた時期があります。


 レンタル彼女は、お金を貰う代わりに、お客様の恋人や彼女として一日一緒に過ごす、お仕事ですね。


 男性客が多いイメージらしいですが実際は、女性客も多いんですよ。女性客の場合は恋バナの相手になったり、合コンの数合わせに呼ばれる事が多いです。


 友達の場合は、金銭的に苦しい生活をしていたので始めたみたいですが、私の場合は趣味です。昔から人と話すのが好きなんです。あと、日によっては美味しい料理をご馳走して貰えましたし。ふふっ。


 では、なぜレンタル彼女をやめたのか?


 それを今から、お話します。


 あれはレンタル彼女を初めてから二ヶ月ぐらいの頃でしたね。


 ■■■という名前の気前のいい、お客様が居たんです。その人とは遊園地デートに行ったんですけど、園内のお高いレストランで食事を奢って下さっただけではなく、お土産も買って下さって――顔もイケメンで、気遣いもできて――まさに『理想の王子様』という言葉が似合う方でしたね。まぁ、理想なんて人それぞれなんですけど。


 ですから私、疑問に思ったんです。

 どうして■■■様は『レンタル彼女』なんて利用しているのだろうと。見るからにパーフェクトな方です。彼女ぐらいすぐにできるはずです。


 だから私は理由を尋ねてみました。そうしたら■■■様は、こうおっしゃいました。


「俺のつまらない話を聞いてくれる人が欲しかったんだよ」


 と……。先ほども述べた通り私は、人の話を聞くことが好きです。趣味です。だから「私で良ければいくらでも聞きますよ」と答えました。


 すると■■■様は一枚の写真を見せてきました。それは、黒色の振袖を着た七歳ぐらいの女の子が彼岸花を背景に笑っている写真でした。


 綺麗な子でした。


 可愛らしい子でした。


 幼いながら顔立ちは整っていて、伸びた髪は小野小町を連想させるぐらい綺麗でした。


 黒色の振袖というものは着る人を選ぶ――

と昔、着付けをしている方から聞きました。 しかし、この子が持ち合わせている上品さは、黒色の振袖によって、より引き立っていると感じました。それぐらい綺麗な女の子だったんです。


 同時に既視感というか、なつかしさも感じましたね。理由は分からないけど、なつかしくて涙が止まらなくなるかんじ。


「妹さんですか?」


「いや、幼なじみだよ」


「では、これは幼なじみが子供のときに撮影した写真ですか?」


「そうだね。彼女が五歳の頃に撮った写真だよ」 


「へぇー、五歳の時点でこんな美人だなんて。今は絶世の美女ですか?」


「いや……」


 ■■■様は苦笑いしました。


「それがねぇ。今は……たぶん亡くなっているんだよね」


「そうでしたか……余計なことを聞いてしまい申し訳ありません」


 私はとっさに謝りました。

 すると、■■■様は、しかめていた顔を戻しニコリと笑いました。


 結局、あの後は何事もなく家に帰ったんですけど、帰ってきてから気が付きました。

 そういえば、あの子、同じ幼稚園に通っていた友達でした。


 一週間後また■■■様からデートのお誘いを受けました。今回は都内にあるカフェで食事をするだけです。


 そこで、また写真を見せられました。

 今度は、黒いフードを着たお婆さんの写真と、○○大社で初詣をする女性の写真でした。■■■様いわく、お婆さんは近所の知り合いで、女性は元カノらしいです。


 失礼を承知の上で私は聞きました。


「まさか……この二人も亡くなってはいないですよね?」


 ■■■様は笑顔で答えました。


「お婆さんは死んでるよ。元カノは……近いうちに死ぬと思う」


「まさか……私も死にませんよね?」


「まぁ……暫くは」


 


 

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