短編「後ろ手」(ネット掲示板から一部抜粋)

*某有名オカルト掲示板に掲載されていた怪談を、一部抜粋しました。



 みんな、人生に疲れた時って何処に行く?

 山、海、あと、温泉地とか、パワースポットかな?


 私は■■■■神社に行ったよ。

 ほら、よく心霊スポットとかホラー小説のモチーフにされている、あの場所。


 病んでいる時に、そんな場所行くなって?


 むしろ、その逆だよ。

 ■■■■神社には、昔から神隠しにまつわる噂が多いじゃん?

 嘘をつくと子供の怨霊が現れて、彼岸に連れて行かれるとか、なんとか。だから『この世ではない、どこか』に連れて行って貰えるかもしれないなぁ、と思ったの。あの時は、とにかく全てが嫌になって、何も考えたくなかったの。


 あっさりと就活が終わったまではよかったものの、会社内での人間関係には疲れたし。自分が周りと比べて、どのぐらい劣っているのか自覚させられた。本当に、本当に、何も考えたくなくなって。本当に、本当に、あの時は人生辞めたくなっていた。


 だから、思い切って■■■■神社の境内で、悩みを叫んでやろうと思ったわけ。ちゃんと神職の方や、他の参拝客が居ないことを確認してから叫んだからね。そこは気にしないで。


 ■■■■駅までは……駅から乗り換えて一時間ぐらい。ちよっと移動は大変だけど、人里離れているからこそ、秘境と呼ばれる価値があるよね。


 まず最初に参拝してから、社殿の裏に回った。■■■■神社は山の上にあるから、社殿の裏は他の山々が連なる絶景スポットなの。

 気になる人は画像検索してみてね。


 まず、手始めに「全然、会社の給料上がらないんだけどー!」と叫んでやった。しばらくしたら、私の愚痴は普通にヤマビコとなって返ってきたよ。どうせなら神様から「いや知らねぇよ!」とか返ってきたら面白かったけど。


 次に「どうせ私なんて、居なくなっても誰も困らないよね!」と叫んだ。そうしたら体が重くなった感じがして、目尻から涙が溢れてきた。


 それで、そのまま感情に任せて次は「もう何も考えたくない。水になって溶けて消えてしまいたい!」と叫んだ。そうしたら、もう立ってもいられなくなって座り込んじゃったの。きっと、また普通にヤマビコが帰ってくるんだろうなぁ、と待っていたら「お姉さん、嘘はいかんよー!」という言葉が返ってきたの。


 まさか、私の叫びを聞いた誰かが返してくれたのかもしれない。「ありがとう」と返したくなって立ち上がった。そうしたら、後ろから男の人に呼ばれたの。服装からして神職の人に見えた。私はすぐに、立ち上がって謝った。

 きっと怒られるだろうな、と思って身構えていたんだけど神職の方は「良いんですよ」とだけ言って、笑ってくれた。今思い返すと本当に良い人だったわ。本当に。


 それで神職の方は最後に、こう言ったの。「それよりも、黒い袴を着た五人程の子供達が、貴方の背中を引っ張っているように見えたのですが……」とね。


 今思い返すと、かなりホラーな話だけど、あの時、私は安堵した。だって、私が子供の神様(?)に連れていかれそうになったということは、今まで私が叫んでいた事は全て嘘だったということになるもの。


 


 

 

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