第5話


 空を見上げる。


 あの渡り鳥たちは完全に姿を消し、ただ澄みきった青い空だけが私の身体を包み込んでいる。


 そう、私の身体にもはやうんちはかかっていない。


 安息の時間を私は手に入れたのだ!


 島ポイントはこの前使った分を含めて11.35ポイント!!


 還元したうんちの数?そんなの考えるな!!


 過去を振り替えるな、未来へ向かって突き進むのだ!!


 そんな感じでやっていこうかと思いますが、実は今貯まっているポイントは5.35ポイントで、この前の1ポイントとは別に5ポイントを既に使っている。


 永遠続くうんちの掃除にちょっとした刺激が欲しくて使ってしまったのだ。


 その結果得た能力は異世界転生の定番。


 主人公の優秀なお供、『鑑定スキル』である。


 言うまでもないと思われるが、物だったり生き物だったりの名前やそれの説明についてが見れたりするアレだ。


 鑑定スキルの有り無しで異世界生活は間違いなく大きく変わる。


 いや、鑑定スキル持っていない転生または転移主人公は沢山いるじゃないかと、そう思われる方に私は異論を唱える。


 というのも考えてみてほしい。


 まず主人公がいる。


 主人公はとある場所で巨大で凶悪な、もう見るからに威圧感を放っているモンスターと遭遇する。


 そのモンスターは大抵、現地人にとっては生半可に倒せるようなちゃちな物ではなく、死を決して戦いに挑まなくてはならないような存在だ。


 その時、主人公の取り巻き、これもまた大抵の場合ヒロインであることが多いが、その人が主人公にこう言うのだ。


「『○○○○』!?何でこんな所に!?」

「主人公!ダメよ!あのモンスターは一匹で街を滅ぼしたことがあるのよ!!?」

「もうっ!本当に話を聞かないんだから!良いわよ、どこまででも付き合ってやるわよ!!」


 こうして主人公一行は死地へと身を投じる。


 これが異世界転生における伝統である。


 しかしながら私の場合、完全にソロ。


 私には相手のモンスターの名前を伝えてくれるヒロインも、ツンデレ気質で文句垂れてもどこまでも主人公に付いていくヒロインもいない。

 

 だから私の場合、同じく凶悪なモンスターに会ったときこうなる。


「ふっ、強そうなモンスターね」

「そう、とっても強そうな……」

「えぇ、本当に強そうで、えぇと、名前は知らないけど……」

「とにかく、えっと、行くわよ!てぃやーー!」


 こんな格好付かない感じになってしまう。


 しかしこの時、鑑定スキルで相手の分析をするだけで物語的にも戦闘前の、読者をワクワクさせる展開が作り出すことができる。


 だからこそ、異世界転生に鑑定スキルはお決まりであり、そして異世界転生した私にも鑑定スキルが必要だったのである。


 島である私に戦闘シーンなんて存在しないんですけどもね!


 とはいえ、こういう形からでも異世界を実感しないと気が狂いそうになったのも事実なので多少はポイントの無駄遣いは許していただきたい。


 ただし怪我の功名とでも言うべきか鑑定スキルを得たことであることが発覚したのだ。


 それは鑑定スキルをゲットしてすぐ効果を確認しようと例のうんちにスキルを発動させたときのことだった。


プープバードの糞

 プープバードの落とした下痢糞。

 

 と表示されたことはともかく、いくつかのうんちの中に別のものが紛れ込んでいることが鑑定スキルで分かったのだ。


 見つかったのは植物、おそらくは果物、に入っていたと思われる種だ。


 そして注意して見たらこれまでに還元したうんちの中に入っていた結構な数の種が島に転がっていた。


 つまりうんちしかない私の島に新しい資源がやってきていたのだ。


 一回種をポイントに還元してみると0.05ポイントになった。が、しかしただ還元するだけでは大体1、2ポイントになるだけである。


 そこで私は妙案を思い付いた。


 種なんだから育てれば良いじゃないか、と。


 島の今の土地は岩石で到底植物が育つ栄養も水もないが、ポイント消費で地質変更が出来る。


 まだ実際に使ったことはないが、地質変更の仕様は地質の種類とその面積で消費すべきポイントが変動するようになっている。


 例えば、一般的な土であれば1ポイントに対して百平方センチメートルくらいの土地を変更出来るが、栄養満点の肥沃な土となると1ポイントで1平方センチメートルくらいの土地しか変更できない。


 これらは一例で変更できる地質の種類は頭が痛くなるほどあったのだが、その中でかなり悪用が出来そうなものを見つけたのだ。


『いかなる植物であろうと何もせず育つ伝説の土』

1ポイント=0.001平方センチメートル


 1ポイントではもう目に見えないくらい小さな土地しか変更できないが、10ポイント使えばギリギリ一番小さな種が埋まるだけの面積になる。


 常識的に考えれば米粒以下の小さな土地で植物が育つ訳がないが、そこは伝説の土。育ってくれなきゃ困る。


 そういうわけで鑑定以外にも初級のスキルが得られる5ポイントまで貯まったが使わずにとっておいているのだ。


 ……のだが、残り半分のここにきてうんち供給ストップとなったためポイントを得られる手段が皆無。


 あの時、鑑定スキルじゃなくてゴーレム操作スキルをとっておけば海辺で泳ぐ小魚を取ってポイントに還元したりとか出来たのかな、とか思わないこともないが致し方がなし。


 まさかうんちの再来を望むことになってしまうとは思いもよらず。


 今の私に出来るのは小魚たちを鑑定し暇を潰すことだけである。



 

 


 



 

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島そのものに転生しました 森野熊次郎 @KUMAGIRO23

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