35.今度の体調不良は
♦︎
[朝ごはん準備中]
正月も終わり、そろそろ寒さもなくなりつつある今日、暖房をいれて朝ごはんを手掛けてる時だった。
──────がたっどさっ
詩能さんの部屋からものすごい音が響いた。その物音にびっくりして付けていたIHのスイッチを切りながら詩能さんの部屋に駆け寄る。ノックをしてから扉を開くとベッドから半分以上体が出て床に寝そべった詩能さんがいた。
「う、詩能!? 大丈夫?」
「ぅ……ぅうん……ゅ……?」
抱き起こすと虚ろな目で見上げる詩能さん。顔もどこか赤かった。
「詩能、ちょっとごめんね」
「……?」
前髪をほんの少しだけ掻き分けて左手を額に置く。じわりじわりと人肌より熱い体温が掌から伝わってくる。
「熱出てる……。今日はもうこのままベッドで横になってて詩能」
「……で、も……」
詩能さんの声は少し枯れていた。僕もそうだったのかなと思いつつ、詩能さんのベッドを整えてから詩能さんを抱き上げてベッドに横たえさせる。
「少し待ってて」
毛布をかけてから一度リビングに戻って、冷蔵庫から冷えピタを取り出して、棚から温度計を取り出して再度戻る。
「おでこに貼るから前髪よけるね」
「……ん」
詩能さんが自分で前髪を分けてくれて僕は小さく感謝を言いながら額にゆっくり冷えピタを置く。冷たさで詩能さんは目を細めて「ひゃっ」と声を漏らすのを聞いて微笑う。
「詩能。脇に温度計入れて熱を測ってくれる?」
「わかった」
「いまご飯作ってたけど作るもの変えるよ。食べる気力はある?」
「何を作ろうとしたんだ?」
「んー……まだそこまで決めてなかったけど、スープは温めてたかな」
「……ごめん」
バツが悪そうな顔で謝る詩能さんに笑って大丈夫と返す。
「さっきも言ったけど別にそこまで決めてなかったから良いよ。でもお腹空いてる?」
「ん。お腹空いてるけど……」
「あまり気力無いか。分かった。軽めのもの作るよ」
ピピピと音が鳴り、詩能さんから温度計をもらう。表記は38.6とあった。割と高い。
「良し。ちょっと待っててね。今作ってくるよ」
「ぁ……ん。分かった」
リビングに戻った後、温度計をアルコール除菌してからしまい、作りかけのスープに目を向けて顎に指を当て考える。
作るにしてもあまり重いものや味の濃いものは控えた方がいいだろう。
「……米もあるしお粥にするかな」
幸いスープは出汁を入れて少ししか放置していない。出汁は昆布出汁だから程よく再度煮込んでから米を投入しよう。味付けは……あぁ、鮭ほぐしあるしそれでいいか。
「ん。出汁はこれくらいでいっか。あとは熱を弱火にして米を入れてあとは10分以上待つか」
蓋を閉めてタイマーで時間をセットして小鍋を見つめながら放置する。
──────ピピピピピ。
気付けばタイマーが0になっていた。タイマーを止めて、10分蒸らす。蒸らした後、鍋を開けてみる。ふっくらと炊きあがり、実に美味しそうだ。僕は笑みを浮かべてお盆を取り出して、鍋敷きを置いてから鍋を置いて、小皿とおたま置くための小皿、スプーンを置く。コップと水入れたポット、風邪薬を持って詩能さんの部屋に向かう。
「詩能〜入るよ〜」
『あ、あぁ』
お盆の上部真ん中を片手でおさえて、お腹に下部をお腹にあてながら扉を開けて中に入る。すると上を脱いだ詩能さんがベッドの上で座っていた。
「えっ、う、詩能? な、なにして……!?」
「あ、す、すまん……汗、拭きたくて」
バッと上着を着て、ぺたりと座り込んでこちらを向いて力のない笑みを詩能さんは浮かべていた。
「何を作ってきたんだ?」
「お粥。鮭ほぐしを入れて作ったからほんの少し塩分多いかも。食べれる?」
「ん。食べる」
ベッド脇に座って、床にお盆を置く。蓋を開けて小皿に2回くらいおたまでお粥をすくいいれる。
「あー」
「……ふはっ。分かった。ちょっと待ってね」
スプーンでほんの少しだけ掬ってふーふーと息を吹いてから口を開けて待っている詩能さんに向けていく。
「はむ……ん、美味しい」
「良かった。塩っ気とかは大丈夫?」
「んっ、だいじょぶ」
にぱっと笑う詩能さんはいつもとは違う笑顔でなんというか……子供っぽくてとても可愛かった。
♦︎
[食べさせた後]
薬も飲ませて横にさせる。食器等を片付けた後部屋に戻る。詩能さんはまだ寝ていなかったようで部屋に戻ると横になったままこちらに目を向けて毛布で口を隠していた。
「どうかした?」
「……もう来ないかと思ってた」
「…………」
詩能さんの言葉にきょとんとするけど言いたいことを理解して笑いながらベッドの隣に頬杖をつく。
「僕が熱出して寝込んだ時は横にいてくれたでしょ? それにこういうときの寂しさとか分かってるから。だから寝てても離れたりしないよ」
「〜〜〜〜〜っ!」
ばふっと顔全体を隠したかと思ったらチラッと目だけを出して僕を凝視した。そして左手をスッと毛布から出した。
「起きるまで握ってるよ」
「ん。握ってて」
ぎゅっと握ってあげると詩能さんは照れ笑いを浮かべて目を閉じた。程なくして安心したのか分からないけど寝息を立て始めた。
「……ふはっ」
寝顔はとても可愛かった。そうしてどれくらいの時間寝顔を見つめていたか分からないけれど気が付けばぽふりと頭を毛布に乗せて僕もまた眠りこけた。
♦︎
[数時間後]
ふと目が覚める。腕を枕にしていたからかとても腕が重い。その煩わしさに眉を顰めつつ目を開ける。
「あ。起きた。おはよう理和」
目を動かすと体を起こして僕を見ながら笑っている詩能さんだった。体を起こすとぱさりと何かが落ちる音がした。
「……あ、もしかして掛け毛布を」
「あぁ。さっき私が起きた時にはお前が寝ていたからな。だから掛けさせたよ」
「そうなんだ。ありがとう。詩能は体調の方はどう?」
「だいぶ良くなったよ」
「良かった。んん……ようやく腕の重さ無くなった」
腕を曲げては伸ばしてをして軽く揉んだりしてなんとかいつもの感覚に戻った。
「あぁそうだ。体は重くない?」
「まだほんの少しだるいがまぁ良いだろう。でも少し体がベタついてて嫌な感じだ」
「それじゃあ……シャワー浴びよっか。湯船入れてくるよ」
「……なぁ、理和ぉ?」
上目遣いで見つめながら口を少しだけ窄めて詩能さんが言った。
「…………一緒に入らないか?」
……まぁ、体調崩してるしね詩能さん。
「……背中流すだけだからね」
「……っ! ありがとっ! えへへ」
…………たまには良いのかもしれないね。
「あっ、ちょっと待ってくれ理和」
「うん?」
部屋を出掛けた僕を止めてベッドから詩能さんはゆったりとしたペースで降りて、僕に近寄った。
「ほんとはまだ治ってないからダメなんだが……私がしたい」
スッと爪先立ちになってキスを数回した。
「すまない理和」
「良いよ。きみに移されるくらいなら別に」
扉に背を当てつつ未だ少しいつもより高い体温を右手どころかぎゅっと抱きしめて全身で感じながら今度は自分から唇を重ねる。ふわっとまた少し詩能さんの体温が高くなったと思う。でもそれは嬉しくなったからだろう。
ズルズルと扉に当てていた背がそのまま下へと下がっていく。
「……ぷふふっ。私たち、ダメダメだな」
「キスってすると気持ちいいからね」
なんというか詩能さんとのキスは堕ちやすいのかもしれない。そして今度また体調崩すのは僕かもしれないなぁなんて思いながら笑い合ってお風呂を入りあった。
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