26.Wデート
♦︎
[?????]
とても真っ暗でライトの灯り2つ。しかしその灯火は足許を照らすばかりで前の一つすら見えない弱々しい懐中電灯。その時に左右、少し後方からけたたましい音が響く。
『!!!!!!!!!!!』
「にゅわぁぁぁああっ!? むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりぃ!!!!!」
「えぇちょっ、待っ! あっ、こらっ! どさくさに紛れて創も逃げんな!!!!! 僕だって怖いんだからなぁっ!!!!!」
真っ先に走り出したのは詩能さん。次点で杏香、そして入る時は乗り気だった創。その後を追う僕。
なんでそうなったのか。それは1週間も前に遡る。
♦︎
[1週間前 自宅マンション]
「「だ、Wデートぉ?」」
家に遊びに来たいとLIMEした杏香。僕は詩能さんに聞き、許可を得て杏香と創を家に誘った。そんな折だった。
「そっ。お兄ちゃんと詩能ちゃんはもう何度もデートしてると思うけどぉ……。たまにはわたしたちと一緒にデートしてもいーんじゃないかなって。ねっ、創くん」
「おう。つっても、提案したのは杏香ちゃんなんだけどよ。どうだ? お二人さん」
「どう、って言われても……詩能、どうする?」
「ふむ……行くにしても何処に行くんだ?」
あ、結構乗り気だ。詩能は至極冷静を装ってるけど、とても楽しそうな雰囲気なのが伝わった。
「ここに行きたいなーって思ってるんだけどどかな?」
「ん? ここって」
「詩能、知ってるの?」
「ここはお化け屋敷が本格的で有名だな」
「そうなんだ。どうする? 行ってみる?」
「行こう。Wデートというものをしてみるのも良いかもしれないな」
「よーしっ! じゃあ1週間後に遊びに行こっ!」
話はそれだけにその後はテーブルゲームで遊びに遊んだ。
「ねー、杏香、創ー。ご飯食べてくー?」
「おっ、良いのか?」
「もうこんな時間だしね。良いよね詩能?」
「ふふっ。問題ないぞ。人が多い方がよりもっと楽しめるからな」
「やった〜! 久しぶりにお兄ちゃんの手料理だ〜!」
♦︎
[1週間後 電車内]
駅前で杏香と創と待ち合わせをして電車に乗って遊園地に向かう。
「行ったらまず何乗ろっか?」
「そうだなぁ。やっぱコースターは外せないよな!」
「パッと調べた感じだとメリーゴーランドとかもあるみたいだね。色々乗る?」
「理和は何乗りたいんだ?」
「んー、一通りは楽しみたいなって思ってるかな」
「お化け屋敷いつ行くー?」
「そりゃあまぁ、だいたい楽しんだ後じゃないか?」
僕と創は立って長椅子に座る詩能さんと杏香を見る。詩能さんはメイクをしているのを見たけれど杏香も薄くだがメイクをしていた。してなくても可愛かったが、メイクをすると可愛さがより上がって僕の妹として誇らしい可愛さだ。別にシスコンではないが。
「どれくらい怖いんだろう?」
「参加した人たちの多くがリタイアするくらいには怖いらしいぞ」
「えっ……」
「おー? 理和はそういうの苦手な感じか〜?」
隣からジト目でニヤニヤしてくる創の額をデコピンする。
「あだっ!? おい、ヒドくないか!?」
「茶化したからつい」
「ついっておっまえなぁ」
そんな僕たちの絡みを見て2人は肩を震わせてクスクスと笑っていた。
「ほんとお前たちは仲が良いな」
「んお? あーまぁ……気付いたら仲良くなってたもんな俺ら」
「最初はきみからズンズン来てたけどね。正直、なんでこんなに絡んでくるんだろって思ったよ」
「ウザがられてる〜」
「段々、理和の俺に対しての扱いが酷くなってやがる……」
「ぷっ、くく、ふふっ……! ごめんごめん」
「理和はいじわるだからなー」
あ、こら。そう言いながら両膝で僕の左足を掴まないの。ってどした……えぇ?
『お前から見て左斜め後ろの席
さっき私か杏香は分からんが
盗撮していた』
そんな文言を見て訝しんだけどチラッと横目で振り返ると男の人だった。目を戻して詩能さんの目を見る。確かに今の2人の服装はガーリーな服だ。詩能さんは大人っぽさがありつつも可愛さのある服だとしたら杏香は可愛さが多めの服といった感じ。
さて、どうしようか。と思案しているとさらに詩能さんは文を見せてくる。
『盗撮はいけないことだ』
『しかし
ちゃんと証拠があるかどうか』
ふーむ。創たちに伝えようか? と思うと察した詩能さんは首を左右に振った。ま、そりゃあそっか。あまり大事にしたくないもんね。それにもうそろそろ着くだろうし。
「なぁ、2人して急に黙り込んでどうしたんだ?」
そんな時、創は僕たちのことが気になって聞いてきた。僕はふっと笑って首を振る。
「なんでもないよ。そういえばもうそろそろだよね。期末」
「うげっ」
「お・に・い・ち・ゃ・ん〜〜〜〜〜?」
ジトーっとした目で文句ありげだった。
「え、な、なに?」
「今はそれは禁句だよー?」
「考えたくなかったんだよなぁ……」
「2人ともそこまで悪くなかったと思うし……創は良いとして」
「おい」
「杏香はもしかして何か詰まってたりしてるの?」
「私でも良ければ教えるぞ」
「ほんとはさぁー、お兄ちゃんには内緒にしてたんだけどぉ……」
僕と詩能さんは同時に首を傾げた。創はどうやら知ってたらしい。杏香はなかなか話さずもごもごしていた。そんな杏香の代わりに創は耳打ちしてきた。
「実はよ、杏香ちゃんって英語と化学は無理なんだよな」
「え、あー……まぁ、そりゃあそうだよねぇ」
聞いていない詩能さんに指で教科を教えると詩能さんも納得の反応だった。
「それは私も苦手な部類だから分かるぞ」
「えっ、詩能ちゃんも!? よ、良かったぁ〜」
「でもなんとか平均点は保っていたぞ」
「う、うらぎりもの〜!」
「ふっははっ。今度勉強会だね。創は確か苦手ってほどのもの無かったよね」
「あーそうだな。お前が教えてくれたおかげでな」
まじで感謝と言われた。まぁ……あんだけ請われちゃったらねぇ。
「杏香は今度時間出来たらおいで。2人で教えてあげるからさ」
「わ、わぁい……お手柔らかに〜」
ちょっとげんなりしてた杏香だった。
♦︎
[遊園地到着]
その後、しばらくして遊園地の最寄り駅に到着してチケットを購入して遊園地に入る。
「着いたー!」
「パンフにマップあるね。どこから乗る〜?」
「おっ、割と絶叫系多いなぁ」
「これなんてどうだ?」
「あっ! い〜ね〜! いこいこっ!」
前を歩く杏香に僕たちは笑いつつも追いかける。
「杏香〜。そっちじゃないぞー」
「…………それ早く言って! お兄ちゃんのばか!」
ヒールのブーツを履いてるというのに割と早足で来たと思ったらそんなふうに罵りつつ、僕のお腹を殴ってきた。
「ふぐっ……そ、そこ鳩尾……」
「因果応報だな」
「ふふっ。笑ってすまない理和……くく。だ、大丈夫か?」
笑うか心配するかどっちかにして詩能さん。それはそうと創、覚えてろよぉ〜?
「ぃやっほぉぉぉぉぉぉ!」
「きゃぁぁぁぁぁあああ!」
ライド系のジェットコースターは後ろの席に座った杏香と隣の詩能さんの悲鳴? 歓声? が響き渡った。僕は無言だったけど、とても良かったアトラクションだった。
♦︎
[5時間後]
そんなふうにかれこれ休憩を挟みつつ、絶叫系のアトラクションをだいたいは乗りこなした。
「さってと、あとは観覧車とアレだけだな」
「あーそういえば決めてたねぇ。行こっか」
「いこいこっ!」
「あ、あぁ……」
あれ。詩能さんもしかして。
僕・詩能
杏香・創
の列で進んだ。そして最初は行ってみようとかなんとか言ってた詩能さんは
「………………………」
微かな物音一つにもびっくりするくらいには怯えていた。
────まさか苦手だったのかぁ……。
僕の右腕にこれでもかとしがみついてかなり震えていた。
「大丈夫?」
「ぅひっ……! ぁ、だ、だぃ、じょうぶ」
嘘だね。そしてそんな僕はというと、詩能さんがこんなふうなおかげで割と冷静でいられる。実を言うと僕もそこまでホラーに耐性が高くない。怖いものは怖い。
──────ガジャンッ!
「ひゃぁぅっ……!」
「大丈夫。ただの音だから」
「わ、わかってる……ぅ!」
小さく悲鳴を上げては右腕に強くしがみつく詩能さん。うん、可愛い。それと少し嗜虐心が出てきた。少しだけ耳の近くまで顔を寄せる。
「…………フッ」
「きゃっ!? ってもう! 理和のばかっ!」
「んぐっ……ご、ごめんごめん」
これ以上は限界そうだ。だってめっちゃ涙目なんだもの。後ろの2人は楽しんでるみたいで良かった。そしてそんなこんなで巡ること少し、もうそろそろ終わりが近づきそうなそんな時。けたたましい音が少し後方の左右、そして後ろから鳴り響く。
──────ガタガタガタンッ!
『!!!!!!!!!!!』
「にゅわぁぁぁああっ!? むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりぃ!!!!!」
「えぇちょっ、待っ! あっ、こらっ! どさくさに紛れて創も逃げんな!!!!! 僕だって怖いんだからなぁ〜っ!!!!!」
その音や声に我慢の限界だったんだろう。詩能さんは声をあげて脱兎の如く前へ全力疾走した。後ろの2人も追いかけられる音で無理だったんだろう。前を走る3人を僕は追う。
「……っ、ぁ……。はぁはぁはぁ……」
「最後のは、焦ったわ〜」
「おなじく〜」
「きみたちねぇ……。大丈夫? 詩能」
3人はすでにお化け屋敷を出ていた。僕は後ろからどこまで追いかけられるのだろうと思いつつも少しあとに出て、ぜーはー息を吐く詩能さんの背を摩る。
「創、余裕あったら自販機で水買ってきてくれるかな? お金はほい」
「お、サンキュー。そんじゃ買ってくるわ」
「いってらっしゃーい」
このまま出口にいっぱなしは迷惑だろうからベンチまで移動する。
「おまた〜。ほい理和、水と釣り」
「ん、ありがとう。あ、別にお釣りは良いよ。上げる」
「え、でもよぉ……」
「僕たちを誘ってくれた礼みたいなものだと思ってよ」
「んじゃあまぁ、それなら受け取っとくわ」
僕は頷いて水のキャップを開ける。
「詩能、飲める?」
「……ん、ありがと」
「うん。杏香も創ももしかして最後のアレ?」
「そー。さすがに追いかけられるのはナシだよ〜」
「どーかん。アレばっかは俺もムリだわ」
「あははっ。きみたちのおかげで割と僕も怖く感じれたよ」
隣でこくこくと水を飲む詩能さんを見つつ3人と談笑する。
「────、……はぁー。こっわかったぁ……!」
「だいぶ怖がってたもんね詩能」
「あぁ……最初は行けると思っていた。でも……私の目測は誤りだった……」
空を仰ぐ詩能さんの目は遠い目をしていた。
♦︎
[夕暮れ]
その後、また何度かコースター系を乗って、空は少しずつ暗くなっていった。
「もうこんな時間かぁ〜」
「早いな」
「んね。あっ、ねね、お兄ちゃん、詩能ちゃん」
「どうしたの?」
杏香は僕たちを見つつある場所を指差した。
「あれ乗ろうよ」
「観覧車か。良いな。乗ってみよう理和」
「うん。行こうか」
「えへへ、やったね」
「順番はこうでいいよな」
観覧車のコーナーに向かう。前に杏香と創。その後ろに僕と詩能さんの順になる。
「全然良いよ」
そうして巡ってきた順番。詩能さんと僕は互いに向かい合って座る。そのままゴンドラはゆっくりと上がりだす。
「綺麗な景色だな」
「そうだね。あぁ、そうだ。詩能、こっち向いてくれる?」
「……?」
僕はスマホを取り出して、カメラ機能を使う。詩能さんは察して、ゆっくりと立ち上がり僕の隣に座る。
「え、詩能?」
「私だけ撮るなんてだめだぞ」
詩能さんはフッと笑って外カメだったのをインカメにして、僕の真隣にまで顔を近づけ、顔を傾けながら笑顔でシャッターを押した。
「そういえばあまり写真撮っていなかったな」
「そうなんだよね。だから今、景色を見てる時でも良いしこうして乗ってるきみを撮れたらなって思ってたんだ」
「お前も一緒に映れば良かったのに」
「僕は……あまり写真は得意じゃなくてさ。撮られるのはそこまでかな。でも……うん。詩能と撮ったプリクラの写真もまだ保管してるしきみとならこれからもこんなふうに撮りたいな」
「ふふふっ、そうか。じゃあこれからもたくさん撮ろう」
僕は頷いてスマホをしまう。そしてそっと詩能さんの手を握る。詩能さんはそれを受け止めてにぎりにぎりと指を組み替え、恋人繋ぎをする。その時に詩能さんと目が合い、どっちの合図とも知れず、目を閉じてキスをする。
「……きっとあの2人もこうしていそうだな」
「それならとっても嬉しいよ」
「兄で親友なんだものな」
僕は頷いて今度は僕からキスをする。
「帰ったら……」
「うん?」
「……続き」
何を言っているのか理解した僕は少し照れ笑いしつつも頷く。
「詩能は明日大学は?」
「昼から講義だ。お前は……学校か」
「……サボろうかな」
「ふふっ。生徒会長のお前が言うとはな」
「去年一回だけサボったよ。だから今更だよ」
「なら私も」
「それ……玲音が許すかなぁ」
「あいつなら許してくれるさ」
頭の中で文句を言う姿が容易に想像つくけど、それでもなんだかんだで許すのが玲音さんなのだ。
「かもしれないね」
「あぁ。だから今は」
「うん。ゴンドラはもう少しだからあといっかい」
ちゅっと音が小さくともゴンドラに響き、互いに見つめあって笑い合う。
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