5.初デートは何の味?
×
[放課後。告白する少し前]
「玲音。大人気ない態度を取ってすまなかった」
「あたしの方こそ……ごめん」
HRが終わり、教科書や筆箱などをカバンに入れ、足早に生徒会室に向かう。生徒会室の鍵は二つあり、私と玲音の2人で分け持っている。そしてそんな玲音からLIMEがあった。私も玲音には話があったから。
「玲音には……本当に申し訳ないと」
「い、いいよもう。好きになるのに早いも遅いもないんだし」
玲音は素の状態で接してくれる。秘書モードだと敬語を使うのだが、私としてはフランクなこっちの方が好きだ。
「それでさ、あたしから提案があるの」
「提案?」
「そ。まぁ、これは理和にも話したんだけど、詩能様はさ、理和のこと本当に好きなんだよね?」
「……多分そうだと思う」
「た、多分って……あーもう。なんでこう2人して煮え切らない態度なのよ……!」
少し怒らせてしまっただろうか? しかし、分からないものは分からないのだ。異性とあんなふうに接したのは初めてだし、何より……どこまで行っていいのかも分からない。
「はぁ……。まぁいいわ。ちょうどいいし。詩能様。理和とどうなりたいの?」
「どう……って?」
「はっきり言うけど、理和はただの朴念仁じゃないわよ。無駄に察するとこは察するようなそんな人よ。それでいて恋愛においては無知すぎるのよ。このままだと他の誰かに取られちゃうわよ?」
「む……それは」
その言葉を聞いて胸がざわついた。顔にも出ていたのだろう。
「それで? 詩能様はどうしたいわけ?」
「……もっと仲良くなりたい」
「うん」
「出来れば毎日通話をしたいし、それにまだギルドの返事貰ってないし、どうせだったらギルドに入って一緒に活動したい。何より……理和の隣がすごく落ち着くんだ。で、でもふわふわすることもあって、それが嫌ってわけでもなくて心地良いというかだなっ」
「はい、ストップ。もう分かったわ。やっぱり理和のこと好きなんじゃない」
「これがそうなのか?」
「一緒にいたいってことはそういうことだと思うけど? 違うの?」
玲音の言葉でしばらく考え込む。理和とできればより触れ合いたい。それが恋心からくるものなのかはたまた別の何かなのか、経験のない私では答えが出せないものだった。
「玲音が言うのならばそう……なんだろうなと思う」
「ほーんと煮え切らないわねー。まっ、そのために理和にも提案してたことなんだけど、詩能様。理和と付き合ってみたらどうなの?」
「付き合うって……それは文字通りの?」
「そうよ。カレカノになるってこと」
「恋愛がなにかも分からないのにか?」
「そうよ。だからこそよ。それでちゃんと理和と向き合って、2人して気持ちを知ればいいのよ」
「しかしそれは……理和に対して不義理では」
「そんなんどーでもいいのよ。詩能様は理和のことが好きなのはあたしから見れば分かるし、理和だって拒んでないんだし、さっさとくっつけ」
むぅ……と唸る。しかし、玲音の提案は道理に適っている。
「それこそお試しで付き合ってみるってのもアリなんじゃない?」
その一言は渡りに船。
「ようやくやる気になった?」
「あぁ。それなら……まだ」
「それに、理和と居れば言い寄って来る男もいなくなるってもんじゃない?」
「そうか……確かにそれも……」
「決まりね。ほら、さっさと行ってきなさい。善は急げよ」
「だ、だが、あいつはどこにいるか……」
「多分図書室あたりにいるんじゃない? 理和、あーいう静かな場所好きそうだし」
「わ、分かった。行ってくる」
「はいはい。行ってらっしゃいませー」
玲音に見送られるように生徒会室を出て、図書室に向かう。
「これで良いのよ。これで……気持ちの整理もつくってもんでしょ。まったく……世話が焼けるんだから」
♦︎
[放課後。図書室]
「期間限定とはいうけれど、一体いつまで?」
「未定だ」
「はい?」
「未定だ」
「つまりなんの計画もあるわけじゃない、と」
「……」
「まぁ、それならそれでいいよ。それで、今からはそうなるんだけれどこれからの予定とかは」
「決めてないな」
「だよね。それは僕もそう」
「れ、玲音に聞いてみないか?」
「教えてくれるのかなぁ?」
「少し、待っててくれ」
阿佐上さんはそう言ってスマホを取り出して何やらタップ操作を繰り返した。
「あ、教えてくれるみたいだぞ!」
「そっか。どうすればいいの?」
「そう……だな。一緒に帰る、帰りながらどこかの店による……だそうだ」
「ふぅん、今すぐ出来そうなことだね」
「あぁ。玲音からはこうも来てた。放課後デート? というらしい」
「そうなんだ。じゃあ……やってみる?」
阿佐上さんは何度も首を縦に振った。その目からは楽しみという感情がありありと浮かんでいた。
♦︎
[ショッピングモール]
バスに揺られ、来たのはいつぞやの時にも来たショッピングモール。ここでなら色々出来るだろうという阿佐上さん基い、畔倉さんの発案だ。
「どこに行こうか理和」
「んー……こういったのってどこに寄るのがデートらしさが出るんだろうね」
「ゲームセンターとかはどうだ?」
「あぁ……良いね。行く?」
「あぁ!」
左腕を掴まれ、少し引き摺られるように阿佐上さんのあとを追う。
「何からやろう?」
「あのクレーンゲームはどうだ?」
「何かの作品のぬいぐるみみたいだね。やってみよっか」
「あ、そうだ。理和」
「うん?」
「クレーンゲームの注意点はのめり込みすぎは注意だ」
「なるほど。分かった」
手始めに100円を投入口に入れる。L字型のアームを使って輪っかを使って落としていくやつらしい。
「ふぅん……? 今のでこんだけ動くんだ」
「行けそうか?」
「……どうだろ。良くて500円くらい?」
「結構消費は少ないな」
「そうなの?」
「ほら。さっき始める前はこの位置にあっただろう? 元々のスタート位置はこっちで、どうやら私たちがやる前はそこそこやって諦めたみたいだ」
「そうなんだ。それじゃあ続きやる?」
「頼む」
一々入れるよりもまとめてやったほういいかなと思い、思い切って500円投入して再度やる。2回目は1回目よりほんの少し。3回目。
「……あぁ、おしい……」
阿佐上さんの反応から察するにうまくいっていたらしい。4回目。
「おぉっ!?」
ぐるりと輪っかのついたものが向こう側に回った。
「球体がだいぶいい仕事してるね」
「そうだな。ラスト行けるか?」
「やるだけやってみるよ。まぁ……この状態ならいけるでしょ」
そしてラスト5回目。
──────ガタンッ! どさっ。
バッと阿佐上さんはこちらをみて、抱きついて来た。その時ふわりと柑橘系の香りがした。
「やったな! 理和!」
「そうだね。ところで……離れて欲しいな。その……当たってる」
「え? ……あっ、す、すまない。つ、つい嬉しくて……」
「じゃあはい。あげるよ」
「良いのか?」
「うん。僕の部屋に飾るより詩能さんの方で飾ったほうが良いだろうし」
「ふふっ。そうか……そうか。ありがと」
ぬいぐるみを渡すとぎゅぅっと抱き締めて、照れ笑いを浮かべた。そのあとはお菓子のクレーンゲームの他に音楽ゲームの筐体を2人してやってみた。
「あ、この曲知ってる」
「ほんとかっ?」
「うん。杏香がとても良い曲だからって薦めてくれたから課題やってる時とかはよく聴いてるよ。詩能さんも聴くの?」
「そうだな。私もよく聴いたりしているよ。それならやってみよう」
阿佐上さんはこのゲームはやったことあるのか難易度は4つあるうちの4つ目を選択。僕は初めてやるゲームだったけれど難易度選択をミスって3つ目を選択してしまった。
「詩能さん良くできるね」
「ふふっ。これでも少しは特訓したんだっ……! っとあぶなかった……ってうわわわ、ここはまだ掴みきれてないんだ……!」
僕の方も最初は速さについていくのに手一杯だったけれど段々とついていくことが出来た。
「ふ〜。お互いミスいっぱいしたな」
「そうだね。結構やり甲斐あるかもねこれ」
「! そうだろうそうだろう」
「またやりたいなこれは」
「あぁ。またやりにこよう」
そのあと、画面のゾンビに向かって銃を撃つゲームもした。
「むっ、そっちは任せたぞ」
「分かった。ごめんこっち撃ち漏らし」
「やった!」
「良し……なんとか規定数やれたね」
「結構シビアだな判定」
一通り終えて、銃を戻す。
「けどエイム良かったな理和」
「そうなのかな? でもそれを言うなら詩能さんも良かったと思うよ」
「じゃあ2人してとっても良かった、でどうだ?」
「良いねそれ」
「ふへへ」
阿佐上さんと軽くハイタッチをかわす。
「なぁ、理和」
「うん、どうしたの?」
「あれもやってみたいんだが、良いだろうか?」
阿佐上さんが指したのはいわゆるプリクラというものだった。
「玲音によればゲームセンターに来た時はほぼ必ずやるみたいなんだ」
「ふぅん。じゃあやってみる?」
「やってみたい!」
前のめりで頷く阿佐上さんに少しだけ後ろへ体を逸らす。
「色々あるなぁ」
「こんなにあるんだね。どれにする?」
多くのプリクラ機があり、よりどりみどりだ。
「んーむ……私も良く分からないな。手近のアレにしないか?」
「分かった」
プリクラ機はどうやらスペースが2つあり、写真を撮影するところと文字や絵をペーストできるところがあるようだ。
「ほー? 撮るのにもモード? があるみたいだな」
「そうみたいだね。どっちにする?」
「こっちをやってみたい」
「こっちね」
2人でディスプレイを眺めて決めていく。
「ぬいぐるみはどうする?」
「……持ってたい」
「分かった」
『それじゃあ、写真を撮影するよ〜☆』
結構音声のボリュームデカいな。
「ポーズはこう、だな」
「手を合わせればいいんだね?」
互いに向かい合い、阿佐上さんは右手を僕は左手を出して手をくっつける。阿佐上さんの手はほっそりしてて、それでも温かくて、右手に目を向けてから視線を感じて目を向けるとばっちり目があった。大きな赤茶色な瞳だ。その瞳の奥に僕は写っている。
『3〜2〜1、チーズっ!』
──────パシャッ。
かなり眩しいフラッシュに炊かれる。その瞬間ふわっと微笑む阿佐上さんが見えた。
「お前の手、おっきいな」
「そう?」
「あぁ。それと……あったかいよ」
「……!」
きゅっと指を絡めるように握ったあと手の甲を頬に擦り合わせた。その頬はもちっとしていてけれど弾力もあって、吸い付くようだった。伏せられた瞼と長い睫毛。その甘えように僕は困惑しかなかった。
「理和。ぎゅってしてはだめか?」
「それは……」
『次の写真に行くよ〜☆』
2人の謎の雰囲気を壊してくれたアナウンスに僕はハッとする。
「理和」
阿佐上さんの目はして欲しいといった目をしていた。
「……ぬ、ぬいぐるみを挟んでなら」
「むぅ……分かった」
阿佐上さんは右腕を広げた。僕は言われるままに抱き締める。
「……ぬいぐるみが邪魔だ」
「我慢して欲しい。どれくらい触れてもいいのか分からないんだ僕は」
「むぅ……今回だけは特別だぞ?」
「……お手柔らかに頼みたいところだよ」
♦︎
[ショッピングモール内フードコート]
「理和、こういうのも初めてか?」
「あー……いや、前に杏香と来たかな」
「そっか。初めて……ではないのか」
「でも、こうして来たのは初めてだよ」
「! ふふふ、そうか」
今の言葉にそんなに喜ぶものがあっただろうか?
「そっちのシェイクの味はどう?」
「美味しいぞ。飲んでみるか?」
「いただこうかな」
ストローを向けられ、軽く口を付けて一口もらう。
「……っ!?」
「んー、うん。確かに美味しいね」
「なっ……お、お前はこれは出来るのか」
「? これって?」
「……こ、これでは間接キスだろう?」
「あっ、あー……」
「もしかしてその深神狩妹とか?」
「うん。家族だから出来ること……だと思う。分からないけど」
「お前が出来ないものが何なのか分からないなぁ」
「流石に過度な接触はしたことないよ。さっきみたいに抱きつかれたりとか」
されそうになったら止めたりしていたし。
「詩能さんはこういった買い食いはしたことはないの?」
「んー無いなー。ゲームに関してはこれでも会社の後取り娘だからな。ただこうして誰かと一緒に何かを買って嗜むのは初めてだ」
「じゃあこれからもする?」
「んっ。良いのかっ?」
「うん。良いよ。放課後は暇だからそれだったら詩能さんに時間を割きたいし」
「んなっ……り、理和ぉ〜……無自覚でそれを言うのは反則というやつだぞ」
「え、何が?」
本心を言ったからなんだけれどまずかったかな?
「はぁ……ほんとうにそういうとこがずるいぞ。もぅ……ん! そっちも飲ませてくれ」
「良いよ。はい」
「……はむっ」
ちゅーっと半透明のストローが薄茶色のシェイクがあがっていくのが見える。
「っぷはぁ。ふ、ふん。これでどうだ」
「どうだって言われてもなぁ……美味しかった?」
「あぁ。美味しかった」
素直だなぁ。
「ん……? なんだ、そんなに見つめて」
「あーううん。ストローについてた水気、ついてるなーって。拭く?」
「! あ、あぁ、拭く。少し持っててくれるか?」
シェイクを持つと阿佐上さんはハンカチを取り出して口を軽く拭った。
「ん、ありがとう」
シェイクを返す。
「む。気付けばだいぶ遊んだな」
「そうだね。どうする?」
「そろそろ帰るとしよう。遅くまで出ていると心配されてしまうからな」
「分かった」
♦︎
[帰り道。詩能さんの家の近く]
「今日は楽しかったな」
「……そうだね。ねぇ、詩能さん」
「む、どうした?」
「また……」
「また?」
言ってもいいのか一瞬悩む。けれど、言ってもいいだろう。
「……またデートをしよう」
「! あぁ。またしよう」
阿佐上さんといると僕の何かが変わっていくような感じがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます