君が為日記 小田晴男

11月29日  晴れ

本日は晴天なり。

飛ぶには何も問題ないが、雲一つない晴天ゆえ、敵機の目につきやすいのが難点である。

敵の背後を取る技術は必須だ。

じゃなきゃ殺られるのはこっちだ。

眩しすぎるのも問題だ。

頼りになるのは自分の視界のみ。

自分だけなのだ。


鈴からの手紙無し。






1月12日  曇

吐く息は白く、自分がまだ生きてることを実感する。

南方ではすでにたくさんの先輩方が命をかけて前線で戦っている。

泣き言なんて言えない。

言えないのに、あまりの自分のふがいなさに涙が出る。

いったい何をやってるんだ。

恥だ。


家族からの手紙が届いた。

正月、皆慎みながらも穏やかな日を過ごしたそうだ。

鈴の話はなし。

あれからいったいどうしているのだろうか。

手紙も無し。





3月4日  晴れ

少し早めの春の嵐だろうか。

追い風でも向かい風でもない、全てを反転させるような風が吹く。

教官に叱られる。

自分はただ命を燃やすために生きているのだと言われる。

男子の本懐、ここにあり。

ただ生を尽くすのみ。

祖国日本の為に。


鈴からの手紙無し。

幸子に聞くと変わらずにやっているようで安心した。





5月31日  晴れ

本日、無事全過程を終え卒業となる。

感極まったか井上が声をあげて泣いていた。

また珍しく加藤も涙を流していた。

それぞれに思いがある。

俺は最高の友を得た。

それだけでも生きていける。

久しぶりに雲一つない空を見た。

祝福してもらったような気分だ。

今日までの教えを胸に、我羽ばたくのみ。


鈴からの手紙なし。





10月7日   雨

飛べない。

飛べない。

思ったように飛べない。

やっと空の人になれたのに。

失敗の理由を見つけろ。

いざ飛び立ったらミスは許されないのだ。

何が悪かった?

何が原因だ?

涙が止まらない。

泣いている時間があるなら考えろ。

何がいけなかったのか。





12月5日  雨

月日があっという間にすぎる。

人の一生など一瞬なのだろう、この空にとって。

皆、元気にしているだろうか。

なにがそんなに悲しいのか。

月を見るだけで涙が出てくる。

故郷が恋しいのか。

いつか散る身。

考えても仕方ないことを考えてる場合ではないというのに。

淋しい。

きっと淋しいのだ。

なんて女々しい。

だが明日は手紙を書いてみようと思う。

いつ消えるかわからない我が身なのだから。

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