手紙 時間

鈴ちゃんへ。

毎日お変わりありませんか?

しっかり勉学に励んでいますか?


こちらは変わらず元気にやっていますからご心配なく。


必ず立派な飛行機乗りになり、君を迎えに行きますから、どうかお元気で。

寒くなってきましたから風邪などひかないように。


晴男






小田晴男様

お手紙ありがとうございます。

鈴は、晴男様のお手紙を毎日読み返しがんばっています。


晴ちゃんに会いたい。

鈴もさびしがらずに一生けん命、お国のためにつとめますから、晴ちゃんもがんばって立派は飛行機乗りさんになってくださいね。


晴ちゃんの運転する飛行機にいつか乗ってみたいなぁ。


原田鈴





鈴ちゃんへ。

いつもお手紙ありがとう。

鈴ちゃんの気持ちがいっぱい詰まっていて嬉しいよ。

俺は毎日楽しくやってるから心配不要だからね。


先日の試験の結果はどうでしたか?

それについて何も触れられていなかったので、

あまり良くない結果だったんだなと推測しました。

学生である今を大切に過ごしてください。

今という時間は二度とないのだから。


体の調子はどう?

幸子からも鈴ちゃんの話は聞いています。

今はどうしても俺が助けてあげられなくてすまないと思っている。

あまり酷いようだったら、俺の両親に相談してください。

ではまた。


晴男




小田晴男様

晴ちゃん、私は何も心配いらないから日々のおつとめにしっかりはげんでくださいね。


試験は良かったの。

だから、晴ちゃんが帰ってきたら見せようと思ってないしょにしていたんだよ。

もう。


晴ちゃんもかぜなどひいてませんか?

ご友人とは仲良くやっていますか?

休暇で帰ってきたら、たくさんお話聞かせてください。

待ってます。


原田鈴





「小田君は、筆まめやなぁ。ご両親?」


自習中、いつものように勉強中の井上はふと小田の手元に目をやった。

内容までは見る気はもちろんないが、手紙を書いてると思うことは多かったので、思いきって聞いてみた。

単純に興味だった。


「いや…幼なじみ…。」


しっかりハッキリ物事に答える晴男にはめずらしく歯切れが悪い返答だった。

井上は直感で、ただの幼なじみではないことを悟った。


「ほう…小田君にはイイ人がおったんやな。どうりで毎日熱心に熱心に…。」


「違うよ!」


珍しく顔を赤らめ机に突っ伏してしまう晴男。

初めてみた晴男の少年らしい姿に、井上の中のイタズラ心が疼き出した。


「いつも届いてたんは、熱い熱い恋文やったんやな。小田君でも愛してるよとか書くん?わぁーハレンチ。」


「違うってば!!」


こちらも珍しくニヤニヤと絡んでくる井上に、恥ずかしさを隠せない晴男。

しばらく二人は押し問答をしていたのだが、


「うるせー!!帝国陸軍の一員とあろう者が女がどうだのバカらしい!!恥ずかしくないのか!!」


晴男、井上と同じく同室の加藤正三が二人の子どもみたいなやりとりにイライラしたらしく、突然声を荒げた。

普段から険しい顔つきだが物静かな加藤が大声をあげるなど初めてのことなので、晴男達は驚きすぎて何も反応できずにいた。


「小田。貴様は自分の立場がわかっているのか?俺達は軍人として立派に死んでいく身だ。未練を残してその務めが果たせるというのか?」


なんとも頭の硬い男やな…と、井上は思った。


「守りたいものがあるから…必死になれると俺は思うけど。」


晴男は書いていた手紙を丁寧にたたみ、鉛筆を置いて真剣に加藤の方へと向き直った。

自分の思いには自信があった。


晴男の威圧感を感じるほどの真っ直ぐさに、バカらしく思いつつも加藤が口を開く。


「貴様が死んだら…その女はどうなるのだ?一生自分を想い続けてくれとでも言うのか?それともその時は君の自由に生きてくれとでも言うのか?身勝手でしかないな。その女の幸せについて何も考えていない。」


「な…俺は鈴ちゃんを守りたいから軍人になった!俺が死んでも鈴ちゃんは!っ!……俺が…死んだら…。」


加藤の言葉に苛立ち反論しようとした晴男だが、

自分がいなくなった後の鈴の姿を思った時に、それ以上何も口に出せなくなった。

俺が死んだら…鈴ちゃんは…


「いったいどうなるんだろう…。」


それ以上、加藤に言葉を返すことはできなかった。





原田鈴様

お変わりありませんか?


お正月には帰れそうにありません。

ここでしっかり学び続けたいと思います。


寒さが厳しくなってきました。

暖かくして、日々をお過ごしください。


晴男





「晴ちゃんなんかあった?」


昨日届いた手紙の違和感を拭いきれず、今日も一緒に学校に向かう幸子に晴男について尋ねてみることにした。


「お兄ちゃん?んー何もないんじゃないかな。うちには何も連絡きてないし。鈴ちゃんの方が頻繁に連絡取り合ってるんじゃない??」


幸子は答えたが、少し鈴の顔が不安そうに見えた。


「お兄ちゃんからお手紙…来てない?」


鈴はフルフルを首をふる。


「昨日届いた。お正月は帰ってこれないて。」


「え!お兄ちゃん帰ってこれんの!楽しみにしてたのに…うちにはまだその連絡もきてないよ。もう、ほんとに鈴ちゃん、鈴ちゃんだな、お兄ちゃんは。」


「…そうかな…。」


「そうだよ!うちではお兄ちゃんの事は鈴ちゃんに聞いた方が早いねっていつも言ってるんだから!」


幸子は語気を強めて鈴に伝える。

実際、小田家はそうだった。

晴男は実家にもマメに手紙を書いてはいたが、それより多くの手紙を鈴に書いていた。

自分の事をいち早く伝えていたのは鈴だったし、余計な心配をかけまいと書く内容も制限していたので、必然的にそうなったのだ。

清はその事実にただ笑っていたが、ハナはやっぱりちょっと複雑だった。

可愛い息子が手から離れていく現実に寂しさはどうしてもあった。


「そうだよね…。鈴が不安がってちゃダメだよね、晴ちゃん毎日頑張ってるのに。」


鉛筆を握りしめ机に向かう晴男が頭に浮かんだ。

晴男が頑張ってないわけないのだ。

ちょっと疲れが出てきてるのかもしれない。

軍人さんだから丁寧な言葉とか使うようにしてるのかもしれない。

家族にだって会いたいはずだから帰れない理由があるだけだ。

大丈夫。

鈴はギュッと拳を握る。

今、自分がやるべきことをやるだけだ。

晴男のお嫁さんとして恥ずかしくない人間でいなければならないのだから。




小田晴男様

鈴は元気でやっています。

今日はさっちゃんとお寺のそうじをしてきました。

お寺のじいじも元気にしています。

皆こっちは変わらず元気です。

だから心配しないでください。


お正月はざんねんだけど、晴ちゃんがかえってくるの、いつも楽しみにしてるからね。

またいっぱいお話きかせてね。

いつもお手紙ありがとう。


原田鈴




「貴様っ!!それでも日本男児かっ!!」


教官からの平手打ちをくらっていたのは加藤だった。

生真面目で忠実な加藤が怒鳴られるなど珍しいことで、晴男と井上はただ目を丸くしていた。

それは昼休みのことだった。

術科の年配の教官がドシドシと本当に足音をならしながら、急に教室に現れたと思ったらこの事態だ。

いきなり加藤は殴られた訳である。

だが、当の本人はその理由がわかっているようだった。

スクッと立ち上がり、気をつけの姿勢で教官の顔をまっすぐ見据える。


「貴様の代わりなどいくらでもいる!!辞めたいのならさっさと出ていけ!!貴様のような奴はいらん!!」


殴られる覚悟の加藤が生意気に映ったのか、教官は声を荒げるばかりだった。


「私はここで命を燃やし、立派な帝国陸軍パイロットになります!!」


加藤の声には教官を上回るくらいの気迫があった。

何があったのかさっぱりわからない周りは、自分達も直立して、ただその場を見過ごすことしかできずにいた。


バチンッ!!


加藤の頬で乾いた音がする。

教官はもはや意地になっているようだった。


「貴様のように女に腑抜けた奴が陸軍の名を語るなっ!!」


まだ教官の手はふりあげられる。


「北教官。」


その手は、騒ぎを聞きつけてあらわれた宮本によって静止された。

グッと握られた北教官の腕がプルプルと震えている。


「加藤はこれから日本国を背負う大事な軍人です。指導の仕方について、今一度ご検討ください。」


「み、宮本!貴様、離せ!こいつには制裁が必要だ!」


北は宮本の手から逃れようと必死だったが、自分よりはるかに若い宮本に力比べで勝てる訳がなかった。


「北教官。ですから、加藤は未来戦地に赴く人間です。神の子に等しいその体を貴方如きが傷つけてはなりません。」


「な…、グッ…。」


掴まれた手が青く変色していく。

宮本の突き刺すような冷たい視線を、晴男は初めて見た。

その瞳はまさに軍人のそれだった。


「わ…わかったから…は…離せっ!!」


北は痛みに屈したようだった。

宮本にパッと離された手を必死にさすりながら、宮本を睨見つける北。


「こんなヤツをかばっても得にもならねぇぞ。」


そう言うと、逃げるようにその場を後にした。

教室の緊張感はまだとけることはなかった。

宮本の表情が厳しいままだったからだ。


「み、宮本教官!」


あの加藤までがタジタジである。


「加藤。」


「はいっ!」


加藤は普段と違う宮本の声に背中を伸ばし直立しなおした。


「…。」


冷たい刺すような視線を加藤に向ける宮本。

加藤は体の奥が冷えていくのを感じた。

宮本は授業中も厳しい顔をしてはいるが、こんなに痛みが走るような空気感を放つような人間ではなかった。

手の震えを感じる。

まるで捕食者に睨まれた獲物のような気分だった。


「俺は好きだぞ。お前のように素直に弱さをはける男。」


一気に表情筋を緩め、だが無表情で宮本が言った。

…。

…。

…。

その温度差に皆がついていけず、誰も反応できずにいた。

加藤だけは顔を真っ赤にし宮本から目を逸らす。

素直に弱さがはける?

晴男には理解不能だった。

なんでも厳しい、自分にも厳しすぎるほど厳しい加藤に限って、誰かに弱音を吐くような事があるわけがなかった。

もはや信頼だった。


プッ。

ずっとこらえていた宮本が大声をあげながら笑い出した。

周りはますます置いてけぼりである。


「すまん、すまん。さ、休み時間は休む為にあるのだ。気にせず休みなさい。」


そう言うと加藤の肩をポンッと叩き、宮本は颯爽と教室を後にした。


「宮本教官!ありがとうございました!」


加藤が気をつけのまま声をあげる。

助けてくれた。

そう感じたからだ。


フーッとあちこちで息を吐く音がする。

皆、呼吸も忘れるくらいの緊張感の中にいたのだ。

加藤はただ宮本の後ろ姿を見送っていた。




「加藤。頬、だいぶ腫れたな。」


夜、晴男は自分の手ぬぐいを水に濡らしたものを加藤に差し出した。

加藤は一瞬、晴男の優しさに戸惑いはしたが、明日は休みで外泊する者が多く、部屋には二人しかいなかった為、素直に受け入れることにした。

井上も珍しく外泊だった。


「ありがとう。」


とはいえ、素直になりきれない加藤のお礼の言葉は聞き逃しそうなほど小さく発せられた。


母親に殴られ頬を赤くしていた鈴にもよくしてやっていたのが懐かしく思い出された。

鈴は…今も母親に暴力を振るわれ続けているのだろう…。

誰か鈴の体を気遣ってくれているのだろうか?

一人で…泣いているのだろうか…。

あの日加藤の言った事の答えがでずにいた晴男は、あれから鈴に真っ直ぐな手紙を書けなくなってしまっている。


「なぁ、小田…。」


加藤が頬を冷やしながらそっぽを向き、晴男に語りかける。


「ん?」


鈴の泣き顔が一瞬にして目の前から消え、現実に引き戻された晴男。


「俺な…本当は貴様が羨ましかった。」


!?

羨ましかった??

晴男は言葉の意味をすぐに理解することはできなかった。

晴男もなかなか成績優秀だが、加藤はそれの上をいくくらいの男だったからだ。

何を羨ましがる必要があるのか、皆目見当がつかなかった。


何も返事をしない晴男の反応が気になった加藤がチラッと晴男に目をやる。

そこには目をパチクリさせるあどけない少年の姿があった。


「何言ってんだ?って顔だな。」


加藤は照れたようにまた背中を向ける。


「俺の話をしていいか?」


「うん。」


…。

少しだけ流れる沈黙。

頑張り屋さんだからこそプライドの高い加藤は、話し始めるのにやはり勇気が必要だったからだ。

でも晴男にだけは話したかった。

理由は…まだわからない。


「俺もな、本当は好いてる人がいた。いや今でも好きだ。」


晴男はまたも驚きを隠せなかったが、まず最後までしっかり話を聞きたいと思った。

あの加藤の言葉だったから。


「うん。」


加藤はフーッと深呼吸をして続きを話し始める。


「同じ町に住むご令嬢さんでさ、でも金持ちの娘のくせに気が強くて…ご両親と喧嘩して家を飛び出してた時にたまたま出会った。お家同士の結婚が決まったんだ。変わった女で、当たり前な事に異を唱えてた。なんで顔も知らない会ったこともない人と結婚しなきゃなんないんだって…。」


「うん。」


「それが世の成り立ちだって言ったら…むちゃくちゃ怒りだして…。」


ふふっと晴男が笑う。


「めんどくさいからとりあえず連れ回した。俺より年上なくせになーんにも世間のことしらねーんだ。なにもかもに目を輝かせてた…。」


加藤はしばらく思い出に浸り、沈黙がつづいたが、

ハッ!と我に返る。

惚気る加藤があまりにも新鮮で、晴男はその沈黙を優しく微笑みながらしっかりと味わっていた。

堅物の加藤が年相応の少年に見えて正直ホッとしてた。


「すまん。えっと…とにかく…。感覚が合ったんだよ。生意気だし、可愛げはないんだけど…。肌が合うってこう言うことなんだろなって…」


ガタッと晴男は少し力が抜けてしまった。

加藤はすでに大人の仲間入りを果たしていたのか?と。


「違う違う!勘違いするんじゃねー。感覚!すごい懐かれてたびたび遊んでるうちにな。でも、結婚が決まってるんだ。俺なんかと身分も違う存在だ。」


加藤がスッと遠くに目をやる。


「あいつにとっての幸せは俺といることじゃないんだ。」


「そ…」


そんなのわからないだろ?と晴男は言いかけてやめた。

加藤に制止されたからだ。



「考えたよ。何か良い方法はないかって。でもダメだった。婚約中の女を連れ回す俺は家の人達にも憎まれていたし話も聞いてもらえなかった。それからしばらくしてな…そいつと婚約者が町を歩いてる時にたまたま出会っちゃったんだよ…。」


!?

それはなんて運命のイタズラなんだ…と晴男は思った。


「これがまた…男前でさ…穏やかに優しくて真っ直ぐで…俺とはまるで違う生き物だった。」


「…話したの?」


「ああ。彼女の方が俺に気づいてな。話しかけてきた。複雑そうな顔はしてたけど、その男に悪い印象はなかったみたいでな。安心した。この男なら大丈夫だろって思ってしまった。これがもう敗北だった。」


加藤には辛い話なのだろうが、語り口からその男性には一種の尊敬心を抱いてるように思われた。


「俺はあの人が幸せに笑っていてくれたらそれでいいんだ。だから潔くもう身を引く事にした。だから今生の別れと決めてこの道を選んだんだが…。」


加藤がうつむく。


「最後ワンワン泣かれてさ。自分の気持ち知ってるくせにだなんだ。でも仕方ないじゃないか。俺と彼女じゃ身分が違うんだから…。俺は俺のやり方で彼女を守れればいいと思ったんだ。結婚相手にはそばにいてやってほしいしな。そう言って格好良く別れたのに…先日手紙を書いてしまった。」


晴男はそこでやっと今日の話と繋がったと察した。


「貴様の真っ直ぐな気持ちに自分も伝えたいって思っちゃったんだろうな。本当は好いていたこと、貴様のような人間がいること………。」


加藤はそこで深い息を吐いた。


「本当は逃げ出してそばにいたいこと。」


加藤の意外な言葉だった。

真面目で努力家で…そんな考えがあったなんて微塵にも見せなかった。

むしろそういうのは軽蔑するタイプだという認識だったから。


「情けねーだろ。男として。」


「いや…。」


晴男は否定したいが言葉に詰まった。

加藤の言葉による混乱と、自分のことを思った時に

逃げ出してまで鈴のそばにいたいと思ってなかった。

思えなかったのだ。

それが晴男の中で衝撃だった。


「あいつ、俺が何か酷い目にあってるんじゃないかって…変に勘ぐったんだと思う。だから親に訴えたんだろうな。考えなしに行動する奴だから。それで…教官達の耳にはいったんだろな。いや…あいつなら単身でも乗り込んできそうだな。」


加藤は笑った。

晴男はその話を聞いていて、そこに愛があるんだろうなと思った。

加藤は加藤でその女性が大切だからこそ身を引く決心をした。

その女性もまた愛ゆえに…加藤を救いたい一心だったんだろう。

行動に幼さがあるとはいえ…なんだか少し羨ましいような気持ちもあり、チクッと胸が痛んだ。


「小田の女は?今宵は貴様と二人っきりだ。たまにはこんな夜もいいだろう。」


思いっきりぶたれた頬。

ずっと溜め込んできた思いを吐き出せて。

加藤はとっても清々しい気持ちになっていた。

何か一つ、自分の中にあったしこりがポロッと取れたような感覚がした。


晴男は加藤の言葉にハッとなり口を開く。


「俺は…俺のとこは…幼なじみみたいなものかな。妹の同級生で、昔からよく一緒に遊んでたんだけど…よく母親に暴力を振るわれてて、その手当をしてきた、心配で…。」


「幼なじみと言っていたな。ん?暴力?父親は?」


「父親は戦争で亡くなった。」 


「そうか…。その娘、また今も母親の暴力に絶えているのか?何故離れた?親に言われたのか?」


「いや…彼女を守るために、彼女の父親のような立派な軍人になりたいと思った。そうすれば俺の声は強くなるし、お金はたくさんもらえるし、そしたら鈴ちゃんを娶れるようになるから。」


加藤は晴男の純粋で真っ直ぐな…でも残る幼さに少し驚いた。

加藤の目にもまた、晴男は努力家で泣き言を言わない立派な少年に映っていたからだ。

決して口には出さないが。


「それはそうだろうが…。小田的には未来をしっかり見据えての行動で良いと思うが、でもここだと…まだ今しばらく学生生活だぞ?その娘は妹の同級生だから年下だろ?今を…耐えられるのか?それに俺達は軍人だ。パイロットになるんだ。戦争に行く。前線だ。その間また寂しい想いをさせることになる。それに…大切な人を二度失わせることになる。」


加藤の言葉はもっともだった。

ここを卒業してから次の学校でやっと飛行訓練が始まる。

たしかに今…鈴を守れる人間がいないから、鈴は孤独に戦い続けているだろう。

それにパイロットになれば当たり前だが戦地に赴くことになる。

どうしたって離れ離れになるのだ。

わかっていなかった訳じゃない。

訳じゃないが…。


「俺…何がしたいんだろ。」


自分が何のために今ここにいるのか?が一瞬にして濁った。

鈴のため。

そう鈴のため。

本当に鈴のため?

鈴にとって、それは幸せと呼べるのか?


「…すまん。貴様を責めたいんじゃないんだ。ただ、その事実はしっかりと胸に刻んでいた方が良いだろう。俺もそうする。もう泣き言も言わねー。立派な軍人になって、お互い…大切な人のために戦おうや。」


加藤は強く真っ直ぐだ。

自分とは違う。

しっかり先を見据えてる。

大切だからこそ、大切な人を手放そうとしている。

なんて強いんだろう。

なんて愛の大きい人なんだろう。

晴男はそう思った。





小田晴男様 

お変わりありませんか?


先日、久しぶりに小田家に上がらせていただきました。

晴ちゃんの部屋に入るか?ってすすめられましたが、晴ちゃんがいないのにかってしちゃダメだなって思ってえんりょしました。

帰ってきたらおじゃまさせてください。


こんなこと言っても困らせるだけだけど、晴ちゃんに会いたいです。

その日まで、かわらずがんばります。


原田鈴





原田鈴様


夏に一度帰ろうと思います。

その時に大切な話があります。


晴男


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