第24話 仲違い


 愛実40歳は近所のお友達里奈41歳と彩39歳に強い疑念を感じている。


 まだ幼児の頃は公園で遊ばせたりしていたので……いつも3人一緒だったが、最近は里奈と彩に会う機会は以前より減ってきている。私立宝光学園に通う中学2年生の里奈の1人息子蒼空(そら)君と彩の息子湊(そう)君はお受験組で中学が一緒なので2人一緒の頻度が増している。


 かたや愛美の長女心春(こはる)だけは公立中学2年生なので、別行動が増えていても仕方のない事。愛美は内心寂しく思っていたが、何と……最近里奈と彩が仲違いしたというのだ。


 その理由は色々あるが、里奈がクラブホステスのアルバイトをしていた過去があり、それを知ってしまいプライドの高い彩が距離を置いているらしい。彩と言えば国立筑波大卒でコロンビア大学留学経験のある才女で、英語もペラペラ。


 一方の里奈は大学を何としても卒業したかったので、短時間で高額に稼げるクラブでのアルバイトとなったのだ。だから……チョットだけ売れた歌手の「サリー」ことクラブホステス美月の事も知っていた。

 

 それでもだ。彩も自分の生い立ちも、そう自慢できるものでもないのに、クラブホステスというだけで里奈を毛嫌いするのもどうかと思う。才女で美人の彩は完璧主義者で、自分の範ちゅうからはみ出した人物とは付き合いたくないらしい。こうして仲違いしてしまった2人が愛美に近づいて来た。


「愛美さんお暇なお日にちあるかしら?」


「嗚呼……明日は子供が帰って来る3時ごろまで空いてましてよ」

 

 ★☆

 早速その日がやって来た。愛美と彩と里奈の3人組はゆっくり話したい時はランチと決まっていた。今日は韓国料理食べ放題の店が近所にオープンしたのでそこでのランチとなった。


「あら……今日は里奈さんはどうしたのかしら?」


「それがね……ちょっと聞いてよ。私もう里奈とはお友達付き合いしたくないのよ」


「一体何があったのよ?」


「里奈ときたらとんでもない事を言い出したのよ。それがね……あのミュージシャン高沢邸に泥棒が入ったでしょう。『あの家に出入りしている隠し子の母私知っているわ。実は…隠し子騒動で問題になった娘の凜の母というのが、テレビでも報道された愛人で、高沢圭祐のバックコーラスをしていた女なんだけど、ホステスをしていて美月という女なのよ。ひと頃「サリー」という芸名で歌手活動もしていたけど、すぐに消えちゃったわね。だけど……その美月という女相当のワルらしいのよ!』と言うので『一体どんなワルなの?』『まあ私も人づてに聞いた事だからハッキリ言えないけど……』『それでもどうして里奈がそんなホステスさんの事詳しいの。ひょっとしてお友達?』って聞いたのよ『ぅううん……チョットね』『何よ……隠し事はよして!』『ぅううん……何でもない……何でもない』『私何を聞いても驚かないから……』『ぅううん……じゃあ言うわ。私……実は…ホステスのアルバイト大学時代にしていたのよ。その時美月さんは「サリー」という芸名で歌手活動をしていたので、その界隈では有名だったので知っているのよ』と、そう言ったのよ」


「でも……里奈の家も父親の経営するフランス料理店が倒産して、それでクラブホステスのアルバイトしたのだと思うのよ。仕方ないわ」


「そうじゃないのよ。あの人とんでもない話をして来たのよ……それで私怖くなって……それ以来距離を置いているのよ」


「一体どういう事?全く話が見えてこないのだけれど……」


「ミュージシャンの高沢圭祐がこの町内に住んでいる事は知っているわよね。どうも……その「サリー」が在籍していた芸能事務所というのがヤクザが関与している事務所だと言うのよ。そしてね……あの超お金持ちの怪しい北村邸の奥様と、あの美月とかいう女知り合いらしいんだけど……どうも……亡くなられたご主人様も裏社会と繋がっているらしいのよ」


「それって一体どういう事。只でさえ住民から不気味がられているあの謎の北村貞子様。更にはご主人様がヤクザと繋がっていて、そしてミュージシャン高沢氏の愛人美月の在籍していた事務所がヤクザが裏で仕切っているとなると……ひょっとしたら最近この界隈で窃盗事件が頻発している事件に、関与している可能性も見えて来たじゃないの。だって……高沢邸も相当額の金品を盗まれたのでしょう?」


「でも……ヤクザがバックにいるからと言って、悪い事務所と決めつける訳にはいかないわね。現在は暴力団と言っても水商売だけではなく不動産会社、老人介護施設など多くを手掛けていると聞くわ」


「それにしても……あの北村邸は一体何者?」


「若者は入って行くが、近所の住民の話では帰って行く姿を見たことがないとは、本当に気味が悪いわね。中で何が起こっているのかしら?」


 これは彩と愛美の会話だ。だが、今度は里奈から電話が入った。


「愛美さん……今度会ってチョット聞いてほしい話があるの。チョットね……色々あって……」

 

 ★☆

 こうして……一週間後今度は里奈と一駅離れた駅前のレストランでランチをした。それというのも彩と里奈が仲違いしているのに、まだ間無いのに両方共にランチをしていたら両方から総スカンを食らいそうなので、バレないように少し離れた場所で話を聞くことにした。


 ここでは最近ブームのおにぎりランチを2人で注文した。


「そこで……話は何よ?」


「それがね……聞いてよ。彩ってさ。魔性の女っていうか……私呆れちゃって。だってさ……以前から感じていたのだけれど……ご主人様お亡くなりになったでしょう。それなのに……私聞いたのよ。彩には男がいる事。それがね……PTAの会合があり学校に彩と行った時だけど、その時彩が車出してくれたの。私がトイレに行って戻って来た時だけど、彩が聞かれたくないので車から出て人気のないところで誰かと電話していたのよ。きっと急に電話が入ったけど聞かれたくなかったのだと思うわ。まさか……私が聞いているとは思わず……電話で話して丁度喧嘩しているところだったわ。そしてね……酷い事を言っていたのよ。私が聞いたところは、こうなのよ。『何で会ってくれないの。浩一はあなたの望み通り亡くなったわ。それなのに……それなのに……何故会ってくれないの?わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭』私も……こんな恐ろしい事話したくなかったけど……彩とはもうママ友としてやっていけないと思って……」


「里奈が引っ掛かっているところは『浩一はあなたの望み通り亡くなったわ』ここでしょう?でも……これだけ聞いても別に何も彩が夫をどうこうしたとは、考え辛いんじゃない?」


「……まあ確かにそうなんだけど……その後『お金振り込んで欲しくて電話したんでしょう。だって……保険が下りたので……』って言ったのよ。それで私……話聞いてしまったこと知られたくなかったので、こっそり車に戻ったのよ。すると……彩が戻って来たわ。それで……何も知らなかったフリして後日聞いたのよ。『彩本当にお気の毒!ご主人様が急に亡くなるなんてね。そこで私もいつそんな事になるか分からないじゃない。ところで……保険金どのくらいかけた方がいいかしら?」


「『嗚呼……だって……私は主人と年齢差が20歳だから当然高額よ』だって。それで……いくらの保険金?て聞いたら『1億円の保険金』と答えたのよ」


「まあ恐ろしい保険金目当てで夫殺したって事?里奈テレビの見過ぎだって。だって彩に若い男がいるって確証はない訳じゃない。確証はあるの?」


「あるのよ。だって……私と彩は小中とずっと一緒よ。それこそ……親兄弟より一緒にいる時間が長いの。ある時その男を見たことがあるのよ。それも……テレビでも取り上げられている有名シェフ今井直樹だったのよ」


「でも……今井直樹だったらお金持ちでしょうが?保険金を当てにする必要がある?」


 一体真実はどこに隠れているのか?






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