第16話 直樹の結婚


 全く見えてこない彩の真実。どうしてあれだけ妻直美からの嫌がらせや嫉妬に耐え兼ねて、やっと結ばれることが出来た浩一と彩だったのに、何故直樹という男の虜になってしまったのか?


 直樹とは一体どこで知り合たのかだが、あれだけの犠牲を払いやっと結婚できた夫浩一を裏切る程までにのめり込むとは、直樹にどんな魅力があるというのか?


 ☆★ 


 港区元麻布の高級住宅地で相次いで高級宝飾品や現金キャッシュカードなどが窃盗被害に遭って捜査を進めていたが、その近所で最近亡くなった自動車メーカー「HOSINO」の専務取締役の夫に、1億円の保険金が掛けられていたと知り、田コンビ2人は、早速捜査に当たった。


「最大手の自動車メーカー「HOSINO」の専務取締役59歳が急性心不全で亡くなったらしいが、裕福そうに見えるが1億円もの大金を夫に掛けるとは、金銭面で苦労していたのだろうか?」


「まあそうですが、掛け金だけでもバカになりませんから……本当にもしもの病気や事故に遭った場合に夫の事を考えて先進医療特約の付いた保険だった可能性だってありますが?」


「だがなあ?5回しか掛けていない間に、ご主人様は亡くなっているんだ。そして……妻は20歳年下と来たもんだ。更には若い青年実業家の男の影がチラついている」


「これは犯罪の匂いがしますね?」


 こうして……妻彩との関係はいかなるものなのか、そして…相手の山川直樹の実態を掴もうと早速直樹の事を徹底的に調べ上げた。


 ★☆ 


 直樹の父は富山県高岡市の出身で代々「料亭光城」を経営していた。その為花の都東京、また全てが最先端の東京で修行するのが「料亭光城」の代々の習わしだった。早速東京に出て料理人を目指し高級店が立ち並ぶ銀座で修業し、故郷の富山で料亭を継いでいた父。立派なお城のような門構えの「料亭光城」は広々としていて自宅を兼ねていたので、小さな頃から厨房で包丁を握る父を見て育った直樹だったが、一方の母も元教師とあって教育熱心で幼少から英会話やピアノを習い、地元の附属幼稚園、小学、中学と進み、成績は常にトップクラスだった。空手は中学時代全国3位、水泳は県7位と「文武両道」を絵に描いたような少年だった。


 だが、同級生がみな有名国立大学に進学する中、直樹は父の料理に対する並々ならぬ努力とお客様の満足そうに帰っていく姿を目にして、自然と料理の道に進む決意をした。当然兄が居たので独立するしかない。


 高校卒業と同時に 「日本一の料理人になりたい」と心に誓い、京都の名店で3年間修業。そして、三ツ星の名店「嵐山美味」に弟子入りする。そこで5年修業したのち和食割烹をオープンする予定でいたが、丁度リーマンショックで閉店に追い込まれる店が続出していたので思いとどまった。


 そんな時に三ツ星の名店「嵐山美味」嵐山店の店長を任されていた直樹の腕に、惚れ込んだ不動産会社社長が出店の話を持ち掛け来た。


「うちのビルの一階に君のような腕のある料理人の店が是非とも欲しい」と口説かれて賃借料も破格に安くしてもらい「和食割烹光城」を祇園にオープンさせた。この時たまにこのお店に顔を出してくれていたのが、浩一と彩だった。


 当然その時はまだ彩は学生で京都に2人で2ヶ月1回ペースでやって来ていた。妻直美に見つかっては大変なのでデートはもっぱら地方を選択していたのだ。


 直樹は文武両道で、更には若くして料理の道でも勝ち組に登り詰め、何と度々テレビに取り上げられるほどの有名店に成長していた。正に人生に輝ける未来しか見えない、そんな輝かしい人生を歩んでいた。


 だが、人生いつどんな不幸が訪れるか分かったものではない。リーマンショックの影響で直樹を引っ張ってくれた不動産会社が倒産してしまった。ご多分に漏れず貸借契約が解除されてしまった


 更には高岡の「料亭光城」は地方都市だ。バブル崩壊、更にはリーマンショックとダブルパンチを食らい長年親しまれた高岡きっての「料亭光城」は創業100年で幕を閉じようとしている。父は精神的に追い詰められてとうとう亡くなってしまった。まだ若い長男に何が出来ようか、こうして倒産してしまった。


 ★☆


「裸一貫やりまた一から出直しだ。3億円の負債を抱え倒産した富山の兄を何とか助けないと……母が可哀そうだ!」


 そんな時だ。心機一転そう決意した直樹の目の前にある日、お店のお客さんだった社長令嬢美穂が現れて言った。


「パパがね。あなたの腕を見込んで出資してやるから店出さないかと言ってるの。どう?」捨てる神ありゃ拾う神ありということわざの如く、直樹は今また復活の時がやって来た。人生悪い事ばかりではなかった。


 社長にしても、「何も客足が伸び悩み倒産した訳ではない。大本の不動産会社の失態で廃業に追い込まれた優秀な男を、放って置くとは勿体無い!」そう言って手を差し伸べてくれた。


 それと言うのもこの家庭には大きな悩み事があった。誠に残念な話だが、子供が1人しか誕生しなかったのだが、ましてや女の子しか誕生しなかった。そこ婿養子をと躍起になっているのだが、娘がおへちゃでお見合いが成立しないのだ。


 今までも御令嬢なのでハイクラスなお見合いパーティーにいくつも登録して、100回近くセッティングの機会があったのだが、全滅で意気消沈していた。たった1人切りの跡取りお嬢様がお見合いで惨敗という不甲斐ない状況に、家族総出で跡継ぎ問題を模索していた。


 その時娘の美穂が言った。


「私ね!パパとよく行ったやないか?祇園の「和食割烹光城」だけど……不動産会社が倒産しはってな……店立ち退きせなあかんらしいんよ。何も借金ある訳やないんやし、経営者だった頃はブイブイ言わせていて、とてもやないが相手にしてもらえへんかったけど……今なら気弱になってはるやろうから……婿養子にどう?」


「おお……おお……あの男なら間違いない。流石私の娘や!」


「本間やなあ……ママだって……あの一流の腕前のイケメン君だったら婿養子に申し分ないと思うで……」


 直樹はその話を受けて困り果てている。

(いくら社長御令嬢と言えど……あんなちんちくりんのブス絶対に無い!だけど…愛する家族を救うためには……この道しかない)こうして美穂の好意受け入れた。





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