第14 浩一と彩
「全くどうなってんだよ?高齢のマダムグループといい、若い方のセレブグループといい、どっちも旦那さんが亡くなっている。片方は肺ガンだから寿命という事で仕方がないが、人を寄せ付けない怪しい言動の数々、これといった問題を引き起こした訳でもないので家宅捜索という訳にもいかない厄介なマダム貞子様だ。それと……若い方のセレブグループの1人に最近旦那さんが急に亡くなった家があるが、その桜井邸も怪しんだよなあ?」
「そうですね寅さん、旦那さんが最近心不全で亡くなった事といい、更には保障額1億円の死亡保険金が掛けてあった事といい、怪し事ばかりだ。奥様が言うには『夜間就寝中にうめき声をあげ突然亡くなった』というので先生から病名はぽっくり病と言われたらしいが、実に怪しいですね?あっ!それから……あの彩さんには男の影がチラついていますね」
「大体犯罪というのは金か恋愛の縺れというのが大方だ。あんな若い奥さんが20歳も年上の男と一緒になったという時点で怪しい?」
「そうなんですよね。相手の男というのが、自動車部品メーカーの社長で一気に業績を上げて来た「今井産業」社長らしいです。妻子持ちのクセして取引のある親会社の専務取締役の妻との不倫とは、とんでもない男ですね」
「そうなんだ。あの桜井邸も徹底的に調べる必要があるな?例え59歳といえども急に亡くなるにしては若すぎる。何か持病はあったのか?」
「ぽっくり病だと先生に言われたと言っていましたが?」
田コンビは桜井夫婦の家庭を徹底的に洗い出しに取り掛かった。
※全ての人が最期は心不全か呼吸不全で亡くなるので死亡診断書には心不全や呼吸不全と書いてはいけない。心筋梗塞を起こした方が心臓が止まって心不全状態となって亡くなる場合、死因は心不全ではなく心筋梗塞となる。肺がんが進行して呼吸が苦しくなって亡くなる場合、死因は呼吸不全ではなく肺がんとなる。一方で本当に心臓が悪くて至った死亡もあるので、これを区別するために「虚血性心不全」と死因原因として使用するケースが圧倒的に多い。たとえば通称「ぽっくり病」のように病歴のない人の急死で、確実に外傷を受けていない死亡の場合、急性心不全という記載は誤りとはいえない。
★☆
それでは……彩はどのような人生を歩んで来たのだろうか?
実は……彩の父親は高級フランス料理店を銀座・日比谷・有楽町・築地、表参道、麻布十番などに構え悠々自適の人生を歩んでいた。だが、1991年バブル崩壊の煽りを受け多額の負債を抱えて倒産してしまった。
悪い事は重なるもので父は借金取りに精神的に追い詰められて、脳卒中で倒れて下半身不随となってしまった。それでも……母は唯一残った銀座店を職人さんと必死で守り抜き、2人の姉妹を育ててくれたのだが、当然借金のかたに住む場所もなくなり、父がお客様としてしょっちゅう顔を出してくれていた親友の元に無理矢理彩姉妹を預けた。その男は、33歳という若さで大企業の課長職にある桜井浩一という男だった。
こうして13歳から彩もその家に間借りさせてもらう事になった。
浩一は同僚たちを差し置いて出世まっしぐらの優秀な男だったので、33の若さで1戸建てを既に購入していた。
だが、嫁の直美はろくに家にお金を入れない彩姉妹たちを事あるごとにいびり、毎日が針のむしろの生活だった。
※針のむしろ:人に苦しめられ責められて、一時も安心できない、恐ろしい場所のたとえ。
そして…女中と寸分変わらない手伝いをさせられた。3歳の坊やが居たので学校から帰って来たらよく坊やの子守をしたものだ。更には朝早く起きて家の掃除を済ませて学校に行くのが姉麻美との日課になっていた。
それでも……これだけ家の手伝いをしているにも拘らず、浩一の妻直美は余程邪魔なのか、もろに暴言や嫌味を言う女だった。
「全くもう直ぐ2人目が生まれるというのに、全く思いもよらない招かざる来客が2人も図々しく家に住み着いて迷惑しちゃうわ💢💢💢」そんな事をもろに言う女だった。
幾ら課長夫人と言えどもバブル崩壊で危機的状況の日本に、図々しく入り込んできたお金も大して払わない厄介者に、余計にイラ💢ついている。
そうなのだ。彩の母も出来るだけの事はしたいのだが借金で首が舞わない状態なので微々たるお金しか支払えていない現状化、直美の気持ちも十分過ぎるほど分かるが、それでもあんまりだ。食事もロクでもないものしか食べさせて貰えない。要は残った残飯整理が彩たちの日課となっていた。2人は仕方なく背に腹は代えられないので何でも食べた。
※背に腹は代えられない:差し迫った状況を回避するために、やむなく物事を選択する。
だから姉麻美はひもじいので、こっそりアルバイトを始めた。彩は中学生なのでアルバイトなど出来る訳もなく、姉がアルバイトをしてパンやポテトチップなどを買ってきてくれて飢えをしのいでいた。
★☆
姉の麻美は父に似て決して美人とは言えないが、彩は元々母に似て美人である。こうして事件は起きる。
幾ら20歳違いと言えども恋愛感情に年齢は関係ない。13歳と言えばまだ身長が伸び盛りの華奢な体系と可憐で純真無垢な汚れを知らない乙女だ。ましてや美少女とくれば尚更の事胸キュンとなる男性は多い筈。
ご多分に漏れず浩一も姉麻美にではなく、妹の彩に惹かれてしまうのにどれだけの時間が掛かろうか。
また夫の浩一が彩に興味を抱くのには訳があった。浩一の妻直美は大学の先輩後輩で腐れ縁とでもいうのだろうか、好きなタイプでもなかった直美にずるずると先導されて、いつの間にか結婚する羽目に追い込まれてしまった形だ。
だから……心のどこかに浩一はこんな筈でなかったと思う後悔があった。そういう事もあり余計にこんな子供に惹かれてしまったのだ。
★☆
桜井邸にお世話になって4年の月日が流れた。姉麻美は地方の国立大学に合格してこの家を出て行ってしまった。彩もこの家を抜け出す日を夢見て勉学に勤しんでいる。妻直美は坊やが小学生で下の女の子が幼稚園となり忙しく飛び回っている。
またママ友たちとの付き合いも増えて家を留守にする時間が増えて、彩にすれば鬼のいぬまに洗濯ということわざの如く、(主人や口うるさい監督者など、気がねする人がいなくなると、使用人や下位の者がくつろいで、自由にふるまうことのたとえ)束の間の安息に浸っている。
そんな時に将来の夫となる浩一が、彩の部屋にコンビニから買ってきたパフェを届けてくれた。
「おじさんありがとうございます」
「彩ちゃん勉強解らない所ないかい?僕は京都大学の秀才だったから高校生ぐらいの問題だったら教えてあげられるよ」
「本当ですか?勉強が難しくて苦労していたのです。教えてく下さい」
こうして直美がいない時間を見計らって浩一が、彩の部屋に、ある時は肉まんを持参して、またある時はシュークリームを持って現れ、勉強を教えてくれるようになっていた。彩もこの家にやっと居場所が見つかり安堵の表情を浮かべている。
そんなある日彩の部屋にいた浩一が、彩の肩に手をまわし言った。
「直美が彩ちゃん姉妹に酷い事を言っているのは時々耳にしていた。本当にゴメンね!僕はね。いつでも彩ちゃんの味方だからね!」そう言うと彩を抱き寄せた。
彩が抵抗する素振りを見せないので、今度は彩の唇にそっと浩一の唇を重ねた。
彩は浩一の味方だという言葉にビビット来た。今までどんな酷い事を言われても何一つ抵抗できなくて、只々我慢に我慢を重ねた日々がこれでやっと終わるのだったら、浩一を味方につけるために唇くらい何てことはない。それから……優しいおじちゃんがまんざら嫌いではないので……。
だが、とうとう事件は起きる。浩一が直美がいないことを良い事に、またしても今日はケーキ持参で彩の部屋にやって来て勉強を教えてくれた。
2人は一緒にケーキを食べて、またしても勉強に取り掛かった。
「彩ちゃん今日は僕と完全に1つになろうよ。そうすれば僕は完全に彩の側の者になり2人で1つさ」
「そんな事……そんな事……私はオジサンの事……男と思ったことなどないの。優しいおじさんとしか思えないのに……」
「責任は取るからさ!」
そう言うと荒々しく彩の体をまさぐり、彩をべッドに押し倒し強引に下着を外した。彩はこの家にまだ暫くお邪魔しなくてはならないので諦めに似た気持ちと、「責任を取る」と言った言葉に強く反応して抵抗する力を緩めた。
どういう事かというと、いくらやり手の父だったにせよ経営者には、いつ波乱がやって来るかも知れないが、大企業のましてや自動車メーカーのエリート中のエリートと結婚すれば両親のような苦労は絶対に味わう事はないだろう。
そう思い彩は体を許してしまった。だが……物事は終わっていなかった。
実は直美が帰って来ていたのだが、興奮した浩一は必死で物音に気付かなかった。1階にいた夫が、どこにもいない。直美は2階の寝室にやって来た。だがいない。こうして彩の部屋のドアを開けた。
「キャ――――ッ!あなたたち何しているの!」
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