第8話 母との別れ
愛美は最近生き別れの母に悩まされている。実は……最近この母が度々訪ねてくるのだが、現在60歳の母なのだが、年齢にそぐわない奇抜な若者が切るようなファッションで、それも「しま○ら」か「G○」で買っただろうファストファッションで、こんな場違いな場所、高級住宅地にやって来るので、世間体が悪いのは勿論の事、更には、あれだけ「置いてかないで!」と泣き叫んで追いかけた愛美を意図も容易く捨てておきながら、今更親だと主張して図々しく顔を出すのだが、それでも……悔い改め孫の世話にでもやって来たのならまだ分かるのだが、そんなに人間というのは性格が変わる訳はではない。甲斐性なしの男では生活出来ないので金の無心にやって来るのだ。
”ピンポン“ ”ピンポン” ”ピンポン“ ”ピンポン”
「は~いどちら様ですか?」
「私よ私……母さんだよ」
「何しに来たのよ💢」
「まあまあ……チョット入れてくれない?」
「もう💢💢💢今度だけよ!」
ズカズカと図々しく我が物顔で入ってくる母に、憎しみを通り越して只々呆れ返るばかりの愛美だった。
「今日は何の用💢?」
「ああ……嗚呼……今回も……チョットだけで良いんだよ。へっへっへっへ😅今回も悪いんだけど……まあるいもん……ふっふっふっふ……分かるだろう。お金だよ。ほ~んのチョットで良いんだよ。お願い🙏」
「んもう💢💢💢怒れちゃう。私がどんなに辛い思いしたと思ってるのよ?私をへっちゃらで捨てて置きながら今更図々しく私の前に現れて。フン!」
「あの時は……あの時は……仕方なかったんだよ。本当にごめんね!!!」
「今回限りにしてね。もう私の前に現れないで💢💢💢!!!」
★☆
愛美はあの日の母が出て行った日の事を、母が現れることで、あの悲しくて辛かったあの日の事を思い出すのだ。
(それでも……愛美は母はきっと迎えに来てくれる。そう思い最初のうちはまだ希望を捨てていなかった。だって……あんなにも優しかった母が私を捨てる筈がない)
だが、その思いはもろくも崩れ去った。いくら待っても母は愛美を迎えにやってこなかった。愛美の意に反してその願いは叶うどころか、徐々に希望から諦めに変わり……やがて……自分から母を思い出さないように、母との思い出の品を全部捨てて行く羽目になった。
確か……あれは愛美が5歳の頃の事だ。
入れ代わり立ち代わりオジサンたちがやって来ては愛美を可愛がってくれ、必ずお人形さんや大好きなお菓子、更にはおこずかいを手渡してくれるおじさん達。その頃は、まだそれでも……母と一緒に家にいる時間も長くて幸せだった。
だが、そのうち段々母が家に帰って来なくなり、帰って来たかと思うと母と同年代か母より若干若そうな男が出入りするようになり生活は一変する。その男は確かに若くてハンサムかも知れないが、今までのおじさんたちのように可愛がってくれたりお土産を手渡されたりという事は全くなく、反対にその男は気に食わない事があると、母であろうが愛美であろうが、酷い暴力を振るうのだ。
そして…とうとう決定的な事件が起きる
「愛美今日は大好きな、おばあちゃんの家に行こうよ」
例え優しい祖父母といえど、祖父母も生活のため働きづくめで殆ど家にいないので、年に一度のお祭りの日だけはおばあちゃんのお家に行くことが出来た。
それでも……おばあちゃんちに行けば「蝶よ花よ」と大切にされてそれはそれは幸せだったが、それは母と一緒だからこそ幸せだったのであって、何も祖父母との生活を望んだ訳では毛頭なかった。
ある雨の夜愛美はたまにやって来るハンサムで狂暴な男の車に乗せられ、おばあちゃんの家に遊びに行くことになった。
(あれ?お祭りの時期でもないのに……おかしいな?)とは思ったが、仕事で忙しい母を思い切り独占できる喜びで一杯だったあの夜。
最近は子供ながらに感じる母とのすきま風、それは愛美がすきま風を作っているのではない。最近とみに感じる胸騒ぎ、それは母の気持ちが(気持ちここにあらず)なのだ。
母1人子1人の家庭に育ち、その親子関係は一般的な両親の下に育った親子関係の比ではない濃密な母子関係だったにも拘わらず、それだけ愛美を愛していてくれていた筈の母が、今までの中年のオジサンたちのように、こぶつきの愛美がいても愛美を大切にしてくれた和気あいあいとした、更にはお土産付きの和やかなものとは異なり、母が男の側にへばりついて夢中な様子が、こんな5歳児にまでハッキリと伝わった。愛美のことなど見向きもせず、それこそ男と同然に母までもが愛美を邪魔者扱いにするそぶりが見えて来た。
それでも……愛美はそんな筈ない。自分と母は一心同体だから、そんな筈は絶対にない。そう思い母をどんなことをしても自分に引き付けようと思い、思いっ切り駄々をこね困らせる戦法を考えた。
(そうだ!赤ちゃん返りを決行するのだ!そうすれば母と以前のような仲良し親子に戻れる)
「わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭ママおぶって!愛美疲れた。わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」
愛美はこれできっと母は愛美に駆け寄り抱きしめてくれるに違いない。そう企み渾身の力で思い切り泣いた。
”ペッシ―――ン”
「うるさい💢!このガキが!」たまにやって来る若い男が愛美を殴った。
(それでも……きっと一心同体の母なら飛んで来て抱きしめてくれるに違いない)だが、その微かな期待はもろくも裏切られた。
「愛美!おじちゃんが来てるのに邪魔しちゃダメでしょう。もう💢ダメな子ね!早く寝なさい!!!」
こうして厄介払いされて祖父母の家に預けられて母は愛する男と消えた。
あの夜男の運転する車で送ってもらい、母と一緒におばあちゃんちで夕食を食べ、一緒にお風呂に入り久しぶりの母子水入らずの時間を過ごせて、これでやっとあの男から母を取り戻せて、また以前の日常が戻ったと夢心地で眠りについた。
だが、愛美は心のどこかに不安を抱えていた。だからあの初夏の朝方はどんな些細な事も見逃さなかった。まだ朝もやのハッキリ朝が明けた訳ではない薄暗い4時頃にギシリと音がした。
「一緒に眠った母がいない!」愛美は眠い目を擦りながら慌てて外に出た。
すると母が男の車に乗り、今まさに愛美を置き去りに男と逃避行する寸前だった。
「おかあちゃん……置いてかないで……わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わたち……おっちゃんのいうこと何でも聞く……わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わたちを連れてってわあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」泣きながら5歳の愛美はおぼつかない足取りで必死に車を追い掛けた。
だが、男に夢中の母に子供の事を考える余裕などどこにも残っていない。只々男に夢中で男に捨てられない為には、男の言いなりになるしかないのだ。例え可愛い子供であっても恋に夢中の母に子供のことを考える余裕などどこにも残っていなかった。
このような事があり、母に捨てられ……愛美は祖父母の下で成長した。
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