第5話 男の影
例えセレブと言えど全てが公になっていないだけで、誰もみな人には言えない秘密を多かれ少なかれ抱えているものなのだろう。
ママ友3人組は子供が同級生という事もあり、また、家が近所という事もあり、確かに必要以上に仲良しだ。この新興住宅地に移り住み早8年の月日が流れようとしている。長いようでも……あっという間の歳月だったが、長い年月の間には近所という事もあり、ママ友2人の真実を否応なしに目撃してしまうことも度々あった。
隣に住む里奈だって時々本当に生粋のセレブ?と疑いたくなる光景を偶然にも目撃してしまう事が何度かあった。
「ママばあちゃんが電話でさっき言っていたけど……あのね……?あのね……?ばあちゃんがね。お金振り込んでだってさ」
「あっ!蒼空ったら何言うの?嗚呼……そんなこと💦💦…………そんなこと💦💦あっち行ってなさい。ご ごめんなさいね💦💦」
愛美は思った。これは里奈の両親が生活に困って娘に依存しているパターンだということが、今度こそハッキリと分かった。
それでは何故そのように思うに至ったのか?
実は……何もこんな事が一度や二度じゃない。何度もそういう局面に出くわしていた。
それは……ある日の事だ。里奈とランチをした時急に里奈に電話が入った。すると里奈が携帯電話を見るなり電話を切った。するとまたしても電話が入った。だが、またしても電話を見るなり電話を切った。またしても、しつこく電話が掛かって来た。
とうとう余りにもしつこいので里奈が「ゴメン!」と言ってレストランの外に出て行って何やら怪訝(けげん)な顔で話している。それは……怒鳴っているようにも感じられた。
「里奈どうしたの?ひょっとしてストーカー?」
「ぅううん……何でもない」
だが、ある時執拗に電話して来る相手が誰であるのかハッキリと分かってしまった。
それは……ママ友3人でデパートに買い物に出掛けた時だ。その日もデパートの最上階でランチと決め込んだ。そして…食事の後里奈がトイレに行ったのだが、愛美もトイレがしたくなり彩だけ残して席を立った。だが、トイレの入り口に立った時偶然にもメイクルームで里奈が誰かと電話で話している声が聞こえて来た。
(どうせトイレの途中で電話が入ったのだろう)
そう思いトイレのドアを開けようとした時、里奈の怒りに満ちた声に、ドアを開けてはいけないと瞬時に感じ取った愛美は、トイレの前で立ち止まってしまった。
「お金この前振り込んでおいたでしょう💢まだ足りないだって?怒れちゃう……嗚呼……分かったわ。10万円振り込んでおくから……」
愛美は暫くしてトイレのドアを開けた。
「アラ?誰かと話していたの?」
「ぅううん……母がね……また遊びにいらっしゃいって……うるさいのよ」
この様な現状を幾度か見聞きしていたので、きっと里奈が話した両親の現状は全く異なるものだとハッキリと悟ったと、同時に里奈もこの様なブルジョアたちの巣窟の中でかなり背伸びをしていることが分かり、自分だけが場違いのとんでもない世界に飛び込んだ訳ではないと痛感し、同類に近い親近感を感じずにはいられなかった。
★☆
引っ越して間ない時期に彩の家でこんなことがあった。あれは確か彩が里奈にぶしつけにも聞いたことがあった。
「ところで……里奈さんのご両親は、ご職業は何なさっていらっしゃったのかしら?」
「嗚呼……💦💦ウウウ……💦💦あのね……あのね?父は熱海で老舗有名旅館を経営しているわ」
確かに里奈の父は創業100年の老舗「料亭旅館熱海 迎賓館 梅花亭」を経営していたが、実は……バブル崩壊の煽りを受けて倒産していた。それも何と負債額100億円という巨額の負債を抱えてあえなく倒産。
そのため父は精神的に追い詰められて、とうとう苦労が祟り入退院を繰り返していたが、里奈の結婚を見届けるように7年前他界した。そして…女将として活躍していた母も、女将を退いてしまえば何が出来ようか、現在は介護職員として細々と働いている。このような状態だったので親には頼れない。こうして里奈はクラブホステスをしながら何とか大学を卒業した。そこでIT企業の社長聖哉に見初められ2号さんから本妻になったのだ。
「料亭旅館熱海 迎賓館 梅花亭」は、一時期閉館も…現在は熱海の老舗ホテルが引き継ぎ息を吹き返している。
一方の彩は本当のところどのような人生を歩んできたのか?
「嗚呼……私は子供の頃はニューヨークに別宅があったので大学はコロンビア大学だったわ。おーっほっほっほ!」20歳年上の自動車メーカー「HOSINO」専務取締役の妻彩は相当な才女のようだ。本当にそうなのか?
それでもコロンビア大学卒業の才女が、何故20歳も年上の、例え大企業「HOSINO」の専務取締役といえども、子持ちの中年オヤジと結婚などしたのか?
それが実は……夫は最近心不全で突如亡くなり、現在は子供2人中学2年生の湊君と小学6年生の澪ちゃんの3人で生活している。更には何と夫には巨額の生命保険が掛けられていた。そして…彩には怪しい男の影がチラついている。
これは一体どういうことなのか?
とてつもない何か……想像もつかない何かががうごめき出して……。
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