第3話 ママ友3人組

 

 丁度8年前愛美たちが引っ越して来たこの新興住宅地は、正にお受験真っ盛りだった。

 

 愛美は子供たちを近所の公立の小学校に入学させるつもりでいたが、この新興住宅地の環境は幼稚園からお受験一色だ。お金に糸目を付けぬブルジョアたちの巣窟。若いママたちの話題は正にお受験一色に染められていた。


 この新興住宅地に引っ越して早速親しくなったのが、隣に住むIT企業社長の妻里奈だった。入居の時期は殆ど同時期で、愛美がデパートで買ったサンローランのタオルセットでご近所の挨拶周りに出掛けて親しくなった。そして…更には斜向かいに住む20歳年上の自動車メーカー「HOSINO」専務取締役の妻彩とも挨拶周りを機に親しくなった。


 何故意気投合して親しくなったのかというと、たまたま1人息子蒼空君が愛美の長女心春と同い年で、お受験の話題で意気投合して話すようになっていった。そして…何と蒼空君はお受験で、10倍以上もの難関を無事クリアして超難関宝光学園初等部に合格できた1人だった。


 そして…更には斜向かいに住む20歳年上の自動車メーカー「HOSINO」専務取締役の妻彩とも挨拶周りを機に親しくなったのだが、そこでも同い年の湊君が超難関宝光学園初等部に合格できたというのだ。


 だが、時期的に間に合わず愛美の長女小春は近所の公立小学校に入学した。

 本気で受験を考えるのであれば、小学校に入る前から宝光学園専門の教室に通われているお子様が合格するらしく、また「OB=男性」「OG=女性」のご子息の方も毎年大勢が受験するので強力なコネや優遇措置がなされなければ合格は厳しいという事らしい。

 

 それより何より、医師と聞くとセレブのイメージが強いが、東京大学医学部付属病院の医師といえども、大学病院の医師は最初の内は給料は破格に安い。まあ小春ちゃんのお受験の時期には父の昴は34歳だったので、それなりの収入はあったにせよ、アルバイトをやってこそのセレブなのである。そこに来て小学生からエスカレーター式に大学卒業となると、ザっと見積もっても大学卒業まで、お子様1人につき2500万円~4000万円そんなお金がどこにあるというのか……。


 当然優秀なので、引く手あまたの医師のアルバイト先があるにはあるのだが、大学病院の医師は研究や教育、臨床業務に忙しいため、アルバイトをする時間が限られる。だが、給与が少ないためアルバイトに依存している医師も少なからずいるのが現状だ。 


 それにしても、この様な環境に放り込まれた愛美は到底恥ずかしくて、自分の出自など馬鹿正直に話せたものではない。また夫がそれに輪をかけ体裁を気にするタイプであるので、自分が中卒で、母がクラブホステスで男と駆け落ちして行方知れず。更には母が売り上げを上げるために、複数の男性と男女の関係にあり父が誰とも分からない、そんな2人の間に誕生した子供であり、土方と飯場の飯炊きの祖父母に育てられたなど口が腐っても言えたものではない。

 

 こうして噓を噓で塗り固めたブルジョア似非愛美が誕生した。

 

 ★☆


 この新興住宅地に移り住んで早速親しくなった3人組は、先ず各々の新築の豪邸巡りと銘打って順番に見学して歩いた。


 最初に20歳年上の自動車メーカー「HOSINO」専務取締役の妻彩の豪邸に招かれた。


 中に入ると、そこはまるでハリウッドスターの邸宅のような、お洒落で尚且つ高級感溢れる高級家具カッシーナで統一された非現実的な豪邸だった。


 3人がソファーに座り談笑していると、中年の優しそうなお手伝いさんが早速ケーキと紅茶を運んできてくれた。


「さあお紅茶とケーキ召し上がれ」


「頂きます」


「嗚呼……このモンブラン美味しい」


「ねえ……愛美さんは大学はどちら?」隣に住むIT企業社長の妻里奈が愛美に聞いてきた。


 愛美はシドロモドロだ。正直に話せばこんなブルジョア階級の住民ばかりの中で1人だけ浮いてしまう。それより何より夫昴に大恥をかかせることになる。


「ええええ……?エエェェエエ……😰💦💦私ね……母が病気で亡くなったので祖父母に育てられたのよ。それでね祖父母も高齢なので大学にはいかず、高校を卒業して全国展開している最大手スーパー「オカヤ」に超氷河期の2003年に入社したの。あの時代大学を卒業しても就職出来ない人がとても多かったわ。仮に就職できても大手は超狭き門で一流大学勢が占めていたわ。私は学業成績もトップで珠算検定1級日商簿記1級資格を中学で取得して、高校では英検3級を取得していた事もあって、あんな時代にも拘らず大企業に就職出来たのよ。更には 「オカヤ」時代にレジ打ち日本一決定戦で日本一に輝き、ひと頃テレビにも引っ張りだこだっわ。そして結婚するまで主任としてパートさんをまとめていたわ」


「さすがー!東大卒の医師の奥様ね。へ―😛スターだったのね。私の兄が丁度その就職氷河期世代よ。確かに就職できない人が溢れ返っていたわね。凄~い!そんな時代に高卒で大手に就職できたなんて……ところでお父様はご職業は」


「父は大企業日本鉄鋼の部長で、海外赴任中だったので祖父母に育てられたのよ。祖父母は夫婦で海外や日本各地をよく旅行をしていたわ」


「嗚呼……私は子供の頃はニューヨークに別宅があったので大学はコロンビア大学だったわ。おーっほっほっほ!」20歳年上の自動車メーカー「HOSINO」専務取締役の妻彩は相当な才女のようだ。

 

 ※コロンビア大学と言えばオバマ前大統領が、コロンビア大学政治学部を卒業して、ハーバード大学のロースクールに進学したことでも有名である。全米でも勉強、学習に特に力を入れているトップ8大学の1つ。米人であれども かなり優秀なトップ成績の人間しか入れない大学。


「ところで……里奈さんのご両親は、ご職業は何なさっていらっしゃったのかしら?」


「嗚呼……💦💦ウウウ……💦💦あのね……あのね?」


 今までこのように土足で人の領域に、図々しくズカズカと何の配慮もなく入り込んでくる人も少なかったので、里奈は返答に困っている。実は里奈は今でこそ上流階級のマダム然と振舞っているが、実は2号さんから本妻に格上げしてもらえた幸運の持ち主だった。銀座の高級クラブ「蘭」のナンバー1ホステスだった里奈は、和服の似合う儚げな美しさの美人だったので夫聖哉はイチコロとなった。そして…息子蒼空が誕生した事によって本妻と別居して里奈とこの新興住宅地に移り住んだ。


「あなた……蒼空のお受験で夫婦でなければ合格は不可能です。あなた蒼空の為にも……一刻も早く奥様と離婚を……蒼空が可哀そう過ぎます……ウウウッ( ノД`)シクシク…」


「分かった!分かった!妻とは離婚する」

 こうして離婚調停で揉めまくったが、やっとの事離婚が成立した。それというのも本妻との間には子供がいなかったので、尚更夫聖哉は里奈に傾倒していった。


 愛美と里奈と彩の真実が徐々に解き明かされて来ているが、最近このブルジョアの街に頻繫に起こる窃盗事件。そして……4800万円の「奇跡の宝石サファイア」の行方は一体?







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