第2話 噓


 主人公愛実はセレブの街東京港区元麻布の新興住宅地に移り住み、名実共にセレブの仲間入りを果たした。


 だが、実は……愛実は大きな噓をついていた。最初はこんな事がまかり通る筈がないと警戒して、小さな噓をつき自分自身の生い立ちを立派に見せようと必死だった。


 最初の些細な噓が案外と上手く成功したので、噓を噓で塗り固め途方もない大きな噓で塗り固めた経歴詐称をしてしまう羽目に追い込まれてしまった。

(人とは案外と話した事実が噓であっても、それを信じてしまう生き物なのだなあ)


 こうしてどんどん噓をつき自分を立派に見せて、想像もつかない上流階級の生活を手に入れようと模索した。


 ★☆

 夫昴は愛実の高校時代の上級生で、部活のテニス部が一緒で付き合い出し、それが縁で結ばれたのか?


 実は……それはNOである。それは……体裁を保つための作り話であった。


 それでは愛実の真実の姿はどのようなものなのか?


 愛実は高級クラブホステスとお客様との間に誕生した娘だった。母親久美子の源氏名はマリ。愛美を出産するつもりなど毛頭なかったが、元々スタイルが良く長身のマリは気づいた時には5ヶ月を過ぎていて、中絶できない時期に差し掛かってしまったので仕方なく出産した。多分実業家A氏の子供であろうと思われるが、男性関係も入れ代わり立ち代わりでハッキリしない。そのような理由から当然の如く認知もしてもらえず母子家庭となった。


「私あなたの子供を身籠ってしまったの。奥様と離婚して私と結婚して下さい」


「マリのことは愛しているが、俺は知っているんだ。君が政治家のB氏や大物演歌歌手C氏と関係があることは周知の事実。子供だって誰の子供か分かったものじゃない?」


 そう言うとマリの前から姿を消した。また愛美が誕生した1985年頃はDNA鑑定も確立されておらず、証拠不十分だったため泣き寝入りするしかなかった。


 ※警察におけるDNA型鑑定は、 平成元年(1989年)科学警察研究所で実用化したことに始まった。 また警察庁は、平成4年(1992年)度から、府県にもDNA型鑑定を導入すべく、「DNA型鑑定の運用に関する指針」 (平成4年4月17日付刑事局長通達)を制定した。


 マリも若い内こそホステスとして稼げたので何不自由ない生活をしていけていたが、段々収入も減っていき40歳となったマリは、愛美を度方で日がな一日働く父親と飯場の飯炊きとして働く母親に預け、とんずらしてしまった。


 だが、こんな環境ながら愛美はどういう訳か成績優秀な娘だった。それでも……高齢に鞭打って働く祖父母にこれ以上苦労を掛けたくないので高校進学は諦めた。


「今の時代学歴がものをいう時代なのよ。あなただったら幾らでも入学できる高校は有るから、高校くらい何としても行きなさい」


 そう先生に言われても親と寸分変わらぬ、イヤそれ以上の愛情で育て上げてくれた祖父母に、これ以上苦労は掛けたくないので中学卒業と同時に、全国展開する最大手のスーパーマーケットに就職した。


 丁度2000年代前半は就職氷河期の最たる時代で、大学を卒業しても就職浪人で溢れ返った惨憺たる時代だったにも拘らず、中卒という大きなハンディ―がありながら学校からの強い後押しと、入社試験の成績が優秀だった事に加え、珠算検定1級日商簿記1級資格を中学で取得していた事も合格の起因となって見事就職できた。


 当然の事だが中卒という事で食品売り場に回されたのだが、あの時代レジ打ち日本一決定戦がテレビで放送されていた。各スーパーの代表が一堂に会して選手権が開催され、その卓越した腕前にテレビでもよく取り上げられていた。


 全国展開する「オカヤ」からも代表者が選出された。殆どのスーパーではパートさんが出場するパターンが多かったが、何と「オカヤ」からは、正社員の愛美が出場することになった。それは圧巻のスピードと正確性に富んだレジ打ちだったので出場となったのだ。


 そして…それからも愛美は毎年選手権大会に出場して5年連続1位という快挙を成し遂げた。


「凄い腕前だ!」この様な理由から例え中卒であろうと、テレビ出演も果たし会社に貢献してくれた優秀社員とみなされ24歳で主任となった。


 だが、仕事一筋頑張り過ぎたせいで苦労が祟り仕事場で倒れてしまった。そこで大学病院に緊急搬送されたのだが、その時の担当医が昴だった。


 愛美は2歳年上の昴の優しい接し方に癒され救われた。


「そんなある日退院したら退院祝いをやりましょう」

 

(東大医学部卒の大学病院の医師がこんな私なんかフン😞どうせ検査検査で不安を抱える患者さんを、少しでも安心させようとする医師としての常套手段でしょう)と思い軽く受け流していた。


(第一東京大学付属病院のエリート中のエリートが中卒の私なんか相手にする訳ない)そう思い、うわの空で返事をしていた。


「嗚呼……そうですね😒」

 だが、昴は愛美の存在をテレビで偶然目撃して知っていたのだ。ましてや5年連続で優勝した事実も知っていて愛美に興味津々だったのだ。


「嗚呼……綺麗な人だなあ😍💘💞」

 

 この様な経緯から付き合い出しあれよあれよと結婚となった。それでも大分県でも、かなりの大病院のお坊ちゃまだったにも拘らず案外スムーズに結婚できた。世の中案ずることはない。


 両親から少しは反対されたが、一流企業の正社員で優秀なお嬢様という事と、テレビにも出場したことのある日本一のレジ打ちの名人という事もあって、両親も渋々承諾してくれた。


 だが、この様にスムーズに結婚生活が始まったが、夫の昴は愛美に一目ぼれをして愛美と結婚したいばかりに、中卒の事実や生い立ちの全て受け入れた上で結婚してくれたのだが、自分の妻となった今は全く違う。


 愛美を慈しみ育ててくれた祖父母に対しての態度が冷たい。そればかりか最近はぬけぬけと耐え難い言葉を吐き捨てる夫昴。


「愛美の祖父母の事や母親の事は絶対に表沙汰にするな!もし話したら即離婚だ!」と脅す冷たい夫。


 ましてや本当は会社勤めも辞めたくなかったのだが、昴の強い勧めで退職しているので、離婚したら子供2人を引き取って育てることなどどうして出来ようか。可愛い2人の子供がいるのに離婚など出来る訳がない。


 四面楚歌状態に置かれている愛美。








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