1話
快晴の空。
天から光が降り注ぐ。
だが、その光は生命を殺す光。
「全員防空壕に入れ!! 女子供を優先しろ!!」
流星のような美しい光を恐れる村人達は、地下にある防空壕へ一斉に逃げ込む。
木造だった家々は炎に包まれ、風に吹かれて炎は大きくなり、村は炎に呑み込まれた。
「まだこっちに人が残っているぞ! オイ、そこのお前! 早くこっちへ来い! 死にたいのか!!」
四十代くらいの男が少女に必死になって声をかけるが、彼女はその場から動かない。
「なに、これ……」
鈴木雪は、戦場の中心で目を覚ました。
●
雪は、狭い防空壕の中で、恐らくあの村に住んでいた者達と共に身体を小さくして攻撃が止むのをただひたすら待っていた。
(え、ここはどこ? あの攻撃は何? 核爆弾?)
(というか、私は誰かに刺されて意識を失って……つまりここは、死後の世界? 地獄?)
雪は、この状況が全く理解が出来なかった。
疑問だけが浮かび、何一つ答えが見つからない。
誰かに聞こうにも声を出していいような空気ではなく、緊迫した空気が漂っている。
と、隣に座る人が声をかけてきた。
「ねぇ貴方、このあたりでは見かけない服装ね。旅人さんかしら?」
「あ、は、はい……?」
この状況が全くわからない雪は、反射でつい肯定してしまった。声をかけてきた人物は暗くてよく見えないが、声質的に若い女性であることはわかった。
しかし、他人にそう言われて自分をよく見ると、服装は死んだ時に着ていたセーラー服のまま。ただし、防空壕に入る際に多少は汚れてしまったものの、雨や血に濡れたはずが血の一滴もついていない。
(どういうこ、と……?)
刺された時の激痛も血の感触も、なんならバス停で待つ前にその日学校で受けた授業も覚えている。
(なら、夢……?)
夢ならば、どれほど良いか。悪夢なら早く目覚めてしまえばいいと雪が祈っていると、女性は再び話し始めた。
「旅人さんは知らないと思うけど、この辺りじゃよくあることなの。始まったのは最近なんだけどね……」
「そ、そうなんですか……」
しかし、結局何一つわからない。
せめて何か情報が欲しい雪は、一番気になるあの光について聞いた。
「なら、あの空の光はなんですか……? 爆弾?」
「いいえ、そんな生易しいものじゃないわ。あれは、魔法よ。だって今、この国が戦っているのは神様なのよ。人間が使えない魔法も神様なら使えるから……」
「え」
雪は、予想外の単語に驚きを隠せなかった。
(この人、なんて言った? 魔法? 神様? え? 比喩? それとも隠語?)
もしかして、と悪い予感がする。
「あの、この世界の名前って……地球ではない?」
「? ロイラよ?」
雪とて、漫画やアニメはそれなりに嗜む方だ。まさか、自分がそっち側に行くとは微塵も思っていなかったが、きっとこれは――。
攻撃が止み、人が次々と防空壕から出る。
「お前大丈夫か、手を掴め。足元に気を付けろよ」
雪は自分の番になって、あの時、自分を防空壕へ連れて行ってくれた人がそう声をかけてくれる。その人の手を掴んで防空壕を出た先には、快晴の空に飛ぶ大きな鳥……否、ドラゴンが羽ばたいていた。
「ま、まじか……」
鈴木雪は、平々凡々な十七歳である。
それがどうしたことか。
どうやら、彼女の肩書きに異世界転移なるものが加わったようだった。
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