第4話 ステマ

 10日経った。


 ペンタローは健在だった。というか滅茶苦茶元気だった。


 相変わらず姿が見えなくなる時はあるものの、それも一瞬であり、彼が言葉を発するのと同時に知覚できるようになっていた。


「ボクの寂しさを返せ」


「は?唐突になんなの?」


 夕食後。1人と1匹で読書をしながら駄弁っていた。


 つい先日までは読書の時間が一番好きだった。今ではペンタローと読書をするのが一番好きな時間になっていた。ペンタローはパンツの生活に完全に溶け込んでいた。


「そういや俺って召喚モンスターだからさ。スキルとか使えるはずなんだけど。自分では見れないんだよね。おぱんちゅ、見れる?」


「スキル」


 パンツの天才的な頭脳がフル回転する。スキル。どこかで目にした記憶がある。あれはどこだった。


「………あ、名前を付けたとき」


 たしかウインドウが表示されて。そこにスキルも載っていたはずだ。


 だがパンツにはウインドウの表示方法が分からなかった。もう1度ペンタローに名前を付けるわけにも行かない。


 もしやアレに記載があるかもしれないと見当をつけたパンツは、地下から地上に上がり、目的の黒い本を手に取った。


 ペラペラとめくる。ペラペラ。見つけた。



 ◆名前を付けたあなたへ◆

 ・目の前にウィンドウが表示されましたか?それが召喚対象のインフォメーションです。今後は魔法書を手に持ち「オープン」と叫べば表示されます。試してみてね。



「これだ」


「え。なになに。どったの」


「オープン」


「おーぷん?なにが?」



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【名前】ペンタロー

【種族】プラスチックペンギン

【アクティブスキル】

 ・イミテーション

 ・ステマ(New!)

【パッシブスキル】

 ・シックスセンス

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 パンツはウインドウを確認した後、ガクッと膝から崩れ落ちた。慌てた様子でペンタローが駆け寄る。


「どしたん!?FXで数千万溶かした奴のリアクションじゃん!」


「ボクはなんて馬鹿な男なんだ」


 反省が押し寄せる。


 パンツは読書が好きだ。1日に2時間以上は本を読んでいる。そんな彼が召喚魔法書だけ読み進めるのを忘れていた。凡ミス以外の何者でもない。


 本来なら最優先で取り組むべき事項だ。召喚魔法という未知の力はパンツの鬱屈とした人生を切り開くカギになり得る。


 だが怠っていた。何故か。明白だ。ペンタローと話すのが楽しかったからだ。


 パンツは畜ペン野郎をギロリと睨んだ。


「お前が悪い」


「え。なんかメッチャ八つ当たりくさいんですけど」


 パンツは思った。甘い果実は一瞬の幸福をもたらすものの、望み過ぎれば毒となり得ると。


「ほんでさ。俺のスキル分かった?」


 何事も無かったかのように話しかけてくる。ペンタローは切り替えの早いジェンダーレスペンギンだった。


「うん。アクティブスキルがイミテーション、ステマ。パッシブスキルがシックスセンスだって」


「ほーん。字面的にアクティブが自分から発動する系で、パッシブが自動的に発動する系かね。とりあえずパッシブはよく分からんから置いといて。アクティブがイミテーションとステマね。うん。なるほど。全然分からん」


 ペンタローの予想を聞きながら召喚魔法書を読み進める。



 ◆インフォが表示されたあなたへ◆

 ・あなたの召喚対象が生命体の場合、インフォメーションに2種類のスキルが表示されます。アクティブスキルは都度発動、パッシブスキルは常時発動です。魔物を倒したり、特殊な経験をすることでスキルを習得することが出来ます。通常は召喚主の命令によりアクティブスキルが発動されます。ただし一部の召喚対象は自己の意思によって発動します。



「なんか、アクティブスキルはボクが命令することで発動するっぽい。あともしかしたら、ペンタロー自身で発動できるかも」


「マジすか学園?」


「早速やってみるね。イミテーション」


 躊躇なくスキルを唱える。パンツは思い切りが良い男だった。


「ちょ、心の準備……!」


「…………」


「準備……」


「……」


「……」


 辺りを見渡す。ペンタローを見下ろす。


 何も起きていない。


「失敗したのかな」


「ん-、分からんすね。発動条件が満たされてなかった、とかありそうだけど」


 パンツは魔法書を開いた。もしかしたらスキルの詳細を確認できる機能が存在するかと思ったが、それらしい記述は無かった。


「分からないね。後回しにしよう」


「1つの物事に拘泥しないパンツちゃん好きよ」


「じゃあ2つ目やってみよう。ステマ」


「でも思いきりが良すぎるのはどうかと思うけ……っ!」


 不自然なタイミングでペンタローの声が途切れた。パンツは見下ろした。そこにペンタローの姿は無かった。


「ペンタロー?」


「なに」


 声と同時にペンタローの姿が現れた。先程と寸分違わぬ位置にいる。パンツは混乱した。


「いま、一瞬だけいなくなったよね」


「へ。何言うてんの。ずっとここにいたけど」


 パンツは既視感を覚えた。最近同じような現象が多発していた。


 まさかと思いつつ、再びスキル名を口にする。


「ステマ」


 ペンタローの姿が消える。


「ペンタロー」


「はい」


 ペンタローが現れる。


「ステマ」


 ペンタローが消える。


 パンツは確信した。昨今のペンタロー消失事件はスキルによるものだったのだと。恐らくペンタローが無意識に「ステマ」スキルを使用していた。


「ステマ」スキルはペンタローの姿あるいは気配を消すスキル。持続時間は知れないが、声を発することで解除可能。隠密系のスキルらしい。


「うーん」


「どったの」


「いや……」


 パンツは思った。


 これどう活用すればいいのと。

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