第3話 自販機にて、初恋

迷うことなく「あったか〜い」のミルクティー。

彼女の指は正確に赤く光るボタンを押し、ほどなくしてガコンとペットボトルが落ちてくる。

その様子を彼女の背後で仁王立ちし眺めるのが私で、いまペットボトルを取り出そうとかがんでいるのが私の友達かつ腐れ縁あるいは初恋の彼女。


「あー、腰痛い」


どっこいせ、と付け加えながら立ち上がる彼女。

手にはホットのペットボトル、熱くないのだろうか。真冬でも自販機から出てきたばかりの「あったか〜い」は実際熱いと思うけれど、それは私が末端冷え性だからかもしれない。


彼女に見とれていたのを誤魔化すように、遅れながら私はツッコんだ。


「年寄りじゃん」


ふざけて「昔は良かったわねぇ」などと続けると彼女は真顔で「今もいいよ?」と意志主張。そこはノってくれないんかい。私は手に持った缶コーヒーを投げつけるふりをした。彼女はわざとらしく悲鳴を上げながら私から離れる、ずざざと砂埃が舞う。


冬の公園で何してんだか、私たち。


こんなことを幼稚園、あるいは小学校中学校と繰り返してきたのかと思うと、ますます自分の人生というものがわからなくなる。園児のとき好きだった女児向け玩具も、小学生のとき流行った対戦型ゲームも今は飽きて影も形も見なくなったのに、隣にいる彼女だけは変わらない。いやまぁ人を玩具やゲームと同等に扱うなと怒られそうだけど、長く続けた習い事も熱中する趣味もない自分にしては、彼女にだけ「未来」を感じられるってこと。それが初恋と関係あるのかは未知数。


ブランコ同様、砂埃と落ち葉で汚れたベンチに視線を向けて……座るのを諦める。この公園に人がいない理由、寒いからじゃなくて普通に古いからなんだろうなぁ。子供は風の子って聞くし、今頃キレイな公園で元気に遊んでいるのだろう。


缶コーヒーを開け、熱い液体を口に流し込む。

普段は飲み物を買ったら用済み、お役御免の自販機だけど今日ばかりは恋人もかくや眺め回す。ラインナップは無難といった印象で、さびれた公園に置くにしては十分すぎる品々を各種取り揃えている。

しかし値段上がったな、私たちが子どものときはペットボトル1本100円だったのに。この天然水なんか170円もする。


「うめ〜」


ペットボトルのミルクティーをひとくち飲んで、彼女はほうと息を吐いた。公園の真ん中で所在なく立ち尽くし「あったか〜い」飲み物で暖を取る女子高生。これが青春でいいのか?


さすがにドラマやアニメ、本のような展開を期待するほど私は青春というものに憧れを抱いているわけではないし、周りが言うような「JKブランド」に価値を見出すこともない。と、思う。それはまだ私たちがピチピチの(死語)高校1年生だからであって、卒業が目前に迫るころにようやく手放しがたいと思うのかもしれない。


何もかも未知数だ、私たちの人生は振り返れば短くて先は見通せないほど長いから。

まぁなんにせよ答えは出ているから、単純明快に。

「これが青春か?」とインタビュアーに問われた際の回答はこう。


答えは肯定一択、彼女がいるならそれが青春だ。


初恋だし。


初恋だから。

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