第2話 公園にて、初恋

渋々といった表情の提案者を公園まで引きずり出し(もちろん一切触れずに)、私は息を吐いた。そろそろ寒くなってきた今日この頃だけど、まだ息が白く存在を主張し始めるほどではない。


制服の女子高生ふたり、無人の公園にて。

スカートの裾を北風が揺らす、スカートと靴下の間の膝まわり10cmは肌がまんべんなく外気に触れていてシンプルに寒い。ダサかろうが何だろうが、ジャージを履いてくればよかったと後悔。


「じゃ、帰ろうか」


「何しに来たんだ」


すばやくツッコんだ。

入会しただけで満足するジム、買った途端興味をなくすアイテム、家から出て満足する彼女。

などと並べてみるものの、かくいう私だって公園に何か用があるわけではない。むしろ「何しに来たんだ」といちばん言いたいのは公園だろう。

用もなく女子高生たちに占拠されて。


「えーと」


はるばる徒歩5分の道のりを来た以上、せっかくならば公園で彼女と遊ぶ久方ぶりの幸運を楽しみたい。私は適当に遊具を指さした。


「とりあえず、ブランコでも乗る?」


選択肢がベンチ、ブランコ、砂場の3択しかない公園で消去法を実行するなら、ブランコだった。語り合うなら外の寒いベンチより家の暖かいコタツだし、砂場で形あるものを作るほど創作意欲に満ちてない私たち。ブランコは、ほら、代替がないから公園に来た甲斐があるというか。


雑な提案にも彼女は「いいねー」と満足げに頷いて、てくてくとブランコに向かう。その両手はしっかりブレザーのポケットに突っ込まれていて、これからブランコに乗る人とは思えなくて私は少し笑った。まぁ私も寒くて手を袖から出したくないし、気持ちはめちゃくちゃわかるんだけど。


「おー」


彼女がないた。鳴いたのか泣いたのかは微妙なところで、それは錆びたブランコを見れば私も「おー」となかざるを得なかった。座る所、汚い。

砂場から飛んできたのか、砂と落ち葉で既に予約済みである。


「これはきたねぇや」


方言めいた調子で彼女が言う、私は頷く。

スカートではもちろん、たとえジャージだとしても軽率に座りたくないブランコだった。しかし立って乗るほどの気力は持ち合わせていない、もう無限の体力を思うがままに行使する小学生ではないのだ。私たちの体力は、午前中の体育の持久走で売り切れ御免。


「どうする?」


「どうしようか」


顔を見合せてポツリ、つぶやいたとて返答はない。堂々巡りの責任の押し付け合いが発生する前に、私は次なる遊具を指さした。「あったか〜い」の文字が輝く、お金を投入することで飲み物が落ちてくる遊具である。


「奢る」


私の言葉に、彼女の目が期待で見開かれた。


「まじ?」


本音を言うなら今月の財政状況はあまり良くないし、相手が彼女であっても気軽に「奢る」だなんてカッコつけるのは避けたかったけど仕方ない。

元はと言えば私と彼女の足がぶつかったのが原因だし……いや私は悪くなくないか?ん、悪いか。

惚れたもん負け、というか、惚れた弱み。


初恋だからなぁ。


初恋だもんなぁ。

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