第四集:面影
それはほとんど墜落だった。
「
赤く冷たい
叫ぶ友人達の声。
意識が遠のく。
ゆっくりと降下していく。
もうすぐ地面かと思ったところで、誰かの腕に抱き留められた。
「君はお姫様かい?」
端正な顔立ちに、柔和な笑み。
隠し切れない高貴な雰囲気と、清らかな目の輝き。
「
可憐な青年に背負われて空から降りてきた弟を見て、
「
「私を背負って飛んでくれていたのが、
「体調を崩していて落下してしまったのが……」
すると、
「君は
優しくも、悲しい瞳。
当時十一歳だった
「それに、君は……」
なぜなら、
「いやぁ、
竹林を進んでいった先に、大きな四階建ての建造物、
まだ百人程度の組織だが、そのほとんどが精鋭。
多くが戦争孤児で、その出身国は
「素敵な本拠地だろう?
建物正面の堅牢な門から中へ進み、巨大な中庭へ出た。
「私達がお二人の正体を知っていることをご存知なのですね」
「もちろん。だって
「私、可愛すぎますからねぇ」
「今でも男性だとは少し信じがたいが、弟を軽々と背負っていたし。それに、ここは
四人は中庭を進み、一番奥にある扉から再び建物内へ入り、階段を上って四階へ。
「ここが私の部屋。ゆっくり話を聞かせてほしい。
爽やかに微笑む
その精悍な姿に、
四人は部屋へ入ると、
机を挟んで
いい香りが漂う。
「火鉢も用意しようか」
ずっと息が白い
「お気遣いに感謝します。温かいお茶で充分助かります」
それでもまだ、息は白い。
「
「では、私から話します。兄上、
そして、得るまでの経緯や、
「
「兄上、
「危険だが、
「いえ、大丈夫です」
「その通り。私達が
「だが、君たち二人は
「だから自由に考え、決めたのです。我々とて
どこか悲しさを含んだ笑み。
それを見て、
「あの、失礼な質問だとは思うのですが、どうして
「聖賢と名高く、軍功も数多く、皇帝陛下からの信頼も厚い
その隣で
「大丈夫だよ、
「じ、実は私も気になっていたのです」
「全ての皇子が束になっても兄上には敵いません。なのに、どうして……」
「私は、この国を守る
「私と
皇后の妹は勝ち気で、刺繍や舞よりも剣術の稽古を優先するような武人だった。
ただ、姉のことを深く愛し、大事に思っていた彼女は、姉の願いを聞き入れ、妃となることを選んだ。
「母は皇后陛下の推薦と家柄の後押しもあり、入宮してすぐに貴妃に冊封された。そして三年後、私が産まれたのだ」
皇帝と皇后はそれをとても喜び、産まれてきた
次の年、皇后も女児を産み、姉妹は仲良く子育てを楽しめることに。
さらに三年後、皇后に待望の男児が産まれ、
「幸せな日々が続いた。母親同士とても仲が良く、私も
「そんな矢先だった。私の母が後宮で殺されたのは」
「表向きは菓子に含まれていた毒による暗殺だと言われている。実際に
「でも、母上が簡単に毒を摂取するはずがないのだ。男装して戦に出ていたほどの武人。自分の口に入れる物を何の確認もせず食すことは絶対にしない。それが暗雲渦巻く後宮の人間からの貰い物ならなおさらだ」
風が吹き抜ける。
雨が混じり始めた。
「母上は毒を飲んだとされるより前、父上の兄弟姉妹が主催している茶会に出ていた。もしその毒が
雨脚が強まる。
「茶会に参加する数日前、母上は風邪で伏せている皇后陛下を見舞いに行ったときに言っていたそうだ。『何者かが
屋根に当たる雨の音が激しさを増していく。
「悲しみも癒えぬうちに、さらに悲劇は続いた。
「
「だから私は
「第二皇子と第六皇子は兄弟で陰湿かつ狡猾。民の安寧よりも、自分たちが得る利益を重んじているどうしようもない奴らだ。第三皇子に大志はなく、第四皇子は身体が弱い。第七皇子は母親である賢妃の言いなりで、第八皇子は幼過ぎる。私が倒れてしまえば、きっと第二皇子と第六皇子が手を組み、
「母上が皇后陛下を守っていたように、私も、国と、未来と、弟を守っていきたい」
弟の手をとり、握りしめた。
「お前が民の盾となり背に居てくれるならば、私は軍を率いてどこまでも駆けて行き、戦う剣となる」
ぐったりとしている少年と、運んできた少年。
流血と痛みに気付いていないほど、必死だったのだろう。
「兄上、私は立派な盾になります」
「お前ならなれると信じているよ」
手をとり合う兄弟の姿に感動していると、
「とっても素敵。二人とも、大好きになっちゃった」
「あ、そういえば……」
「あの時、
二人は前を向き、心配そうな親友の横で
「
兄弟は
「つまり、生者でいることも出来ず、死者になることも出来ず、殺してくれと願うほどの苦痛を感じながら永遠を過ごすことになります。黄泉は死者のためにある
「おそらく
兄弟は当時のことを思い起こそうと暫く黙った。
そして、
「……
「その氷を用意したのはどなたかお分かりになりますか」
「先ほどから思い出そうとしているのだが、
「今の私には霊力がある。その
「駄目です」
「
「そんなにも重い
「私にはその力も手段もあるのです。また同じことをするかと問われたら、迷いなく頷きますよ。友達となった今ならなおさら」
舞い散る桜の花びらのような笑顔を浮かべる
「
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