第33話 冒険者ギルドとして少々厄介なんじゃな

 僕たちに出国を急がせる理由については思い当たるものはある。だが、それだけの理由でミスリルランクに昇格させる説明にはならない。この硬貨もそうだ、正直なところこれがどれほどの大金なのかは見当もつかないが、最上位ランクと同じ魔銀ミスリルの名を冠している。この硬貨一枚ですら、僕の全財産を軽く超えていそうだ。


「……さすがに今回のは待遇が良すぎる。ギース……包み隠さずに教えてほしい。例えあなたがウソをついたとしても、僕が気づかなくてもリンは気づきますよ?」


「にゃはははは、途中までカッコ良かったのに、誠に愛いやつじゃのそちは。……さてと、ギースよ。我はメグルのように甘くはないらしいぞ? 我としてもあまり事を荒立てたくはないしの? くれぐれも言葉に気を付けて話すのじゃぞ?」


 急に部屋の温度が下がったような錯覚に陥る。身体の震えが止まらない……鼓動は早くなり耳鳴りも聞こえる。呼吸も意識して行わないと、息を吐くことも吸うこともできない……。


 リンがギースに向けて放った妖力を纏った殺意に僕は完全に気圧された。あの受付嬢スタイルのガレスでさえもリンの殺意には耐えなれなかったようで、肩が小刻みに震えているのが見て取れた。ただそれでも、僕に比べると天と地のほど恐怖に対する耐性があった。

 そのガレスですらも霞むほどの豪胆な人物が目の前にいた。たった数秒、殺意にあてられただけで僕は死の恐怖を感じたのに、ギースは表情一つ崩さずに涼しい顔をしていた。


 これがミスリルランク……どう考えても僕には時期尚早すぎる、場違いすぎる。そっちもだけど、妖力を放出したリンって、こんなに怖いのか……本当に怒らせないように努めよう。これが僕に向けられたらもう生きていけない。なんというか、どっちも凄すぎて意味が分からない……。


「これはまた手厳しい。確かにリン君が目を光らせていては、メグル君を言い包めることは難しそうだ。降参だ、降参……私の負けだ。正直に話すよ、君たちならもうすでに察しているとは思うが、今回の件で我が国がどういう形であれ、近々戦争が勃発するのは明白だ。問答無用で国境は封鎖されてしまい自由に行き来ができなくなる。そうなれば、クラーク共和国にも避難できなくなる。君たちは元々この世界の人間ではない。そんな君たちを戦火に巻き込むわけにはいかないのだよ」


「のぉ~ギースよ。嘘はついてはおらぬようじゃが、少々言葉が足りぬ気がするのじゃが……我の気のせいかの?」


「はははっ……リン君には敵わないな。君たちには世界旅行を楽しんでもらいたんだよ。言葉通り世界を回ってほしい。クラーク共和国を楽しんだ次はメトゥス帝国と、そのついでに特殊個体とかこの首輪のこととか調べて、随時ギルドに報告してほしいんだよ。報告の方法は各地に点在する支部のギルドマスターに言えばいい」


「そのためにもメグルをミスリルランクにしないといけないんじゃな。最上位の冒険者であれば、他国であったとしても有力者の協力も得やすい。なんせ大陸に十一人しかおらんのじゃからな、その協力を拒むということは、ギルドの後ろ盾を失うということになるしのぉ~。それにミスリルともなれば、メグルがいつも気にしておる失効期限とやらも無くなるじゃろ。それほどの地位のある人材をギルドが軽々と手放すはずないじゃろうしな。あとは~そうじゃのぉ、この旅費はその依頼の前払いということぐらいかの?」


 二人だけでこの話し合いは上手くまとまりそうだ。リンに助け船を出したことは別に悪手だとは思ってはいない。失効期限もそうだし、この旅費が前払いだったことも気づかなかった。でも、なんだろう蚊帳の外にいる感じがして虚しい。


 そんな感じでのほほんとしていた僕を見計らったかのように、ギースはいきなり話を振ってきた。


「リン君がメグル君の使い魔じゃなければ、参謀にほしいぐらいの逸材だよ。で、メグル君をミスリルランクに昇格した理由、実はもう一つあるんだよ。私が最も重要視したものだ、それは真実がどうであれ、メグル君が使い魔としてリン君を使役しているということだよ。分かるかいメグル君!」


「リンを使い魔にしていることが最重要……?」


「ギースよ、それはちとメグルには酷かもしれぬぞ。なんせ我はメグルが生まれた時から隣におるからの。ということで、我がメグルに代わって答えようぞ。あれじゃろ、我がゴールド、プラチナランクの使い魔じゃと、ギース……そちというよりも、冒険者ギルドとして少々厄介なんじゃな?」


「リンそれってどういうことなんだ?」


「我が説明しても良いが、ここはギルドマスターにご教授願おうかの?」


「そこも私が説明しないといけないのだね。まあいいよ、どちらにしても納得しないと、君たちはクラーク共和国に行ってくれそうにもないし――」


 僕はそこではじめて使い魔を従えるという真の意味を知った。

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