第31話 そうか、真実か
この世界にもペットという概念は存在する。ペットには自分が飼い主であると証明するために首輪を着けないといけない。
そのペットの範囲が凄まじく定番の犬猫どころか、魔物もペットにすることが可能。ただし、ゴブリンやゾンビ、ハーピーなど人型は全て禁止。逆をいえば、それ以外の魔物は国の許可さえ得られれば、ペットとして飼うことが可能となっている。
その国というのが問題で、その許可する条件が上記の人型以外何も統一されていない。つまり、アライア連邦国では不許可だったとしも、他国では許可されたりする。
今回のワイバーンはアライア連邦国ではペットにすることはできない。アライア連邦国の魔物をペットにできる条件として最も重要視されるものは、人に危害を加えないこと。そのため基本的に討伐対象となる魔物は全般的にアウトとなっている。
ワイバーンをペットとして飼えるのはこの大陸においては、メトゥス帝国一択となっている。だけど、ワイバーンは凶暴性が高く懐かないことで有名で、メトゥス帝国でもペットに成功した事例は数えるほどしかないらしい。そんな希少なペットをなぜあんな場所に放棄したのだろうか。所有権を放棄するのなら首輪も外すのが一般的だ。
それもしていないということは飼い主は放棄したんじゃなくて、あの丘に留まるように指示した可能性が高い。しかも、僕を発見してから襲撃してくるまでの時間を考えると、その『留まる』という指示の中には縄張りを死守することなども含まれていたのだろう。
まだ推測の域を出ないが、どうやらガレスも僕と同じ意見なようで、時折ボソボソと首輪や所有者について呟いていた。
魔物はペットという枠組みではなくて、リンのように使い魔にすることもできる。
知性があり人語を理解し話せるような魔物は、使い魔として登録し使役することが可能。その際には国の許可はいらず、ギルドにただ登録するだけで済む。その代わり使い魔が人に危害を加えた場合は、自分の命で精算しなければならない。
リンは該当しないけど、通常の使い魔として使役するには、使い魔にしたい魔物と交渉をして契約しなければならない。その契約内容も食事提供だったり、勤務時間だったりと様々である。
人語を解せる時点で上位の魔物ということもあり、使い魔を使役している冒険者は全体の一割にも満たない。
ガレスやルルもその一割に入っているらしいのだが、彼女たちは使い魔を同行させない主義なようで、僕はまだ二人の使い魔を拝んだことはない。
そんなことをあれこれと考えながらの帰りだったこともあり、行きに比べて体感的には随分早く到着したように感じた。
ただそれでも唯一辛かったものもある。それはこみ上げる吐き気に耐えながら、遅れないように足を動かし続けなければいかなかったことだ。
次からはもっと時間をかけてちゃんと休憩しようと、この体験を経て僕はそう心に誓った。
その後、ソレイユに無事帰還した僕はギルドに立ち寄らず猫泊亭に直帰した。前回もそうやって同行者のルルと一緒に報告しに行ったし、依頼を受けた身としては自らギルドに向かって報告するのが当然だと思っていた。
今回もその予定だったが町に到着すると同時に、ガレスは「あとは私が全部やるから、もう帰っていいよ」と、言ってくれたので僕とリンはその言葉に甘えることにした。
翌日、ギルドに向かうとガレスはいつもの受付嬢スタイルで出迎えてくれた。
受付カウンターで報奨金や冒険者カードを更新してもらえれば、それでよかったのだがやはりギルドマスター直々の依頼ということもあって、案の定またあの部屋に呼ばれた。
特殊個体らしきものやペットの意図的で不自然な放棄、その今後の対策や方針についてギースの考えを聞いておくのも悪くない。そう思った僕は渋々ながら例のソファーに腰を下ろした。
ガレスは昨日と違って、はじめて案内してくれた時のように扉前で立ち、テーブルにはワイバーンが着けていたあの首輪が置かれていた。
対面に座るギースはその首輪を興味深そうに眺めながら、昨日ガレスが報告した内容に誤りはないか僕に確認をとってきた。
「はい、ガレスが報告した通りの内容で合っています」
「そうか……ガレスが虚偽報告などするわけがないのは分かってはいたが、あまりにも信じ難い内容だったのでな。そうか、真実か。これが虚偽であればどれほど良かったことか……」
ギースは僕の話を聞いた途端に、首をガクッと落としてボヤくようにそう口にした。
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