第10話 金がないのなら働けば良いのじゃ
あとで異世界の相場を調べて分かったことがある。銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚が同じ価値だった。まだその上にも白金貨と魔銀貨というのがあるのだが、実物を見る機会はなかった。銅貨が大体百円ぐらいだったので、今回の報酬を日本円に換算すると、約五千二百円といったところだろう。
また冒険者のランクはこの硬貨をもとにしている。ブロンズからはじまりシルバー、ゴールド、プラチナ、最後はミスリルという感じで硬貨と同じ順番になっている。
僕はガレスに別れを告げて冒険者ギルドをあとにした。
別れ際にガレスから一つ忠告を受けた。それは討伐依頼を受注していないのに、勝手に魔物を討伐することは極力控えるようにというものだった。
生命にかかわる危機的状況を除いて、魔物を勝手に倒すと違反行為に該当するらしい。
正式に討伐依頼を受注した冒険者が、無断で勝手に討伐されたとしれば、その冒険者はどう思うのかということだ。ただでさえ血の気の多い職業で、そんなことをすれば争いのもとになる。その火種を起こさないための規則だそうだ。
今回は僕が転生者であり、冒険者の事情も知らなかったため罰則無しということになった。
異世界人が行えば初回のため厳しい罰則はないが、当然ながら討伐報酬は支払われない。
まあこれも例のサービスに含まれている気がする……。
いちゃもんをつけてくるだろうと思っていた先輩方は、僕に対して何か行動することもなく静かにトランプを楽しんでいた。
今晩の宿屋を探すついでにウインドウショッピングに勤しんでいると、ある雑貨屋の店頭に置かれた小さな革製品が目に入った。
それを見た瞬間、僕の心は高鳴り……気づいた時にもう手に持っていた。
異世界ではじめて稼いだお金と引き換えに僕はある物を購入した。
僕が購入したのはトランプなどを入れるケースだった。革製のケースは他にも沢山あったが、その中でも少し割高のものを選んだ。これは他のケースとは異なり、ベルト通しができるように細工が施されていた。
僕は早速ケースに護符を入れると、麻袋を吊るした要領で腰ひもにケースを通した。
こうすることで袖から護符を漁らずとも、護符だけを取り出すことができる。
これで魔物と相対した際には素早く戦う準備ができるはずだ。
ゴブリンみたいにこっちの様子を伺う魔物ばかりじゃないかもしれないし、今後のことを考えた場合に、こういう自分の武器を持っておくことも冒険者によって重要なことだろう。
行き交う冒険者たちの武器を見て、自分も何か欲しいからという理由で衝動買いをしたわけじゃない。
この時の僕は自分なりに考えた専用武器を手に入れたことで浮かれてしまい、宿泊代まで失ってしまったことに気づいてさえいなかった。
いざガレスから勧められた宿屋前まで来たところで……僕はそのことを思い出してしまった。
「お金がすっからかんになったのを忘れてた。リン、どうしよう……」
「金がないのなら働けば良いのじゃ。あと一つだけ言っておくと……我の今日の気分はベッドなのじゃ」
「……サーイエッサー!」
僕はお猫様に敬礼をすると、すぐさま反転し冒険者ギルドに向かった。
幸運にもその場で達成できる依頼があったので、町の外に行かなくて済んだ。
その依頼は採取依頼に分類されるもので、当該品を冒険者ギルドに持ち込めば依頼達成となる。前もって集めてさえいれば、わざわざ採取しに行かなくてもいい。しかも、指定数量を超えていた場合はその都度買い取ってくれる。
僕のはじめての依頼は落命草という緑の葉に紫色の斑点がある草を十個採取するというものだった。その草は見た目や名前の通りそのまま食べると命を落とす毒草。ただ煎じれば効能が反転し解毒薬になるらしい。
落命草はあの大草原に生えていて、妖術の練習中に
どうして僕がこの毒草をすでに持っていたのかというと、護符作成用として余分に集めていたからだ。
ただ自分で言うのもあれではあるが、なぜこんな禍々しい草をあえて選んだのか……。
そして……残念なことにこの落命草では肝心の護符作成ができなかった。僕の技量では木に生えるような立派な葉じゃないと、護符作成することができないようだ。
本当になぜ僕は一度も試そうとせずにいけると思ったのだろう……。
ただその愚かな行動のおかげで、宿代を稼ぐことができたので良しとしよう。
こうして僕は何とかお猫様にベッドを献上することができたのだった。
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