第9話 こんがりと満遍なく真っ黒に焼けていますよね
僕が冒険者になるための条件……それはギースから依頼を断らないこと。たったこれだけだった。しかも、新人冒険者としてはあり得ないほどのサービスが備わっていた。そのサービスがどれも魅力的で、喉から手が出るほど欲しいものだった。なので、僕はギルドマスターの保護下に入ることを選んだ。
そのサービスとは、僕が転生者だということを秘匿してくれること。ギルドマスターの権限により通常はブロンズランクから始まるところが、飛び級でシルバーランクからとなること。
それに伴い月一での依頼から解放され、半年に一度依頼を達成すればいいだけとなった。各ランクには一定期間内に依頼を受注し達成できなければ、冒険者としての地位を
なぜ僕が転生者だと彼らに気づかれてしまったのかというと、やはりあのカメラが原因だった。
あのカメラには魔力測定器の機能が備わっていた。それが問題だった……お世話になったあの村で、魔具を試してみた時に何一つ動かなかったのは、単純に魔力量が少ないからだと思っていた。実際はそうではなくて僕の魔力量は完全にゼロだった。
転生者の僕には元から魔力が宿っていなかった。それが今回の写真撮影で発覚してしまった。だから、あの時ガレスはカメラを見た途端に硬直し、階段を駆け上がり上司であるギースの意見を仰ぎに行ったのだ。
この異世界には僕以外にも転生者や転移者がすでに何十人もいたが、その全員が魔力を有していなかったらしい。そのうちの何名かは僕と同じように冒険者になる道を選んだ。そういう経緯もあって、すぐに気づかれてしまったようだ。
その後、僕はガレスから冒険者カードを受け取り晴れて冒険者になった。
僕とガレスのやり取りを後方から悪態をついて見物している冒険者が数名いた。その気持ちもわからなくはないが、いざそうやられるとあまりいい気はしないものだ。
そのことに僕よりも先に気づいていたガレスは、
その悪魔の囁きに従い僕は「これ換金できますか」と腰にぶら下げた麻袋を受付テーブルに置いた。
ガレスはわざとらしく麻袋をひっくり返して中身が彼らに見えるようにばら撒いた。
大量の焦げたゴブリンの右耳が枯れた音を出してテーブルを占領していった。
それを見た彼らは急に口を閉ざして大人しくなった。
正直なところ数は多くても所詮はゴブリンなのに、これほど効力があるとは思っていなかった。
僕は彼に聞こえないように小声でガレスに質問をした。
「この数って多い方?」
「単独でこの数は多い方ではありますが、彼らが驚いているのはそこではないですよ。この焼き焦げた耳を見て驚いているのです」
「どういうこと……?」
ガレスは耳を一個つまみ上げると、僕に向かって全体が見えるように手首を回した。
「ほら、こんがりと満遍なく真っ黒に焼けていますよね」
「燃やしたのだから当たり前では?」
「そうですね。こうなっているのが彼らかしたら問題なんですよ。だって、この状態にできるほど火の魔法に長けた冒険者のほとんどはゴールドランク保持者なんですから……あと、これが今回の討伐報酬です」
いつの間にかテーブルには硬貨が積まれていた。ガレスは焦げた耳で片手を封じられていたし、説明中も僕から視線を逸らすことはなかった。いつどこでどのタイミングで、彼女は僕に気取られないように報奨金を音もなく机上に置いたのか……理解が追いつかなかった。
これがうわさに聞く……手品師が至近距離で観客に披露するクロースアップマジックというやつか。たぶん違うとは思うけど、そう思うことでこれ以上深く考えないようにした。
僕はテーブルに置かれた銀貨五枚と銅貨二枚を硬貨袋に入れながら、ガレスが先ほどの話した内容のことを考えていた。
僕がゴブリンに向けて放った鬼火の火力は、本来の半分にも満たないものだった。彼女の話を聞く限り、戦闘技術うんぬんを無視して単純な火力で判断すれば、僕の鬼火はゴールドランクを超えてプラチナランクでも通用するかもしれない。だからといって、それで天狗になったわけじゃない。
護符をつくるのにも鬼火を発現するにも妖力を消費する。妖力は自然と回復していくが、消費し過ぎると僕の生命にかかわってくる。妖力は消耗した僕の魂を補助する役割も兼ねている。そのため過度に妖力を使えば、その補助する分の妖力に手を出してしまう。なので、基本的に極力妖力を消費しない低燃費でいこうと思っている。
死んだら元も子もない……せっかくリンがくれた命なんだから、大事にしないと……だから、僕は冒険者になっても極力危険な依頼は受けない予定だ。
生活に困らない程度のお金を稼いで、のんびりと楽しくリンと自由気ままな暮らしを謳歌するのが僕の夢だ。お金に余裕ができたらあちこち見て回るのもいいかもしれない。
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