第3話 気の一つや二つ重くもなるだろ
遠目から村全体を見た時から何となく察してはいたが、この異世界は元の世界でいう中世ヨーロッパの文明に近かった。服装も建物も生活環境なども、その時代設定に合わされているかのようだった。ただ一つ違うことがあるとすれば、この世界には魔力と呼ばれる不思議な力があった。妖力とは異なり魔力はこの世に生きる全ての生物が生まれながらにして宿している。人々はその魔力を消費して超常現象を発生させる魔法を行使したり、魔具と呼ばれる電化製品に似た装置を使用していた。
ぱっと見は中世ヨーロッパなのだが、魔具というオーパーツによって暮らしは飛躍的に向上していて、一部に関しては元の世界とほぼ大差なかった。
妖力でも魔具を動かせないかとこっそり試してみたが、残念ながらうんともすんともいわなかった。
村人の話では魔力量によっては、使用できないこともあるらしい。また村に滞在中は記憶喪失だという設定で何とかやり過ごした。
村人はみんなとても親切だった。特にグラハム村長は僕たちを家に招きいれて食事や寝床まで用意してくれた。この世界についても丁寧に、僕が理解できているか一つ一つ確認しながら教えてくれた。彼の好意はそれだけに留まらず、村を出て行く際には地図や狩猟ナイフ、食糧にお金まで持たせてくれた。
転生者だと悟られないためとはいえ、結果として彼らの良心を裏切るような行為を僕はした。もしまた彼らと再会することがあったら、その時は受けた恩を数百倍にして返そうと心に誓った。
この
僕のいるティタニアル大陸には東にアライア連邦国、西にクラーク共和国、北にメトゥス帝国という三つの国が互いにけん制し合っている。その三か国を総称して彼らは三大国と呼んでいる。
海の向こうにはテオローム大陸があり、統一国家ネアンという一国が大陸全土を制覇している。その大陸の南方には、エーレ王国が治める島国が浮かんでいる。
アライア連邦国の西側に位置するこの村では、ティタニアル大陸や自国に関する情報は詳しかったが、他国についてはうわさ話程度となっていた。海を渡った先にある二か国についてはうわさ話どころか、尾ひれ背びれまで付きまくっていて、おとぎ話を聞いているようだった。
ただその中でも信憑性……いや個人的に気になるものもあった。それはエーレ王国が鎖国をしているというものだった。この時代設定で鎖国をしていて、尚且つ島国と聞けば日本人として気にならない方がおかしい。
アライア連邦国には貿易港がある。そこで村長や村人は買い出しの際に、ネアンからの商船は係留されているのを見たことはあるが、エーレ王国の商船は一隻も見たことが無いらしい。
将来的にはそのエーレ王国に行ってみたいけど、まずはこの世界で生きる術を見出さなければならないが、その術もグラハム村長から教わっていた。
剣と魔法の世界において、一番取っ付きやすい職業といえば――そう冒険者だ。
ということで、僕は
左手にはあの大草原が広がり右手には点々と木が生えていて、その隙間を這うように大小異なる川が流れていた。
その光景が視界に入るたびにアライア連邦国が、水に恵まれた国だというのが理解できた。
ぽかぽか陽気に誘われて散歩をするように僕の足取りは非常に軽かった。昨日あれほど身体を酷使したにもかかわらず、何の疲れも残っていなかった。やはりこの身体は普通ではない気がする。
しばらくすると、前方の道が二つに分かれている箇所に差し掛かった。片方はこのまま真っすぐ東に向かう道で、もう片方は北東に向かう道となっていた。
僕は袖から地図を取り出してルートを確認した。
「え~と、ソレイユに行くには……こっちの道か、こっちか~!」
「嫌そうな声を出して、どうしたのじゃ?」
「この先からあれが出現するんだなと思うと、気の一つや二つ重くもなるだろ……」
「なんじゃ廻。村長の話を聞いて弱気になっておるのか? これから冒険者になろうする者がこの程度で
「怖気づいてないっての、どっちかというとその後のことを考えてしまった」
僕は地図を折り畳み袖にしまい込むと、小高い丘へと続く北東の道を選び歩みを進めた。
三十分ほど小坂を上り下りしたところで、崖にぽっかりと穴が空いているのを見つけた。
この洞窟こそが、僕を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます