第7話 とりあえず闘っているのは確かだ
僕の納得した様子に頷きながら、イセさんは話し始めた。
「それで、今そこで瑞花さんと闘っとる暗鬼は今存在する暗鬼の中では一番古い個体なんや」
後ろを見てみると、火の玉や黒い霧のようなものが意思を持って動いている。……早すぎてそれ以外に何してるのかが分からない。まあとりあえず闘っているのは確かだ。
あのふたりは1000年以上前から生きてきたのだと考えると、なんだか不思議を超えてよくわからない次元になってくる。
「一番古い個体──あの暗鬼はもうすぐ寿命を迎える。その証に葉鳥くんから妖力を奪わんと動けんかったやろ? それに、寿命が近くなると身体に妖力を溜めれんくなる。そしたらお腹が空くんや」
「お腹が空く……?」
「そうや、妖怪のエネルギーの源は妖力。それが溜められなくなるんやから、お腹が空く。食べても食べても満たされん。自ずと食べる量が増えることになる」
なるほど、ガソリン1リットルで5キロ走れるのが、ガソリン5リットルでやっと5キロ走れるみたいなもので、燃費が悪くなる感じか。
「長く生きる妖怪は元来少ない食事で十分事足りるんや。そして500年以上生きる者は一筋縄ではいかん強さを持っとる。そんな妖怪が大量の食事──暗鬼の場合は人の恐怖心やね、を必要としたら、人間に大きな影響が出るやろ?」
めっちゃ影響出そうです。実際僕にも影響ありました。暗鬼が悪夢を視せてくるのって恐怖心を食べるためだったんだ。じゃあ僕の恐怖心も食べられていた……?
確かに夢から覚めてしばらくしたらケロッとしてたけど……、恐怖心を食べられていたからだったのか。
恐怖心を食べてくれるから良いのか、そもそも悪夢を視せてくるから悪いのか、なんとも微妙な感じがする。
「そういう影響をそれ以上大きくせんために俺たち祓屋がおるんや。ここまでは分かった?」
「はい、説明ありがとうございます」
「で、こっからや。……何かいい案ある?」
相変わらず人任せですね、イセさん。なんかもう慣れたけど。いい案、いい案かぁ……。藤さんはどう考えてるんだろう。
ちらりと様子を伺うと、藤さんもこちらの様子を伺っていた。
「何かあるんですか、藤さん?」
「まあ、ええ。あるにはあるのですが……」
何か引っかかることがあるような言い方ですね。そしてそれはきっと僕関係なのだろう。なんだろう、僕が囮になるとかかな……? さっきの話だと、暗鬼の妖力も尽きてくる頃だろうし。
僕は、なんだろうという気持ちを込めて、藤さんを見つめた。しばしの
「……葉鳥くんの妖力を瑞花さんに分ける、というものです。私たちの力ではあの暗鬼には敵わないでしょう。なのでいっそのこと瑞花さんに頼ろう、という作戦です。ですが瑞花さんも、妖力を得て無敵状態な暗鬼には苦戦している。今のままだと五分五分で勝って五分五分で負ける、といったところですね。ならばここに葉鳥くんから妖力を分けたら……? はい、勝てますね。つまり、そういう作戦です」
僕の妖力を瑞花さんに。それってつまり、……そういうことだよね。藤さんが
瑞花さんとキスしないといけないってこと、……だよね!? でもそれならどうして僕が? 妖力を分けるのなら藤さんでもイセさんでも良い気がするんだけど。
「それって僕以外でもできそうなことですよね。僕がやる理由ってあるんですか……?」
「ああ、それは……」
「妖力を持つ人間なんてそうそうおらんのや。藤ももちろん俺も持っとらん。たとえ俺らが妖力を持っとっても、瑞花さんが許すとは思わんなぁ」
「そういうわけです」
実は珍しいもの持ってたんだなぁ、僕。……というか、というかなんだけど、キスの他に妖力を分ける方法ってないの!? そっと自分の唇を触ってみる。……いやいや、僕キスなんてしたことないから! 暗鬼にやられたのは、うん、ノーカンです。絶対にノーカンです!
「……すごいなぁ、葉鳥くん。何考えとるか、手に取るように分かるで」
「ですねぇ」
「……そんなに分かりやすいですか?」
今まで分かりやすいだなんて言われたことないんだけどなぁ。
「ええ、とても分かりやすいですよ。先ほどは、『キス以外に妖力を分ける方法がないのか』と考えていたのではないですか?」
「ど、どうしてそれを……!?」
顔が赤くなっていくのを感じる。考えを読まれたのと読まれた内容が内容だったから、なんか恥ずかしい……! 頭を抱えるとはこういう時に使うものなのかもしれないな。
……いやいや、別に今はこんなことどうでもいいんだよ! 大事なのは暗鬼への対策と、キス以外に妖力を分ける方法がないのか、だけ!
「ちなみに言うと、キス以外の方法はないと言われていますよ」
「そっ、……そうですか」
なかった。キス以外の方法なかった。すごく、気まずい。瑞花さんとキスしないとって、……気まずい。嫌とかそんなんじゃなくて、気まずい。
「まあ頑張ってください」
「頑張れ、応援しとるから」
藤さんとイセさんは僕の方にぽんと手を置き、言った。そして、僕は瑞花さんたちが闘っている方に連れていかれる。えっと、まさか今から瑞花さんを呼ぶ、とかないよね……? そんなわけないよね……?
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