第2話 も、もしや死んでしまうのか!?
「大丈夫か、葉鳥?」
どうやら僕を助けてくれたらしいその……人、ではないよな。狐の妖怪……?
こんな知り合いいたっけ? いたらさすがに覚えてるよな? だってこんなにイケメンなんだから。
少しくるっとしている肩につかない程度の白銀の髪、同じ色の瞳、まつ毛にマッチが3本は乗りそうだなんて、なんだそれすごい。藍色の着物を着こなす妖狐はこの世のものではないように見える。
実際この世のものではないけど。
「……どうした葉鳥? どこか怪我でもしたのか? 人間とはか弱いものなのだから。……も、もしや死んでしまうのか!?」
「あ、えっと、大丈夫ですよ……? 死にはしません。それに怪我もしてません。守ってくださりありがとうございます」
「そうか、それはよかった。さて……」
妖狐はあの二人の方を見る。チャラそうな人は、やべ、とでも言いたげな表情をしており、実際言っていたのがさっき聞こえた。
落ち着いた感じの人は、いつの間にか取り出していたおふだを構えている。めっちゃ警戒してるじゃん。
一方の僕はというと、呆然と立ち尽くしています。なんだこの状況……! 誰か説明してください! ちょっともうキャパオーバーになりそう。
「お主ら、よくもわしお気に入りの人間に手を出そうとしたのう? 葉鳥が倒れていたらどうするつもりだったんじゃ?」
「えーっと……」
妖狐さん、僕に対して話す時よりも声のトーンが数段低いですね。なんか怒ってますね。
そしてチャラそうな人──もうチャラ男でいいか、は明らかに妖狐から目を逸らしている。そして何かを思いついたように突然笑顔になった。
なんだか嫌な予感がする……。
「それに関してはここにいる藤が答えるんでよろしゅう」
「「は?」」
見事に僕と藤と呼ばれた落ち着いた男性の声が重なった。いやそれはさすがにないでしょ。僕に攻撃してきたのはチャラ男なんだから。藤さんは一応止めようとしていたんだから。
チャラ男、ないなぁ……。
「そうか、お主が答えるのか?」
「ふむ、そうですね。私から言えることはただ一つです」
「何じゃ?」
「全てはここにいるイセがやりました。私は関係ありません」
そうだそうだ、よくぞ言ってくれました。
藤さんはそっとおふだをポケットの中に片付け、イセと呼ばれたチャラ男に近づく。そして羽交締めをきめた。
思わず拍手したくなるくらいには綺麗にきまっている。
「いでででで! は、話せば分かる……! 話せば分かるから、とりあえず離して!」
「話すかどうかはそこにいる妖狐と葉鳥くん? が決めることです。私の一存では決められません。そういうわけで、どうです? お二人とも。これ、離して良いですか?」
イセさんの苦しむ声なんて聞こえない。そう聞こえない。なんというか、藤さん見かけによらずお強いですね……。
はっ、そうだ、今は現実逃避をしている場合ではなかった。イセさんを離すかどうか、か……。ちらりと妖狐の方を見てみる。
妖狐はにこりと笑って言った。
「葉鳥の好きなようにして良い。ただ一つ勧めるとするならば、そやつを祓い返すということじゃな。何やら気絶するくらいには威力があるようじゃからのう」
「なるほど……、それも一理あるかも」
「は、葉鳥くん? 冗談よな……?」
一理あると思ったのは半分本当で半分嘘だ。さっきの態度といい、なんだか癪に触ったのでもうちょっといじりたいところではある。
「うーん、どうしようかなぁ? どうしたらいいと思います、藤さん?」
「そうですねぇ。イセのことですし、多少はやり返さないと反省しないと思うんですよねぇ。……あ、そうです」
藤さんはわざとらしく何かを思いついたようなそぶりを見せた。何だろう何だろう? あわよくばちょうど良いものが出てきますように。さすがに気絶するくらいの電撃はきついと思うので。
なんだかんだ言ってるけど、良心というものは多少痛むのだ。
「気絶しない程度の電撃なんてどうです? あれはなかなか痛いんですよね。でも気絶はしない。ちょうど良いとは思いませんか?」
「確かにそれはちょうど良いですね」
「では早速……」
ビリビリッ! とイセさんに電撃が走る音がした。あ、思ったより良心が痛んでない。よかったよかった。
「……ごっごめんなさいでっでし、た! もう次からっは、人間かどっどうか確かめるためにっ、祓おうっとしたりしませっん」
「はい、よくできました」
電撃の後に残るビリビリ感にやられながらもイセさんは謝ってくれた。個人的には藤さんの「よくできました」がツボです……、よくできましたって……、なんでこんなに面白いの。口元がぷるぷるしてる。それにしても笑いを堪えるなんて、いつぶりだろう。
というか、そうそう、この状況はなんだったっけ? 藤さんとイセさんは一体何者なんだ? 一番の謎はこの妖狐。本当に何者……? 僕を知ってるみたいだったけど。
「あの、ところでみなさん何者ですか……?」
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