第3話 祓屋やっとるで
「ああ、そういえば自己紹介まだやったね。俺は
「私は
祓屋、……世界にはいろんな職業があるんだなぁ。……すみません、未知との遭遇すぎてちょっとだいぶ分からないです。と、とりあえず僕も自己紹介しよう。うん、そうしよう。
「あのえっと、僕は
藤さんもイセさんも笑顔で頷いてくれた。次は、妖狐の自己紹介かな……? ダントツで気になる。どうして助けてくれたのかとか、どうして僕の名前を知っているのか、とか。その辺どうなんですか妖狐さん。
「わしの番かのう?」
「そうやな」
「わしは
妖狐──瑞花さんは耳と尻尾をぴくぴくと動かしてみせた。すごい、本物だ。疑っていたわけではないけど、改めて見ると謎に感動する。
さらっと聞こえたけど1000年は生きてる? つまり瑞花さんは軽く1000歳は超えている、と。……ダメだ、考えたら宇宙まで飛んでいくやつだ。
現実に戻ってこよう、うん、そうしよう。瑞花さんとの関係だよね。今一度記憶を辿ってみても今までの記憶に瑞花さんはいない。ならどこで知り合ったんだろう。
「……これ葉鳥、そんなにわしとの関係が気になるのか?」
そ、そんなに顔に出てたかな……? まあ気になるのは気になるけど。そんな心を込めて僕は頷いた。
「ふっふっふ、可愛いのう。いつまでも愛でていたくなるわい。わしは葉鳥の父に助けられたことがあったのじゃ。だから葉鳥が生まれる前からの付き合いじゃな」
付き合い、思ったより長かった。それに父さん、かぁ。妖狐を助けていたなんて聞いたことないよ。……あれ、本当にそうだっけ? 父さんは視える人で、だから僕をかばって……。
「……ぅ」
がんがんと響くような頭痛がする。目の前がぐにゃぐにゃする。音が、誰かの声が捻じ曲がって……気持ち悪い。──誰か、助けて。
だ、ダメだ。何考えてるんだ僕。独りでいないと、誰にも助けを求めちゃダメで……。だから瑞花さんたちとも関わったらいけない。……それは少し、いやかなりさみしい、けど。
でも、ダメだ。こんな僕が、父さんと母さんを殺してしまった僕が幸せになったら、ダメなんだ。
「──あれ、ここは」
また、あの闇の中にいた。そうだ、逃げないと。が、ぬかるみに足を取られたかのように動くことができない。動けば動こうとするほどはまっていってしまう。
『ハトリ、タイセツナコ』
『アイシテイルヨ、ハトリ。ダカラモウニゲナイデ』
足を掴んでいる黒い何かは、父さんと母さんの声で話しかけてくる。逃げないから、お願いだからその声で優しいことを言わないで。話しかけないで。
耳を塞ごうと手を動かすが、黒い何かに押さえつけられてしまう。動けない身体のように、心まで動かなくさせられる。
この暗くて辛くて苦しいまま、ずっといなければいけないのか。そう考えたら、涙があふれてきた。
『ドウシテナイテイルノ?』
『ツライノ? クルシイノ?』
そうだよ、辛くて苦しくて、真っ黒だ。でもこれも全部僕のせい。僕が父さんと母さんを殺したせい。だから、この真っ黒な心に囚われたままでいいんだ。
『──ソウダヨ。ゼンブ、オマエノセイ』
『モットツラクナレ、モットクルシメ』
僕の下半身と腕を掴んでいた黒い何かは、上へ上へと上がってくる。もうどうにもならない。これからはずっと闇の中。ならば一度くらい願ってもいいんじゃないか。願うのはこれで最後にするからさ。
──僕を、助けて。
「——あい分かった」
「……え?」
聞こえたのは瑞花さんの声。「あい分かった」って、え? 助けてくれるってこと、だよね? どうして、というかどうやって。ここは僕の夢の中で、夢の中での出来事から助けてくれるってどういう……?
「葉鳥、光をつかめ」
顔まで黒い何かが覆っているのに光なんて……。そんなものあるわけが——……あった。目では見えてないはずなのに、確かにそこに見える。これに手を……。
光に手を伸ばし、つかめたと思ったその瞬間、闇から引っ張り出された——。
「——葉鳥、よくぞ呼んでくれたな」
目を開けたら瑞花さんの顔が近くにあった。どうやら僕は倒れていたらしい。どうして倒れて……そうだった。悪夢に入り込んでそれで、助けを求めてしまった……? 僕は……どうして、なんで。助けなんて求めちゃダメなのに。求めてしまったら、また……。
——また僕のせいで助けてくれた人が死んでしまう。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
差し出しされた藤さんの手を、思わず払ってしまった。慌てて立ち上がり、3人から離れようとする。ふらふらとする僕を支えようと、イセさんが控えめに手を伸ばす。それをなんとかかわしつつ、大学のキャンパスから出ていった。
追いかけてきていないかと振り向いたが、あの3人の姿はない。……うん、これでいいんだ。さて、どこに行くべきか。
「どこに行くんじゃ?」
「うわぁっ!? 瑞花さん!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます